160.魔物は投げられる物でした
見た目はこれまでの階層とほとんど変わらなくても、隙間から噴き出す蒸気と熱が体中から汗を拭きださせ滴る汗で視界がゆがむ。
サウナほどではないけれど体感30度以上かつ不快指数120%の中歩くのは思った以上に体力を奪われるようだ。
まだ六階層を進みだして30分もたっていないはずなのにもう座りたくなっているけれど、ここで座ったら立ち上がるのにもかなりの時間を要するだろう。
横を歩くリルも口を開けたまま舌を出しかなりつらそうな感じ、この先も同じようになることを考えると彼女にはかなりの負担になるだろうなぁ。
「・・・います。」
「やっとお出ましか。」
先を行く桜さんがピタリと止まり、リルも警戒するように身を屈めながら暗闇の向こうをじっとみつめてる。
俺も魔装銃を構えスコープ越しに奥を確認、すると暗闇の向こうから何かを手にしたピンク色の生き物がモデルのように両手を大きく前後に揺らしながら歩いてきた。
「嘘だろ。」
「うんうん、そんな反応になるよね。」
「え、何が変なんですか?」
「ゴリラの毛がファッションピンクだ。」
「え、嘘ですよね?」
いや、嘘じゃないんだよなこれが。
魔装銃を肩から降ろして桜さんに手渡し、同じようにスコープを覗きこんだ桜さんが絶句している。
この暑さと湿度の中それを吹き飛ばすような奇抜な見た目、そもそもその色である必要はあるんだろうか。
全身ピンクのそいつも俺達を発見したのかその場にぴたりと止まって様子を見て来る。
その距離約100m、名前通りのフォルムなのになんであの色なのかさっぱりわからないんだが。
「・・・なんであの色なんですか?」
「しらん。本人に聞いてくれ。」
「聞いたら答えてくれますかね。」
「さぁなぁ。聞いたところで理解できないのがおちだと思うが・・・ん?」
薄暗い部分を境に向かい合うファッションゴリラと俺達。
どうやって攻めようか考えていたその時、向こうにいたゴリラがトルネード投法的なダイナミックな投球フォームで何かをこちらに投げてきた。
かなりの速度で飛来する何か、ゴリラ的に糞を投げて来る可能性もゼロではないがすかさず桜さんが前に出ようとするのを須磨寺さんが慌てて引き留める。
「え?」
「いいからしゃがむ!」
慌てて三人でその場にしゃがむと飛来したなにかはそのまま頭上を通過し、後ろに着弾。
それと同時に爆音が響きオレンジ色の炎が巻き上がる。
「うぉ!燃えた!」
「ゴリランドーンはボムストーンを投げてくるから受けちゃダメだよ。」
あれを受けていたら大変なことになっていただろう。
事前情報で岩を投げてくるから注意をするようにとは書かれていたけれど、まさか六階層に出るもう一匹の魔物を投げてくるとは思わなかった。
俺達が全員しゃがんだのが面白かったのか向こうでドラミングをしたり小刻みにジャンプしたりと挑発的なことをしてくるけれど、そんなことよりも魔物を投げてきたことに動揺している。
うーむ、仲間の命を何だと思っているんだろうか。
「ちなみにボムストーンって何かドロップするのか?」
「んー、時々魔石を落としたりするけどほぼほぼ爆発しちゃうから期待しないほうがいいよ。」
「無限に投げてくるわけじゃなさそうだし、とりあえず投げ終わるまで様子見だな。」
その後も岩に交じってボムストーンを投げて来るのを必死に避けていると、とうとう投げるものがなくなったのか攻撃が止まった。
爆発物を投げてこないゴリランドーンなんてただのゴリラ。
普通は探索者でもゴリラと戦うのは中々に大変だが恐竜と戦っている俺達にとってゴリラなんぞ敵ではない。
