18.早速連携を試してみました
正直第一階層からだとぬるすぎて連携の確認ができないのだが、あくまでも準備段階なので無理することなく上から潜ることにした。
通いなれた第一階層。
本当はここでスキルを獲得しておきたい所なのだが、無理に収奪するのはやめておこう。
「予定通り先頭は任せた、そのまま対処してもらって難しい場合は援護に回るから」
「ホーンラビットなら大丈夫です」
「連携の確認はコボレート以降になると思うから気楽にいこう」
「わかりました」
武器を持ったま両手にぐっと力を入れる姿が何ともほほえましい、こんな若い子と潜る日が来るなんて正直思いもしなかったけど世の中何が起きるかわからない。
そう、こんな風に。
「すみませんすみませんすみません!」
「いいからそのまま地上に戻れ!」
「はぃぃぃぃぃ!」
やはりホーンラビット如きでは相手にならず散歩気分で一階層を進んでいた俺達だったが、突然前方から複数人の探索者が走って来た。
皆後ろを振り返りながら必死の形相で俺達を追い抜いていく。
最後の一人が追い抜いて行ったその後ろにはコボレートのように群れるホーンラビットの姿があった。
謝りながら走っていく彼らを見送り彼女と共に道をふさぐようにして立つ。
一階層でここまでのトレインが発生するのは珍しい、俺と同じ新人なんだろうけどもう少し覚悟を決めて潜ってほしいものだ。
「とりあえず予定通りにやればなんとかなる・・・はずだ」
「大丈夫ですよ。ホーンラビットぐらいなら耐えきって見せます」
「出来るだけ受け流してこっちに回してくれればいい、後は俺が何とかするから」
「流石和人さん、かっこいい!」
「そんなこと言う余裕があるなら大丈夫だよな」
魔物が前から迫ってきているというのに臆することなくむしろ笑顔を浮かべる桜さん。
それだけ俺の事を信頼してくれているんだろうけど・・・、いや、余計な事は考えないほうがいい。
魔物の群れに向かって重心を低くして盾を構える彼女から少し離れてこちらもすぐに動けるように小刻みに体を揺らす。
最初に飛び掛かってきたやつを素早く盾で振り払い、間髪入れずに突っ込んできたのをサイドステップで華麗に避ける桜さん。
振り払われてこちらに飛んできたやつをフルスイングで叩き潰し、サイドステップで避けられた奴が反撃しようと振り向いた無防備な背中めがけて棒を叩きつける。
なるほど、思っている以上に何とかなるもんだな。
流石の彼女も全てを避けるのは難しく正面から複数のホーンラビットが突進してくるとどうしても足が止まってしまうが、それをカバーするように前に飛び出して棒を振り回して攻撃タイミングを遅らせる。
時間的にはほんの数分なのだが、なんとかほぼ無傷でせん滅することに成功した。
「ドロー」
【ホーンラビットのスキルを収奪しました、突進。ストック上限はあと二つです。】
偶然ではあるものの最後の一匹を仕留めそこなっていたので、とどめを刺すふりをしてスキルを収奪しておいた。
彼女は周囲を警戒していたのかこちらに気付いた様子はない。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、とどめを刺しておいたところだ。しっかし、何とかなるもんだな」
「えへへ、和人さんが守ってくれていると思うととっても動きやすくて、変な事いうみたいですが楽しかったです」
「楽しかった・・・か、実は俺もそう思っていたところなんだ」
正直一人で戦うのに慣れ過ぎてちゃんと戦えるか不安だったんだが、誰かが相手の動きを止めてくれるだけでこんなにも動きやすいとは思わなかった。
今までは攻撃を受けるか避けてからしか攻撃するタイミングはなかったのだが、彼女がヘイトを稼いでくれることで俺がフリーで動けるようになるので的確に攻撃することができる。
それがまた気持ちよくて、楽しかったっていうのはある意味間違ってない。
「こんなに戦いやすいものなんですね、和人さんだからでしょうか」
「それはわからないけど、とりあえず何とかなるってわかっただけでも収穫だな。とりあえず素材を回収しよう、今日の晩飯はウサギ肉だ」
「やった!」
そこら中に散らばった角と肉を回収し隅に置いたカバンに詰め込んでいく。
肉を入れるための専用の袋があるので生肉を入れてもカバンが汚れる心配はない、ほんとなんでも売ってるよなぁドワナロクって。
気を取り直してそのまま一階層を走破して二階層へ、何度かコボレートの群れと戦闘してみたけどその都度役割分担をすることで無難に撃破する事が出来た。
もちろん三階層に降りてもやることは同じだ。
彼女にとって宿敵でもあるポイズンリザードだったが、特に苦手意識があるわけでもなく毒を避け尻尾の攻撃を受け流しそして俺が隙をついて攻撃する。
このコンビネーションが出来るなら確実に仕留めることが出来る6階層までは特に問題はないだろう。
探索にはあまり時間をかけず一直線に四階層へと向かい、最後は転送装置に乗って地上へと帰還した。
カバンにはまだまだ空きスペースがあるのでもう少し深い所に潜っても素材を取り残すことはないだろう。
「よかった、無事だったのね」
「お陰様で。そうだ、一階層から逃げてきた探索者はどうなりました?」
「ホーンラビット如きに追い回された新人たちは教官に再指導を受けることが決定したみたいよ。スキルを手に入れたからって調子に乗った報いだけど、君たちのお陰でけが人もなかったみたい。本当にありがとう」
どうやら無事に地上へと戻れたようだ。
教官、戦闘訓練担当の職員からの再指導はかなり厳しいっていう話だけど、自分の命を守れなかっただけでなくトレインして別の探索者を危険にさらしたわけだしそれぐらいはしてもらわないと困る。
まぁ、こちらは素材を美味しくいただけたので問題なかったけど。
「和人さんが全部倒してくれたんですよ」
「いやいや、俺はヘイトを稼いでくれたのを狙っただけだから」
「はいはい、そういう痴話喧嘩は向こうでやってくれるかな。あー、あついあつい」
ボインな職員が呆れた顔でシッシッとゴミを払うように手を動かす。
別に痴話喧嘩でもなんでもないんだけども彼女はまんざらでもないような顔をして・・・いやいや、こんな若い子を相手に勘違いとか恥ずかしすぎる。
そもそも今回の同居もパーティーもすべては父親からの頼みであって、下手な事をしようものなら探索者生活そのものが脅かされてしまう。
心穏やかに行かなければ。
「そ、それじゃあギルドに戻って買取してもらおうか。俺が手続しとくからまた30分後ぐらいに集合で大丈夫かな」
「さっとシャワーするだけなんで大丈夫です!」
「じゃあライセンスカード預かるね」
「いえ、報酬は全部和人さんが貰って下さい。ほら、私は家が家なので」
「だとしてもこの辺はしっかりしておかないと。討伐数の報告もあるからとりあえず預かるよ」
「あ!」
半ば強引にライセンスカードを回収してカウンターへ。
いくら家が金持ちでも俺だけ報酬をもらうってのはパーティーを組んでいる意味がないので、今後の事を考えてこの辺はキッチリしておくべきだ。
こうしてパーティーとしての初めての探索はトラブルはあったものの無事に終了したのだった。




