161.暑さ対策を考えました
「「「「お疲れ様でした。」」」」
七階層に到着した俺たちは更なる暑さに辟易しながら転送装置を起動、無事に地上へと帰還した。
あの暑さに比べれば地上が天国のように感じる。
身体中が汗臭いのでギルドでの手続きをサクッと済ませて急ぎ宿へと帰還、各自汗を流してから改めて集合することになった。
色浴衣に着替えた華やかな面々と掘り炬燵式の机に向き合いながら食事をしつつ打ち合わせを開始する。
「改めてお疲れ様、初見にも関わらず階層主を撃破して更にあの短時間で六階層走破は中々の記録だと思うよ。蟹もそうだけどゴリラは結構な強敵だから。」
「記録がどうのって言うよりも今はあの蒸し暑さの中また潜らなきゃならないってことが今から憂鬱だ。」
「それはもう仕方ないよ。とりあえず十階層まではこの感じが続くし、その先はもっと大変だよ。まぁ湿気が無い分マシって言う人もいるけど暑いことに変わりはないからねぇ。」
まだまだ暑くなると思うと潜りたくなくなってしまうがそういうわけにも行かないんだよなぁ。
記録だけで言えば川西ダンジョン制覇だけでもCランクになれるけれど、それだと桜さんが一緒に達成できないのでここを走破するのが最低条件。
暑さだけをなんとかすれば比較的攻略しやすいだけに今後はそれ対策をどうするかって言う話になる。
「なんにせよ暑さ対策をしなきゃですね。」
「だな、今回もそこそこの儲けになったし、もう少し稼いだらまた鈴木さんに言っていい感じのを見繕ってもらおう。」
「・・・あの稼ぎがそこそこですか。」
「今回はちょっと予想外だったけど道具を新調したらあれぐらいの稼ぎすぐに無くなっちゃうし、次の宿泊代を支払ったらすっからかんだよ。」
今回の儲けは全部で77万円、ストーンリザードの皮がいい感じの値段で売れたのと、思っている以上にゴリランドーンの毛皮が高くまさか一枚3万円で買い取ってもらえるとは思っていなかった。
あのファッションピンクを一体何に使うかはおいおい調べるとして、一番はやはり鉱石蟹だろう。
食用部分は4万ぐらいにしかならなかったけれど、頑張って採掘した鉱石の中にレア宝石の原石が混ざっていたらしく買取査定スタッフがざわついたと七扇さんに教えてもらった。
そんなこんなで今回の稼ぎになったわけだけど、宿に次の十日分を支払って残りみんなで分配したら儲けなんて微々たるものだ。
「やっぱり私もお支払いを・・・。」
「凛ちゃんはギルドに無理言ってお借りしている設定なので大丈夫ですよ。」
「そうそう、例の作戦のためにもお金は払っちゃダメ。でも報酬はしっかりもらってね、僕達のために色々頑張ってくれているわけだし後ちょっとの辛抱だから。」
「本当にありがとうございます。」
七扇さんは俺達への接待のために探索者ギルドから出向してもらっているという立場なので、報酬を渡しても宿代なんかを支払われると色々とめんどくさい。
彼女からすれば潜っている間はギルドの仕事をしていているだけで何もしていないと言う感じなんだろうけど、絶賛潜入調査?中なのでそっちに注力してもらえれば十分だ。
それに事務手続きとか各階層の資料収集とかをやってくれているだけでも非常に助かっている。
もちろんネットで調べられるけど情報が古かったり嘘が混ざっていたりするので公式の情報が一番鮮度がよくて確実だ。
「じゃあ明日は浅い階層でもうひと稼ぎしてドワナロクかな?」
「それなんですが、明日は二階層まで立ち入りを制限するそうなんです。」
「え!何かヤバげな物でも見つかったの!?」
「そう言うのじゃないんですけど、月城ゆずるさんがくるらしくて。何かの撮影か何かであそこを使うから一般探索者には立ち入り禁止が言い渡されるそうです。」
