159.城崎ダンジョンの洗礼を受けました
「みんなお疲れ!初見で階層主撃破は流石だね。」
「最後ちょっと危なかったけどな。」
「あれは和人君のせいだからね、フラグなんて立てるから。」
「別に立てたくて立てたわけじゃ・・・いや、なんでもない。」
地面に吸い込まれていく階層主を見送り須磨寺さんが掛けて来る。
彼女の言うようにリトライ無しでの階層主撃破は素直に嬉しい所、それだけ自分たちの地力が上がってきたという証拠だろう。
あの特訓があったからこそきびきび動けたわけだし、とっさの判断も前よりもうまくなったと思う。
桜さんも巨大な敵に臆することなく攻撃を受け流し、的確にダメージを与えてくれるんだから流石だ。
欲を言えば完全タンクにシフトしてほしいところだけど、それだと体格とか筋力不足があるんだよなぁ。
カバーリングとか弱点看破は最前線で敵の攻撃を受けるタンクに必須ともいえるスキルだけに勿体ない感じが強い。
でもまぁ誰かが代わりにタンクをすればいいわけだし、武器だってメイスとかにすれば打撃力の向上にはなる。
武器に関してはお父さん関係でかなり良い物を使わせてもらえるだけにあくまでもアタッカーという位置づけの方がいいんだろうなぁ。
リルは言わずもがな、相変わらずいい仕事をしてくれる頼れる遊撃手だ。
「ドロップ品は・・・カニ足?」
「カニだからね。」
「いや、どう見てもヤドカリなのにドロップは普通のカニ足なのか?しかもデカいし。」
「そこは気にしちゃダメ。他にもカニみそとかカニハサミとか色々落ちるから食べたくなったら周回をお勧めするよ。」
「・・・カニとはこれいかに。」
狂暴化した時に見えた姿は100%ヤドカリなのに手に入ったのはタラバとかそっち系の足なんだよなぁ。
美味しいという話は聞いているので手に入るのは嬉しいんだけど、なんていうか違和感は凄い。
「甲羅とかはドロップしないんですね。」
「出たらちょっと高く売れたんだけど、でもまぁストーンリザードを結構狩ったから素材系はもうお腹いっぱいかな。それに・・・、見てよこれ。」
「わ!鉱石だらけです!」
「狂暴化すると岩を落とすってのは聞いてたけど、まさかこんなに掘れるとは思わなくて最後の方は楽しすぎて夢中で掘り出しちゃったよ。」
カバンから取り出した別の革袋には大量の鉱石や宝石の原石が光り輝いていた。
鉱石蟹と言われるだけあって背負っていた岩からたくさんの鉱石が取れるとは聞いていたけれど、まさかこれほどの量が取れるとは。
これだけでかなりの金額になりそうなもんだが、これに関しては上に戻ってみないと何とも言えないなぁ。
「これが全部でいくらになるか、七扇さんの驚く顔が目に浮かぶようだ。」
「凛ちゃんなら絶対に高く買ってくれるから期待しておこうね。」
「本人のいないところでハードルを上げるのはやめて差し上げろ。」
「あはは、それもそうだね。」
値段を確認するためにもまずは次の階層を走破することが重要、素材も回収し終わっているのでサクッと下の階へ移動・・・と思いきや今回は階段前での休憩になった。
これまでと違ってリトライすることはなかったのでそこまで疲弊していると言うわけではない。
それでも休んでおこうよという須磨寺さんの強い勧めもあって休憩をとっているわけだが、なんでもここから先は今までと環境が違うかららしい。
「そんなに過酷なのか?」
「んー、耐えようと思ったら耐えられるけど不快指数はかなり高いかな。これまでと環境が一気に変わるから鉱石目当ての人は基本ここまで。この先は走破目的か奥のレア鉱石を探す人ぐらいしか行かないんじゃないかなぁ。」
「それだと篠山ダンジョンみたいに氾濫が起きませんか?」
「そこはギルドが管理しているから大丈夫じゃないかな。あの調子だと心配は心配だけど溢れた時に採掘が止まるリスクを考えたらお金を払ってでも探索者を入れて魔物を倒したりするだろうし。まぁ前のカエルみたいに隅に溜まっている可能性もあるけど階層主を倒せばまぁ落ち着くわけだし。」
なるほどなぁ。
下に潜れば潜るほどレア素材が手に入るのに、それをしたくないぐらいの過酷な環境が待っているのか。
一応事前情報でチェックはしていたし、曽根崎ダンジョンで訓練はしてきたので少々の暑さは大丈夫、なはず。
ジャングルだって走破したんだからいけるいける、そう思っていたこともありました。
「帰る」
六階走に到着した俺たちを待っていたのは想像を絶する過酷な環境、階段にいた時はなんともなかったのにそこに降り立った瞬間空気が一気の変わったのを感じた。
見た目は先ほどと変わらない坑道のような広い通路が奥に続いている感じ、だが四方八方から蒸気が噴き出し、足元からはジリジリと肌を焦がすような熱気が上がってくる。
ジャングルのようなむせかえるような草の香りがない代わりにそれを超える不快指数120%の最悪な環境に一歩足を踏み入れただけで帰りたくなってしまった。
って言うかマジで帰る。
「またあのカニ倒して帰るの?」
「あー、それもあるんだよなぁ」
「それにストーンリザードも倒していく必要がありますね。」
ただ来た道を戻るだけならまだしも魔物の復活した道を再び歩かなければならないとなると非常にめんどくさい。
だがそれをしてでも帰りたくなる劣悪な環境、今までと明らかに違う暑さに早くも根をあげそうになってしまった。
「これが聞いていた城崎の洗礼か。」
「五階層まではただの坑道、鉱石を回収したいだけならここまででいいけど走破しようとなったらいやでもこの先に行かなきゃならないんだよねー。」
「直射日光で焼けちゃうのも困りますけどこれなら砂漠の方がマシな気がしてきました。」
「でもでも、いかにも温泉って感じがしない?」
「匂いだけで考えればわからなくもないが、これって確か硫化水素の匂いだよな?ってことはそれが溜まってる場所もあるのか。」
「大正解!窪みに落ちたら一瞬で意識を失うから覚悟してね。」
いや、覚悟してねとか言うレベルじゃないと思うんだが?
今後は魔物だけじゃなく環境まで俺たちの命を狙ってくる、篠山ダンジョンで経験したとはいえあの時は保温スキルがあったからなんとかなったわけで。
もっと下層の熱波とかならまだしも、湿気だけはどうにもならなさそうだ。
「はぁ、耐えるしかないか。」
「不快なのは真ん中の五階層までだから頑張っていこう。十階層から下は別の意味で大変だけど、とりあえず不快感はマシだからさ。」
「それでも過酷であることに変わりはないんだろ?それを考えると同じD級の御影ダンジョンが楽に感じるなぁ。」
「あそこは環境要素よりもフィールドの大変さの方が強いから。不快指数が高いとしたらあのジャングルぐらいだしね。」
同じ難易度のダンジョンでも何が大変かによって程度が大きく変わってくる。
環境なのか造りなのか魔物なのか、どちらにせよトータルで考えた結果が定められた等級なわけで、環境が大変ならその分魔物は弱いはず。
それを期待して進むしかない。
「ここからは二種類の魔物が出るんでしたね。」
「ゴリランドーンとボムストーンだよ。」
「名前を聞いただけでなんとなく姿が想像できるな。」
「ですね。」
いままではほんの序章に過ぎずダンジョンの本番はむしろここから。
残り十階層、果たして何が待ち受けているのだろうか。