165.今後について話し合いました
「というわけで、ネットを見る限りリルちゃんの件はほぼほぼ話題になってない感じだね。そっちに詳しい知り合いに聞いてみたけどリルちゃんを実際に見たっていう人は殆どいなくて、それっぽいのを見たっていう話が勝手に広まって断定されたって感じみたい。それよりも今は月城ゆずるに認められた探索者ってことで和人君の注目が増し増しみたいだよ、よ!有名人!」
あれから二日。
世間の目から逃れる為にダンジョンへは潜らずただひたすら宿に引きこもって鍛錬を続けていた。
最初は後ろ盾もあるんだし大丈夫だろうと思っていたんだけど、七扇さんからダンジョン前がすごいことになっているという情報をもらって急遽帰還。
ほとぼりが冷めるまで大人しくしていようということになった。
その時間を使って須磨寺さん達が色々と情報収集してくれたみたいだけど、なんていうかめんどくさいことになっているみたいだ。
「そういうのマジで勘弁してほしいんだけど。俺なんてついこの間までボロアパートで暮らしていた元ブラック企業の社員だぞ?追いかけて何が楽しいんだよ。」
「あ、それについてはもう調べられているみたい。」
「ネットまじこええぇ!」
こんな何のとりえもないような人生を追いかけて何が面白いんだ?っていうか追いかけられるものなのか?
ネットは怖いって昔から聞くけどまさか自分が当事者になる日が来るなんて。
「ちなみになんて書かれてるんだ?」
「んー謎多き探索者だってさ。今迄特に目立った感じはなかったのにいきなり武庫ダンジョンの単独走破記録更新を打ち立てて、それからすぐに篠山ダンジョンの単独走破記録を更新。その際に蒼天の剣でもなしえなかった篠山ダンジョン氾濫を一人で鎮めたっていう話も出てるけど、これに関しては詳細不明。後は須磨ダンジョンと御影ダンジョンを走破して川西ダンジョンでも見かけたことがあるって噂になってるぐらいかなぁ。使用スキルは不明、これに関してはギルドの守秘義務があるから当然だけどともかく短期間で複数のダンジョンを走破している実力者ってことで月城ゆずるが目を付けたっていうことになっているみたい。」
「嘘でも何でもないんだけど、やっぱり出来すぎてるよな。」
「まぁねぇ、収奪スキルがそもそもあれだけどリルちゃんもいるから実質一人で三人分ぐらい戦えているからそりゃ効率いいわけだよ。あ、桜ちゃんも話題になってたよ。」
「私ですか!?」
「謎の探索者と一緒に行動する美少女タンカーだって、いいないいなー僕なんて何の話題にもならないんだよ?こんなに可愛いのにさ。」
自分が話題にならないからって随分と不貞腐れた顔をする須磨寺さん。
探索者としては話題にならないだろうけど運搬人としていろいろな方面から話題になっていると思うけどなぁ。
あの日俺達の間に入ってくれた時も随分と質問攻めにあったみたいだけど、どうやらBランク探索者だったってことは秘密にしているみたいでそれもあって話題に上がってないんだろう。
それに一緒に行動し始めたのもつい最近だしその頃は御影ダンジョンの下層に潜っていたからあまり一緒にいる所を見られていないからかもしれない。
「お父様の名前とかはでていませんか?」
「それはないみたいだね、探索者名は出てるけど和人君と違って単独走破とかはしていないから怪しまれてはいないみたいだよ。」
「よかった。」
大道寺という名前自体は珍しいけれど、まったくない名前でもないので勘ぐりこそすれど追及はされていないんだろう。
それに大きい家なので何人かは探索者になっているらしいからそのうちの一人っていう感じで見られているのかもしれない。
仮に追及されたとしてもあの人の事だから権力的な何かでうやむやにしてしまいそうな気もする。
もしかしたら俺もそういう部分で守られているのかもしれないなぁ。
