173.思わぬ人が待っていました
死力を尽くした戦いの末見事フレイムホースを撃破、須磨寺さんに言わせればあんな強引な戦い方で倒した人は見たことがないらしい。
これも収奪スキルのなせる技、あれが無かったらおとなしく魔装銃でチクチクし続ける事しかできなかっただろうけど、ある意味自信につながったところもある。
師匠との鍛錬のおかげで今まで以上に動くことが出来ていたし、棍の扱い方も格段に上昇。
今後はリルにも相手役をしてもらいながら魔物の動き方やアグレッシブな戦い方を身に着けていきたいところだ。
桜さんも今回の一件でさらに自信をつけたようで氷装の小手が随分と気に入った様子、この先も魔物の攻撃を受けてもらうこともあるのでひとまず城崎ダンジョンでは継続して使ってもらうことにした。
そうなると俺が使う小手がないのでまたドワナロクで手配しないと。
「それじゃあ帰るか。」
「だね、もう全身汗だくで干物になっちゃうよ。」
「リルのブレスを随分と浴びていたように見えたけど?」
「それはそれ、これはこれ。ありがとねリルちゃん。」
「ワフ!」
まったく、フレイムホースを完封するリルのブレスをクーラー扱いできるのは須磨寺さんぐらいなもんだろう。
リル自身は気にしていないみたいだから別にいいけど、上に戻ったらご褒美をやらないとな。
なんてことを考えながらリルをブレスレットに戻して転送装置を起動。
一瞬の暗転の後、涼しい洞窟内へと戻ってきた。
「やぁ。」
「え?」
「そろそろ戻ってくることだと思って待ってたんだよ。」
ギルドでの手続きは須磨寺さんに任せてさっさと宿に戻ろう、そう思っていたはずなのに突然声をかけられた相手に思わず体が固まってしまった。
月城ゆずる。
この間俺を助けて?くれたAランク探索者が再び俺達の前に現れた。
なんでこんなところに、と思ったところで逃げるわけにはいかないわけで。
本来であれば鉱石目当ての探索者であふれている入り口がこの状況ってことは、また貸し切りにしたんだろうか。
「・・・何か?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、疲れているのはわかっているし少しだけ話が出来ないかな。」
「少し?」
「あぁ、五分いや三分あれば終わる話だ。もちろん他のみんなもいてもらって構わない。」
その時間で解放してくれるのならば、別に話を聞くだけであって承諾するわけでも強制されるわけでもない・・・はずだ。
どちらにせよ聞かないという選択肢はない、なんせこの人にはあの場で助けてもらっているしその貸しがある以上、下手なことはできないからな。
「座っても?」
「もちろん。その様子だとフレイムホースを倒した後だね。この短期間でまさか十階層迄到達するなんて、フェンリルが味方とはいえそれだけじゃない気がするよ。」
「それが話なんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、とりあえずみんなも座ってもらって構わないよ。」
城崎ダンジョンの件については色々と知っているみたいだし、リルの存在をいまさら隠したところで意味はない。
俺達を待ってたっていうけれど今回は何階層に潜るとか一切説明していなかったし、どのぐらいかかるかも未知数の筈。
時間的にかなり待っていた可能性もある、いったいなぜそこまでするんだろうか。
ひとまず入り口横に設置された打ち合わせ用の机に腰掛けるも緊張は解けない。
本人はずっとニコニコしているがいったい何をしようというのだろうか。
「疲れているだろうから単刀直入に聞くけど、君たちは蒼天の剣に興味はないかな。」
「え?」
「僕たちの旅団については知っていると思うけど、この間の献身や篠山ダンジョンでの功績も含め君達にはその権利があると思っている。ダンジョンの治安と平和を守る活動に是非参加してみないか?もちろん探索を優先するのは構わない、まだまだ実力を積む必要はあるだろうしもし助力が必要なら喜んで手を貸そう。道具や装備が必要なら提供する用意もある、もちろんこれは他の探索者も有している権利だから君だけ特別扱いしているわけじゃないけれど、それでもDランクで入れるのは後にも先にも君だけだろう。」
「和人君が蒼天の剣に?これはすっごいサプライズだね!」
「まだDランクなのにすごいことですよ和人さん!」
まさかの提案に大喜びの二人、普通に考えれば大喜びするところなんだろうけど疲れているからか素直に喜べない自分がいる。
本当にこの旅団に入って良いんだろうか。
これまで桜さんとやってきて、そこに須磨寺さんが来て、今後は場合によっては七扇さんにも入ってもらいながらやっていこうって考えていたところにこの誘い。
入ることのメリットはいくらでも思いつくけれど、デメリットの方もそれなりにある。
ぶっちゃけ隠していることが多すぎるだけにそれのせいで自由に動けないという弊害があるんだけど、それを白日の下にさらして本当にいいんだろうか。
蒼天の剣であれば後ろ盾としては申し分ないし、何かあっても守ってくれる気はする。
だけど今の時点でそれをしてくれるという保証も安心も信頼も何一つ持ち合わせていない。
「返事はいつでも構わない、僕たちは君達を歓迎するということを知ってもらいたかっただけだから。」
「その為だけにここを封鎖したんですか?」
「人の妬みや嫉妬がどれだけ恐ろしいか、それを君に背負わせるというのはあまりにも酷だからね。」
「お気遣いありがとうございます。」
「それじゃあ僕はこれで、疲れているところ悪かったね。大道寺さんと須磨寺さんもお疲れ様。」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様でした。」
さわやかな笑顔を振りまきながらイケメン月城さんが去っていく。
その背中を見つめながらもなんとも言えない気持ちになっている自分が嫌だった。
同じ探索者なのに俺とあの人の差は一体何なんだろうか。
俺はただタワマンを買いたいがために探索者をやっている、だけどあの人はダンジョンの平和と秩序を守るという大義のために戦い続けている。
そんな人の旅団に俺みたいなのが入ってもいいんだろうか。
この間の件だってある意味金のためにやったもんだし、篠山ダンジョンだって記録を達成するため。
結局のところ自分の為にしか動いていないわけだ。
強くなりたいのもそう、目標であるC級ダンジョンに潜るために必要だから。
そこまで行けば今まで以上に稼げるようになるしそこまで行ける実績があればある程度自分を守ることができる。
岡本さんや木之元さんとの関係もそういう後ろ盾の一つなわけだし、すべては保身のため。
決してあの人が言うような崇高な考えで動いているわけじゃない。
もちろんあの人もすべてがそうではないだろうけど、少なからず世間の目はそうだ。
俺をダシに使って自分を良いように見せたいだけとは言っているけれど、やっている事は正しいわけだしそれですくわれている人もいる。
なんだろう、探索者としての格の違いを見せつけられたような感じだ。
向こうは一流役者で俺は三流、横に立ったところでそれは変わらない。
「和人君?」
「ん?あぁ、ごめんちょっと驚いただけだから。」
「そうなるのも無理ないよ。僕だったら漏らしちゃうね。」
「漏らしたのか?」
「まさか、君達とは言われたけど僕は含まれてないと思うよ。」
「そんなことないですよ!綾乃ちゃんがいるからうまくダンジョンを走破できているわけですし、これからも一緒です!」
「桜ちゃんは優しいなぁ、僕嬉しくて泣いちゃいそうだよ」
須磨寺さんが気を利かせて空気を和ませてくれているけれど、結局ダンジョンを出ても俺の気持ちが晴れることはなかった。




