168.敵の動きを止めれば簡単でした
ガーゴイルから収奪した擬態スキル。
試しに使ってみたのだが、まさかまさか自分がガーゴイルになる日が来るとは思わなかった。
もちろん自分では全く分からないんだけど見ていた桜さんと須磨寺さん曰く一瞬で姿が変わったらしい。
気配も全く感じなかったので本当に擬態できているような感じだ。
まぁ魔物に襲われているときとか逃げたい時には効果があるんだろうけど、ぶっちゃけそんなタイミングはなさそうなので使うのは今回ぐらいなもんだろう。
そう、今回の狙いは八階層に出るもう一体の魔物。
その名もジュエルスカラーべ。
全身が宝石で出来ているスカラベ、ようはフンコロガシ的な虫。
もし倒すことが出来ればドロップは宝石の原石が確定、その中でもダンジョンでしか手に入らないものになると平気で一個十万以上するらしい。
なぜそんなに高いかというとズバリ逃げ足が速いから、それはもう1秒で時速100kmに達するらしく視界に入った瞬間に明後日の方向に逃げ出してしまうんだとか。
運よく壁際に追い込んだとしても股の間とか天井の隙間から逃げ出してしまうらしく撃破報告は殆ど無し、可能性で言えば視界に入る前に無差別爆撃よろしく攻撃魔法を打ち込むことで稀に倒すことができるそうだけど、それでもお目当ての宝石が出るとも限らないし無差別攻撃に反応したガーゴイルが一気に襲ってくる可能性もあるのでよほどの理由がない限りやらないだろう。
そんな魔物が今回の獲物、一瞬で逃げ出す魔物も気づかれなければ問題ないし更には逃げ出せないようなスキルも用意している。
先程手に入れた石化(弱)、完全に石にしてしまうわけではないけれど数秒動きを止める程度には足止めできるのでそれだけ時間を稼げれば倒すのは問題ない。
ってなわけで新たなる金策を夢見てスカラーべ退治としゃれこもうじゃないか。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は十分後です。】
【ガーゴイルのスキルを使用しました、ストックは後二つです】
早速スキルを使用して擬態を開始、桜さん達には離れてもらってそいつがやってくるのを静かに待つ。
少しでも動くと擬態が解けてしまうのでエコースキルも同時使用して周囲の状況を確認、幸い座ったまま擬態スキルを使っても見た目は普通のガーゴイルと同じなのである程度動かないでいることは出来そうだ。
それでも30分とかは流石に耐えられないので早く来てもらわないと困るんだが・・・。
そんな風に待ち構える事10分弱、いい加減数を数えるのも飽きてきた頃エコースキルに奴の反応があった。
ダンジョン内を高速で動き、石像の下に身をひそめながら移動する魔物。
虹色に光るそいつは俺の前で止まると不思議そうにこちらを見上げてきた。
ヤバい、バレるのか?
そんな不安を感じながら静かに息を殺す時間がものすごく長く感じたが、何事もなかったかのように正面の石像まで移動した。
ちょうど俺に背を向けるような感じ、タイミングは今しかない。
【ゴルゴンスネークのスキルを使用しました、ストックは後六回です。】
スキルを発動と同時に擬態は解けてしまったが、その一瞬さえあれば問題ない。
逃げ出すよりも早くスカラーべの体が灰色に変わり動きが止まった。
「よし、今だ!」
最大にして最後のチャンスを逃さず上段から棍を思い切り叩きつけると見事灰色の体はバラバラに砕け散った。
ぶっちゃけスキルも気になったけれどとりあえず今は倒すことが最優先、次回余裕があれば収奪に挑戦してみよう。
破片はすぐ地面に吸収され、残ったのは黄色い原石。
どんな宝石かは調べてみないとわからないけれどとりあえず倒せてよかった。
「さすが和人君!やっぱり収奪スキルは反則だね!」
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだよ。」
「もちろん褒めてるんだよ。まさかあのジュエルスカラーべがこんな簡単に倒せるなんて、このやり方をし続ければ確実に宝石が手に入るわけでしょ?これはちょっとやばいね。」
「あまりやりすぎると怪しまれちゃうやつですか?」
「うん、滅多に市場に出回らない魔石を毎回ポンポン買取に出してたらどうやってるんだって絶対に追及されるだろうから、売りに出すときは間隔をあけるかオークションとかそういうのに出して現金化する方がいいだろうね。」
まるでマネーロンダリングしている気分になるけれど、それだけドロップ数が少ない素材だけに取り扱いには気を付けなければならない。
何でもかんでも手に入れて売ればいいってわけではないようだ。
「とはいえ手に入れておくに越したことはないだろ?」
「もちろん!別に売りに出さなくても自分達で加工して使う方法もあるわけだしね。和人君、僕はおっきなダイヤモンドが欲しいなぁ。」
「却下で。」
「えぇぇぇぇ!桜ちゃんも欲しいよね!?」
「私は・・・ピンクダイヤがいいです。」
「だよね!やっぱりほしいよね!でも僕と桜ちゃんだけだと凛ちゃんがかわいそうだから・・・彼女はやっぱりサファイアかな?あーでもでも、アレキサンドライトとかも綺麗だしラピスラズリもいいよね。」
どうやら須磨寺さんの中で七扇さんは青色のイメージらしい。
っていうかなんで女性陣に宝石を送るっていう話になっているんだろうか。
確かに手に入れたまま眠らせておくのはもったいないとはいえ、それを三人にポンと渡すってのも・・・いや、均等割りという意味では妥当なのか?
そうなると俺にも何か宝石があてがわれるわけで。
俺に似合う宝石ねぇ、考えたこともない。
「和人君はやっぱりルビーだよね。」
「俺が?」
「ガーネットも綺麗ですよ。」
「いや、なんで俺が赤なんだ?」
「そりゃもちろんリーダーだから?」
「リルちゃんは白ですし、なんとなく雰囲気がそんな感じだったんですけど嫌でしたか?」
「嫌っていうかみんなにはそんな風に見られているのか。」
須磨寺さんのリーダーはともかく俺って赤色なのか、まったく考えたこともなかった。
どっちかっていうと青とか紺が好きだからそっち系の色かと思ったんだがどうやらそうではないらしい。
まぁ自分でつけることはないので関係ないといえば関係ないんだけど。
「絶対似合いますよ。」
「そりゃどうも。」
「それじゃあ全員分の目指して後六回、頑張ろう!」
「マジでやるのか?」
「もちろん!この階層はある意味休憩ポイントみたいな感じだし、ガーゴイルを倒して宝石を狙いつつジュエルスカラーべから確実に宝石をゲット!完璧でしょ?」
完璧かどうかはさておき、これを後六回も続けるのはちょっと大変なんだけどなぁ。
次の階層主まで後一階層、体力回復という意味ではこのぐらいゆっくりするべきなんだけど二人は休めても結局俺は気を張り続けなければいけないわけで。
ま、やるだけやるけどさ。
石化スキルがなくなれば倒せなくなるので必然的に先へ進むしかなくなるわけだし、それまでの辛抱だ。
それに大当たりが出れば俺の夢にも一気に近づくわけで。
目指せタワマン!目指せ大当たり!ってね。
そんな欲望まみれの夢を目指し次なる宝石を探しダンジョンの奥へと進んでいくのだった。