「ギルドにも問い合わせがすごいんです。どんな人なのかとか、誰と一緒に潜っているのかとか。もちろん守秘義務があるのでお答えしていませんけど、上が上なのでもしかしたら城崎ダンジョンでのことは外に出ているかもしれません。」
「それって完全アウトだよな?」
「アウトだねぇ。これでまた一つ余罪が追加されちゃうわけだけど、まだ寝かせとくの?」
「月城さんからあまり首を突っ込みすぎるなって忠告されたからしばらくはそうするしかないだろう。一応木之本主任とか岡本さんが動いてくれているみたいだから七扇さんが手に入れてくれた音声データさえあればどうにかなるはずだ。」
「そもそもギルドの偉い人とこんなにもとつながっているっていう部分でも和人君は普通じゃないよね。」
木之元さんや岡本さんに関しては俺がどうこうというよりも向こうから話しかけてきたわけだし、それを言われると何か違う気はするが世間的には違うんだろうなぁ。
下手に接点があるとなると不正だとか癒着だとか言われるのかもしれないが、まぁあの人たちがそんなことを許すはずもない。
「ともかくだ、いつまでもこのままでいるわけにもいかないしいずれは外に出る必要があるんだけど、ぶっちゃけどう思う?」
「どうとは?」
「このまま城崎ダンジョンに潜るべきかそれとも別のダンジョンに潜るかってことですよね?」
「だな、世間の目がどうであれいつまでもここにいるわけにもいかないし稼げないのなら一回家に戻るって手もある。D級ダンジョンは他にもあるからあまりにも人目があるなら別の所で走破すればCランクになれるわけだし別にここにこだわる必要もない。」
「んー、それなんだけど僕はあえてこのままでいいと思うな。」
「というと?」
「次に潜るのは七階層でしょ?元々六階層以降は環境の悪さから潜る人は少ないし、二桁階層からは難易度も跳ね上がるからそこまで気にしなくてもいいんじゃないかな。気になるのはギルドの動向だけど、そこは凛ちゃんから情報を回してもらうとして、あそこを掃除するなら引き続き和人君を餌にするのが一番だと思うんだよね。」
いや、餌ってどうなんだ?とツッコミを入れつつも確かに須磨寺さんの言う通りなんだよなぁ。
他所に行ったところでもう名前も顔も広まっているわけなんだから、それなら今のまま潜り続けて普通の人が入れない場所に行き続ければいい。
ただでさえ城崎ダンジョンの低階層は人気がないので潜るのは走破目的の人かレア鉱石狙いの人ぐらいなもんだろう。
リルをどうするかっていう問題はあるが、噂になった以上隠し通すのは難しいしいっそのことこの辺で公表してしまうという手もあるだろう。
そうすれば逆に収奪スキルを隠し続けることができるのである意味いい機会かもしれない。
もちろん自分から公表するつもりはないけれど隠す必要がなくなれば俺達も色々とやりやすくなるはず、せっかくあの人が後ろ盾になってくれたのならそれを使わない手はないだろう。
「餌扱いはどうかと思うが、わざわざあの不快な環境に突っ込んでくるやつはいないだろうし折角半分潜ったのにここでやめるのは正直惜しい。問題はギルドを通るところなんだが、まぁ何とかなるか。」
「最悪ライセンスカードだけお預けいただけたらこっちで何とかしますよ。」
「だって、さっすが凛ちゃんたよりになる~。」
「それじゃあ引き続き城崎ダンジョンに決まりですね!」
「最初はかなり大変だろうけど、引き続きよろしく頼む。」
「和人君はもう有名人だもんね。今のうちにサイン書いてもらっていた方がいいかな?せっかくだしここに所有物って書いてもいいよ?」
そういいながら自分の頬を人差し指でトントンと叩く須磨寺さん。
いや、誰の所有物でもないしそもそもそれはサインじゃない。
別に有名になったところで何かが変わるわけでもない、とりあえずやるべきことは決まったのでそこめがけて気合を入れなおそう。
明日は城崎ダンジョン七階層。
そして目指すは十階層だ。