17.ギルドで手合わせをしました
ドワナロクを出たその足で探索者ギルドへと向かい、ライセンスを提示して新人向けの練習場を貸してもらう。
いつもなら受付の女性が手続きしてくれるのだが、なぜか今日は講習をしてくれたあの職員が担当だった。
「ちょうど一部屋空いたところなんだ。ナイスタイミングだね、練習かい?」
「ダンジョンに潜る前に色々確認しとこうと思いまして」
「新明君は期待の新人だからね、彼と一緒なら心配ないとおもうよ。それじゃあ頑張って」
「ありがとうございます!」
いつの間にか期待の新人とやらにされてしまったが当分は深く潜るつもりはないのでその噂もすぐに消えるはず、練習場は小学校の体育館を半分にしたぐらいの広さがあり天井は高く魔法の衝撃にも耐えられる作りになっている。
二人共まだまだ新人な上に魔法なんて使えないのでここまで広い必要はなかったんだが・・・、まぁいいか。
「それじゃあお手並み拝見と行こうか」
「よろしくおねがいします」
「勝敗はどっちかが膝をつくか、もしくは負けましたというかのどちらかで。あくまでも手合わせだからやり過ぎないようにしてくれると助かるんだけど」
「それは和人さん次第です」
更衣室でいつも使っている防具に着替えてからバスケットコートのような線に向かい合って武器を構える。
話に聞いていたように片手剣と胸元を隠すぐらいの少し小さい盾を構えて戦うスタイルらしい。
足元は俺と同じようなブーツっぽい感じの靴だが、金属製の脛当てを身に着けて盾の無い部分もしっかりとカバー、その代わり上半身は胸当てぐらいなもので頭には練習用のヘッドギアを装着している。
俺はというと革製の鎧を上半身に下半身は腰当と前に買ったブーツの併用で脛当ては装備していない、後は同じようなヘッドギア。
本当はもっと重装備にした方がいいんだろうけど、あまり重装備にすると動きが制限されてしまうので難易度の低い武庫ダンジョンではこのスタイルで行くつもりだ。
二人しかいないので合図のようなものは無いが、お互いににらみ合いながらほぼ同時に動き出した。
まずは桜さんが盾を手に突進、それをサイドステップで避けながら俺も足を狙って棒を振りぬくも盾でしっかりと防がれてしまった。
棒を相手に距離を取るのが得策じゃないという事はよく知っているようでその後もしきりに距離を詰めながら、こちらを攻撃してくる。
的確な急所狙いに素早い回避、そして堅実な防御。
このぐらいは大丈夫だろうではなく、防げる攻撃はしっかりと防ぎながら受け流せる攻撃は受け流す。
対人戦に自信があるというだけあってどんどんとこっちの体力が奪われていくようだ。
「和人さん、疲れてきてますよ!」
「それはこっちのセリフだ、足元が甘いぞ」
「それぐらい・・・キャ!」
何度目かの打ち合いの後、逃げようとする足元を狙って棒を水平に振りつつ強引にその動きを止めて今度は大きく振り上げる。
そのまま横薙ぎに動かすと思っていたんだろう、不用意にジャンプしたせいで避けることが出来ず足首に棒が当たりそのまま姿勢を崩したところを今度は俺が一気に近づいて着地と同時に連撃を加え、バランスが崩れてお尻をついた所で喉元に棒をぐっと突きつけた。
これで勝負ありだ。
色々修練は積んでいたという話だったしスキルを使わなかったときの実力は恐らく俺よりも上なんだろうけど、魔物相手の泥臭い戦い方をまだ知らなさそうだ。
綺麗に勝つのではなく泥臭く殺す、これが対人戦と魔物との戦いの一番の違い。
如何に相手の急所を狙い、潰し、とどめを刺すか。
漫画に出てくるような凄い動きとかが出来ればいいんだろうけど、そんな事をせずに泥臭く戦う方が俺の性には合っている。
「まいったか?」
「まいり・・・ません!」
「おっと!」
盾を捨てたかと思ったらそのまま俺の棒を強引につかみ、自分に引き寄せるようにして体勢を崩しに来た。
慌てて引っ張って構え直す頃には向こうも盾を拾い直しており、また一から向かい合う形になってしまった。
泥臭いのが勝つか、それとも綺麗な戦いが勝つか。
その後、何度か勝負がつきながらも二時間ほど汗だくになりながらお互いの動きを確認しあった後は休憩を兼ねて一時解散することに。
「それじゃあ一時間後に集合で」
「わかりました!」
ポイズンリザードになんて負けないと言っていただけあって、実際に戦ってみるとなぜあの時負けたのか不思議なぐらいに良く動けていた。
やっぱり経験不足が原因だっただけで実際は俺よりも強い気がする。
もちろんスキルを使わない事前提ではあるけれど、基礎がしっかりしていると応用もし易くなるっていうし今後は定期的に手合わせをしてもらって自力の底上げをさせてもらうとしよう。
買い物も手合わせもしたので今日はもうゆっくりとするつもりだったのだが、お互いに手合わせしたことで何かに火が付いてしまったのか実際にダンジョンに潜る話になっていた。
もちろん手合わせと違って一歩間違えばケガもするし命の危険だってあるけれど、お互いに背中を守るのならば実際に戦いながらが一番手っ取り早い。
まぁ早いか遅いかの違いだけだし、いつかは潜るんだから問題はないだろう。
マッサージチェアに体を沈めて筋肉のコリをほぐしながら半分うとうとしていたところで停止のアラームが鳴り、慌てて飛び起きたのは内緒だ。
「お待たせ」
「私もちょうど今来たところなので」
「それ、男のセリフじゃないか?」
「別にどっちでもいいと思いますよ、本当に今来たところですから」
残念ながらうら若き乙女の湯上り姿ではなく完全武装ではあるのだがこの姿も中々悪くはない。
買ったばかりの道具をカバンに詰め込み足りない物をギルドの購買で補充する。
少し割高ではあるけれどダンジョンに潜ればこのぐらいは回収できるのでマイナスは出ないだろう。
これはあくまでも試験的な物だ。
今日手合わせをしたのがちゃんと魔物に通用するのか、それ次第ではやり方を考えないといけないし装備の変更も視野に入れなければならない。
どちらにせよ頭で考えるよりも体で感じる方が話が早いってことは二人とも同意見だ。
「あれ、お二人共これからダンジョンに?」
「ちょっと確認したいことがあるので」
「それは構わないけど、まぁ和人君がいれば大丈夫ね」
「どういう基準ですか?」
「わずか三日で七階層到達は近年まれに見る高ペースだもの、みんな期待しているのよ」
「何にですか?」
「君が単独制覇してしまうんじゃないかって事。でも今日はお試しみたいだし頑張ってらっしゃい」
久々にボインな職員さんがダンジョン前に立っていた。
ぶっちゃけそんな期待をされても困るのだが、俺は俺のペースで潜るつもりなので気にしないでおこう。
それにしばらくは彼女と一緒に潜ることになるわけだしその記録もお預けだろうな。
お互いにライセンスを提示していざ武庫ダンジョンへ。
「さぁ、頑張りますか」
「はい!」
ブラック時代に何度か複数人で潜ったことはあるけれど、二人だけっていうのは案外初めてかもしれない。
はたしてどうなる事やら。




