174.改めて考え直しました
「それじゃあ各自自由行動ってことで!」
「わかりました!」
「あの、私もいいんでしょうか。」
「いいのいいの、今和人君と一緒に行動すると大変なことになっちゃうから。女三人仲良く買い物しようよ。」
例の勧誘を受けた翌日。
女性陣?は特に気にする様子もなく朝から買い物に行くといって宿を出て行ってしまった。
俺はというとそういう気分にもならず部屋でゴロゴロ過ごすことに。
須磨寺さんの言うようにいい意味でも悪い意味でも有名になってしまったせいで露骨に外を歩けない状態なんだよなぁ。
一応リルの件は収まってはいるけれど、ネットで騒がれたことで城崎以外の場所でも知られることになってしまった。
それもこれもあの人が俺を支援すると宣言したからだ。
たかだかDランクの新人をAランクの探索者が支援を宣言するっていうだけでもお祭り騒ぎ。
この間ダンジョンに潜って階層主を倒している間にもさまざまな憶測が飛び交っていたようで、中には俺がギルドの偉いさんで権力を使って走破しまくっているっていう話もあるらしい。
そんな偉いさんだったらあんなボロアパートになんて住まないっての、とそれを読んで冷静にツッコミを入れている自分がいた。
ちなみに支援どころか直接所属しないかという話にまでなっているけれど、流石にそれを口外すると前以上に大変なことになってしまうので今はおとなしくしておこう。
あの人の事だから言いふらすことはしないだろうし今はゆっくり考えたい。
「考えたからって答えが出るわけじゃないし、とりあえず体を動かしてスッキリするか。」
階層主を倒した後ということもあり、ゴロゴロしながら休憩を取っていたけれども今後どうするべきかについて考えているせいか全く休まる気がしない。
こういう時は無理やりにでも体を動かして疲れた所に酒を投入、アルコールの力で寝るに限る。
「ってことで付き合ってくれ。」
「わふ!」
「今までは七扇さんの目があったけどやっと気にせず戦えそうだ。さすがにリルの本気には敵わないけどぎりぎりのところまでやってみたいからよろしく頼むな。」
スキルなしでリルに勝つのは絶対に無理、なんならスキルを使っても難しいかもしれないが出来るところまでやってみよう。
広い地下練習場で棍を構えてリルと向かい合う。
子犬の時はそうは思わなかったけれど今のリルとダンジョンで遭遇したら速攻で逃げる自信がある。
流石フェンリル、まだまだ成長期とはいえ十分大きな体と鋭い爪は易々と俺を切り裂くことだろう。
もちろんそのままやられるつもりはないけれど・・・いや、やる前から負ける気でいるのはよくない。
師匠にも言われたように限界に挑んでこそ成長がある。
俺はまだまだDランクのひよっこ、そんな俺が自分の力で蒼天の剣に入るためには今の何倍も鍛え上げなければ。
「先手必勝!」
紺を長く持ち挨拶代わりに勢い良く振り回し、避けられたところを今度は連続で突いて追い込んでいく。
手を休めたら反撃される、それが分かってるからこそ初手から一気に行かなければならない。
「グァゥ!」
連撃を易々と回避したリルがお返しとばかりに凍てつくブレスを吐いてくる。
あれにつかまれば即座に体温を奪われて動きが遅くなってしまうのだが、生憎と俺は冷気耐性持ち。
なんならリルといると完全耐性に切り替わるので俺にブレスは全く効かない。
「隙あり!」
まさか彼女も突っ込んでくるとは思ってなかったんだろう、いきなり目の前に現れた俺が短くした三節棍を振り回してきたので慌てて避けようとするも追い込みが激しく、壁際に追い込んでやっと一撃当てることができた。
が、どうやらそれが彼女の闘志に火をつけてしまったらしい。
「ちょ、ちょっとたんま!」
「ガウ!」
スイッチの入ったリルが今度は自分の番と猛攻を繰り出してくるのを必死に避けて受け流すも、あっという間に追い込まれてしまう。
このままじゃ速攻で負ける、そう判断した俺は即座にスキルを発動させた。
【フレイムホースのスキルを使用しました。ストックはありません。】
階層主から収奪したスキルを発動した瞬間全身が赤く燃え上がるのが分かった。