投げる仲間がいなくなりドラミングで怒りを表現するゴリランドーン、ファッションピンクの巨体を大きく揺らしながら猛スピードで突っ込んでくるも、まぁリルと桜さんの敵ではなかった。
赤子の手をひねるよりも簡単に、とまではいわないけれど大振りの攻撃はことごとく桜さんに受け流され、その隙をついてリルの爪と牙が襲い掛かりおまけで銃弾が撃ち込まれる。
群れないゴリラはただのゴリラ、恐竜のあのコンビネーションに比べればこのぐらいなんてことはない。
そういう意味では御影ダンジョンは色んな意味で成長させてもらえたよなぁ。
そんな感じでファッションピンクのゴリラはあっさりと倒されることになった。
【ゴリランドーンのスキルを収奪しました。投擲、ストック上限は後六つです。】
ボムフラワーと同じスキルだが、まぁあの戦い方だとそうなるよな。
ぶっちゃけドラミングか何かだと思ったんだけどそうじゃなかったのでほっとしている自分もいる。
「やりましたね。」
「こいつのドロップは毛皮なのか、こんなピンクのを一体何に使うんだ?」
「確かに派手といえば派手だけど、服のワンポイントとか色々使い道はあるみたいだよ。」
「なるほどなぁ、でもなんでこの色なんだ?」
「それは知らないけどたまに蛍光イエローみたいな種類も出るんだって。」
「なんだよその色違いシステムは。」
亜種にしても蛍光イエローは流石におかしすぎるだろ。
そんなのが複数出てくるダンジョンとか別の意味で怖いし、何ならそいつらが仲間を投げつけて爆破するのもどうかしている。
別に魔物同士仲よくしろとは言わないけれど投げるのはどうなんだろうなぁ。
そんな俺達の疑問に答が出るはずもなく、進むたびにゴリランドーンに遭遇するもボムストーンを投げられる前に魔装銃で狙撃するとその場で破壊できることを発見。
その爆発でダメージを与えられるようでほぼほぼ攻撃されることなく倒すことが出来るようになってしまった。
流石に二匹同時に出てきたときは撃ち落とすのが間に合わず、結果的にボムストーンが雨のように降り注ぐもすぐに弾切れになったようで肉弾戦を挑んできた。
投げる魔物と投げられる魔物、ある意味計算された魔物の配置といえるかもしれないけれど事前準備をしてきた俺達の敵じゃない。
まぁ、最後に三体一気に出てきた時は流石にどうしようかと思ったけれど、偶然使った爆裂泡で誘爆させることに成功したのでなんとかなったようなもの。
相変わらず収奪スキルは優秀すぎる。
そんなこんなで何度も襲撃を乗り切った俺達は、無事七階層へ降りる階段を発見した。
「やれやれ、やっと着いた。」
「中々大変だったね。」
「魔物がっていうよりも環境の方がしんどいな。下に降りれば降りるほどきつくなるんだろ?これは本格的に準備した方がよさそうだなぁ。」
「暑さ対策は必須ですね、もう汗でびしょびしょです。」
桜さんが襟元を掴みバサバサと動かして空気を送り込む。
薄手の服だからか胸元が見える・・・わけもなく、胸当てでしっかりカバーされているので期待してはいけない。
それでも見てしまうのは男の性というかなんというか、仕方ないんだよ。
「あー、僕も暑いなぁ。」
「早く帰ろうぜ。」
「和人君!ちょっとは見てよ!」
「いや、見たところで何かあるのか?」
「ぐぬぬ、僕の鎖骨を見てもときめかないなんて・・・。凛ちゃんなんて釘付けになってくれるのに、和人君恐るべし。」
いや、七扇さん相手に何してるんだよ。
そういうのは立派なセクハラ、いやモラハラ?それともカスハラ?
ともかくこのご時世アウトな案件なので注意してもらわないと。
なんて冗談を言い合いながら階段を下りていくのだった。