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164.高ランク探索者に支援してもらうことになりました

鈴木さんにお願いをして自動ドアを開けてもらい、誘導されるようにドワナロクの外へ出る。


桜さんには念のため中に残ってもらった。


ただでさえ悪目立ちしているのにさらに大道寺グループの社長令嬢と一緒となればどんな反応が出るかわかったもんじゃない。


一緒に行動しているのは周知の事実とはいえこの状況でわざわざ出てくる必要はないだろう。


「新明さんが出てきたぞ!」


「月城様も一緒だ。」


「なんであいつと一緒なんだ?」


「何か関係があるのか?」


月城さんがいきなりやってきたと思ったら、今度は探していた俺が出てきたもんだから野次馬たちが騒ぎ始めている。


俺に任せてくれとこの人は言ったけれど本当に大丈夫なんだろうか。


正直なところ今でも信じていいのかわからない、だけどこの状況を打破するカードがない以上新たに出されたものにすがるしかないわけで。


ここはただ彼の言葉を信じるしかない。


「皆さんこんな時間にも関わらずお集まりいただきありがとうございます。今日ここに来たのは他でもない、ここにいる優秀な彼を紹介したかったからです。今はネット上で色々な推測が広まっていますが全ては僕の失敗が引き起こしてしまった事、本当に申し訳ありませんでした。」


いきなり深々と頭を下げる彼に野次馬からどよめきが起き、即座にたくさんのフラッシュが襲い掛かってくる。


あまりの眩しさに顔を背けてしまったが彼が顔を上げるとすぐにそれも収まった。


「ここに集まった皆様の関心は先日の御影ダンジョンにおいて彼がフェンリルを使役しているのではないかということですが、そもそもそれに関して我々が開示を迫ることはできません。これはスキルの開示を求められないのと同じで探索者に許された権利でありそれを侵害することは僕たち探索者への冒涜に他なりません。あの日僕があの場に居ながら悲劇を防げなかったのは御影ダンジョンを一度も走破していなかったから、Aランク探索者として多くのダンジョンを走破しなければならない立場にありながらその職務を怠慢した結果あのような事故が起きてしまいました。」


彼の言葉に誰もが耳を傾け、カメラを構えた人でさえファインダー越しではなく自分の目で彼を見つめている。


これこそがAランク探索者月城ゆずるという人の持つ力なのだろうか。


「そんな中、彼は他ダンジョンの探索後にも関わらずギルドの要請を快託し現地で多くの命を救っています。現に僕が到着した頃にはもう救助はほぼ終わっていて、救えたのはわずかに二名。しかしながら彼は六名もの探索者を救い、二名の亡骸を守り抜いた。僕たちが称えるべきは彼の功績でありその結果、過程において何が行われていたかなんてのは些細なことにすぎません。どうか今日は新明和人という素晴らしい探索者がいることを覚えて帰ってください。彼はいずれ僕の隣に立つ可能性を秘めた実力ある探索者、今後僕たち蒼天の(つるぎ)は彼の活動を全面的にサポートすることを宣言します。」


「おい!月城ゆずるが彼をサポートするってよ!」


「違うって、一流クランがたかだかDランク探索者を認めたほうがやばい!これはビッグニュースだぞ!」


「Aランク探索者に認められるほどの実力、いったい彼は何者なんだ。」


突然語られた内容に誰もが驚きを隠せず動揺しているが、俺もまたそのうちの一人。


蒼天の剣といえば国内でも有数の探索者旅団。


複数のパーティーを有する団体は旅団(クラン)を結成し毎日多くのダンジョンに潜り続けている。


探索者の目的は様々あるけれど、蒼天の剣が掲げている理念は『ダンジョンの治安維持と安定』


この間のようなダンジョン内での事故や氾濫を未然に防ぐことを目的に活動しており、所属する探索者の数は三桁をゆうに超えているとか。


そんなすごいクランが俺を支援してくれるだって?


一体何がどうなっているんだ?


「すみません月城様!一つだけよろしいですか!」


「何かな?」


「城崎ダンジョンの氾濫を彼が未然に防いだという情報は本当ですか?あそこは確か氾濫前に蒼天の剣が突入して失敗したダンジョン。彼だけで防いだとは到底思えないのですが。」


「それに関しては後日ギルドから正式な発表があるだろうからそれまでは僕の口からは何も言えないんだ。守秘義務というやつでね、それで許してもらえないかな。」


「・・・わかりました。」


守秘義務を出されては記者も何も言えないようだ。


月城さんとは御影ダンジョン走破時に一度会っているけれどあの時すでに篠山ダンジョンの真相を知っていたんだよなぁ。


それでいてフェンリルという凄い存在に興味がないとハッキリ言いきり、加えて大勢の前で自分が後援していると宣言することで話題をそちらにむけて噂をなかったことにしようとしている。


本人は自分をよく見せるためのダシに使いたいといっていたけれどなぜここまでしてくれるんだろうか。


興味がないといいながらもここまでするのには何か理由があるはず、だけど今の時点でそれを追及するのは難しそうだ。


「和人さん大丈夫ですか!?」


その後も質問攻めは続いたけれど全て月城さんが引き受けてくれるらしく、先にドワナロクへ戻るように促された。


自動ドアを開けて建物の中に入った次の瞬間、あまりの展開に脳がついていかず崩れ落ちそうになるのを鈴木さんが素早く支えてくれた。


「ひとまず奥へいきましょう、ここはまだ外から見えます。シャッターを!今日はもう閉店します。」


入り口のシャッターがゆっくりと閉まる音を背中で聞きながら奥へと進むと、桜さんが心配そうに駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか和人さん。」


「大丈夫なような大丈夫じゃないような、今でもよくわからない。」


「突然のことに気が動転しておられるのでしょう、まさかあのような提案をされるとは誰も思いませんから。」


「お見合いの時もそうでしたけど月城さんは普通とは違う視点で物事を見ているみたいでした。今回も何か意図があるんだと思うんですけどまさか蒼天の剣が後援してくださるなんて。」


美味い話には裏があるというぐらいだから何かしらの思惑があるはずなんだけど、それが全く分からない。


とはいえそのおかげであの場を切り抜けられたわけだし、リルの件も納得はしていないだろうけどうやむやにはなったはずだ。


問題があるとすれば明日からの動き方だろう。


蒼天の剣、いや月城ゆずるに認められた?探索者という目で見られるだろうから今まで以上に世間の目が向けられるはず、幸い城崎ダンジョン内はそこまで人とすれ違う事はないから問題ないと思うけど、興味のある人が追いかけてこないとも限らない。


そうなるとますますリルを出しにくくなるからいっそのこと存在を公表した方がいいんじゃないだろうか。


仮に存在がバレても蒼天の剣が後ろにいるとなるとよからぬ連中は手を出しにくい、そういう意図もがあるのかもしれない。


どちらにせよ今まで通りではいられないというわけだ。


「・・・なんかもう疲れた。」


「心中お察しします。」


「ごめんなさい、もっと私に力があればよかったんですけど。」


「いやいや、今でも十分すぎるぐらいの恩恵を受けているわけだしこれ以上望んだら罰が当たるってもんだ。」


「でも・・・。」


「ともかく折角月城様が彼らの相手をしてくださっているのです、今のうちに宿へ戻ると致しましょう。」


このままここに居たらまた出て来て話を聞かせろとか言われるかもしれないし、それが良いかもしれない。


ダンジョンに潜ったわけでもないのにこの疲労感。


本当に大変な一日になってしまった。

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