月城ゆずるといえば前に話しかけてきたAランク探索者で桜さんの見合い相手でもある。
見合いの方は形だけって言う感じだったらしいけどなんだかんだ縁があるんだよなぁ。
偶然だと思うけど変に勘繰ってしまう。
「ただの撮影で稼ぎ頭の二階層を封印するなんてやるねぇ。」
「それだけ本人に恩を売りたいんじゃないか?俺みたいな小者にすらあんな待遇するんだ、Aランク探索者となったらすごいと思うぞ。」
「なるほどね、それはあるかも。」
「それって駄目ですよね?」
「もちろん絶対ダメ、だけどそれが出来る環境になっちゃってるからそれを是正する為に凛ちゃんには頑張ってもらわないと。ある意味明日はいい機会かもね。」
ダンジョンを私物化するなんて言語道断、にもかかわらずそれに近しいことが行われているのならば是正されるべきだ。
ダンジョン産の鉱石はどの企業からも引く手数多なのでそれを管理する以上その辺はしっかりしてもらわないと、とはいえ管理するのは人間なのでそういうやましいことを考えてしまう人もいるんだろうなぁ。
ま、綺麗にすることで探索しやすくなるのならそれが一番だ。
「なら明日はどうする?」
「四階層まで行ってストーンリザードを倒すのもありですけど・・・それなら先にドワナロクで必要装備の確認をするのはどうですか?値段を把握して置けば目標を決められますし、やる気も出ると思うんですけど。」
「それは確かにいいかもな。マントの時もそうだったけど目標金額があればそれに向かって動くこともできるし、延々と戦うよりも張り合いがある。」
「稼ぐだけなら和人君のスキルもあるし、今日は無理でも明日には潜れるだろうからガッツリ稼いでもらおうか。」
ミネラルタートルを見つければスキルは収奪できるのでわざわざ恒常化する必要もない。
一階層でも鉱石メインであればそこそこ稼げるので今日は一日オフにして低階層が開く明日以降にまた頑張るとしよう。
というわけで打ち合わせは終了、美味しい食事を堪能した後は各自思い思いの時間を過ごすことに。
俺はというと鍛錬を兼ねて桜さんに対人戦の稽古をつけてもらうべく地下の練習場へとむかった。
スキルなしではまだまだ勝てないけれど、少しずつ動きが見えだしてきたのでそろそろ一本を取りたいところだ。
「疲れているのに悪かったな。」
「大丈夫です!私ももう少し体を動かしたかった所なので。」
「そういってくれると助かるよ。七扇さんがいなかったらリルにも出てきてもらって手合わせしたかったんだけど、流石にまだ知らせるわけにはいかないしね。」
「Sランク魔獣を従えてるってなったら大騒ぎになっちゃいますから。でもその辺は気を付けていますし大丈夫だと思いますけど。」
人の多い所ではブレスレットの中に入ってもらっているし、離れていれば俺が従えているとは思われないはず。
もちろんいずれバレるときは来るんだろうけど、そもそも契約している以上他人に奪われる心配はないので問題ないといえば問題ないんだけど、それでも何かしら圧力をかけられる可能性はあるわけで。
もう少し実績を積んでそういうのに対応できるようにしておきたいんだよなぁ。
大浴場でさっぱり汗を流してから迎えた翌朝、七扇さんはそのままギルドへ俺達は鈴木さんの運転でドワナロクへと向かった。
一体どんな装備を紹介されるのか、そんな期待と不安を感じながらバスを降りたその時だ。
「あ!あの人じゃない?」
「いた!新明さんだ!」
「新明さん!フェンリルを使役しているというのは本当ですか!?」
「回答をお願いします!」
「篠山ダンジョンでの氾濫を収めたのもあなただという話も出ていますが、真相をお話しください!」
やってきましたドワナロク・・・の筈が、まさかの展開に思わず固まったまま動けなくなってしまった。