だが不思議と熱くはなくよく見ると皮膚の上から火が出ているような感じだ。
それはともかくいきなり俺が燃え上がったものだからリルが慌てて距離を取り、その隙に壁際から脱出。
よく見ると棍の先端まで火が伝わっている。
「なるほど、確かにフレイムホースっぽい感じだな。」
自分の体が燃え上がるという何とも不思議な感覚、流石のリルも炎は嫌なのか露骨に距離を取り始めた。
ということはさっき以上に攻撃を受けにくいという事、ならば再び俺のターンだ。
燃える水隕鉄の棍という何とも矛盾した装備を振り回しながら再びリルへと攻撃を開始、今度は適度に連撃を淹れつつフェイントも織り交ぜながら彼女の退路を断っていく。
これなら俺もいける・・・そう思った次の瞬間。
「あ・・・。」
リルが効かないとわかっていながらもブレスを発動、すると体を覆っていたはずの炎が静かに消えてしまった。
本体にブレスの効果は無くともそれ以外には効いてしまうらしい。
「ぐるるるるる。」
「落ち着けリル、話せばわかる。」
「グァ!」
「だぁぁぁ!悪かったって!」
まさかスキルを使われるとは思っていなかったんだろう、お怒りのリルがさっきのお返しとばかりに襲い掛かってくるのをただひたすら受け続ける。
若干本気なのか鋭利な爪がすぐ近くを通り抜けていく恐怖を感じながら、ただひたすら手と体を動かし続けた。
追い込んで追い込んで追い込んで、そして本当に何もできなくなる寸前まで体を動かしたところでついに倒れこんでしまった。
「まいった。」
「わふ!」
「次はもっとスキルを準備してから挑まないとなぁ。」
大の字になった俺の横に来て嬉しそうに頬をなめるリル。
浅い呼吸を繰り返しながらなんとか酸素を体中に巡らせていく。
やっぱり体を動かすのはいいものだ、なんせその間だけは余計なことを考えなくて済む。
ダンジョンとか探索とか旅団とか、考えるのも億劫なことばかりだけどとりあえず手と体を動かしていればそれを忘れることが出来ていた。
もちろん今はそれを思い出してしまっているけれど、アドレナリンの影響かそこまでネガティブな感情にはならないんだよなぁ。
そんなテンションの中考えを巡らせること数秒。
「よし、決めた。」
ウジウジしていたって仕方がない、俺が決めるべきは自分の夢に向かってどうやって進んでいくかだけ。
そこに旅団だとか世間の目だとかそういうのは一切必要ない。
俺はただ強くなって金を稼いでタワマンを買う、そしてそれを達成するには強くなるしかない。
夕方、有意義な休日を過ごした女性陣?を前に俺は先の考えを発表した。
「やっぱり旅団には入らない。」
「それが和人君の答えなんだね?」
「仮に入らなくても支援はしてくれるらしいからそれはありがたく受けるとしても、それでも俺が旅団に入るのはちょっと違うんだよな。旅団に入れば今みたいに探索する事はできないしなによりリルの扱いが難しくなってくる。加えて俺のスキルもあるし今のままの方が色々と動きやすいんだ。」
「僕たちは和人君の考えに従うだけだから好きにしてくれて構わないよ。」
「そうです、和人さんのいいようにしてください。」
結論は出た。
旅団に入るというありがたいお誘いながらも複数の事情から今回はお断りさせてもらうことにした。
全ては皆でダンジョンを走破する為。
自分たちがもう少し実力をつけて世間的な地位が上がってきているのであれば吝かではないけれど、今のままじゃお荷物でしかない。
加えて収奪スキルが世間に広まってしまうことにもなるのでもう少し実績を積んでから考えよう。
大丈夫俺達だけでもなんとかなる。
とりあえず次の目標は二桁階層の走破、その為の準備をやっていかなければ。
「みんなありがとう。とりあえず次の目標は十一階層以下を走破すること、その為にはいろいろと準備が必要だから明日以降はそっちを考えて探索しよう。ドワナロクに行ったんだろ?どんなものがあったか教えてくれないか。」
城崎ダンジョンの二桁階層より下はマグマの流れる灼熱地獄、それをどう攻略していくのかそこがポイントだ。




