158.カニの甲羅をぶち抜きました
城崎ダンジョン五階層。
階層主である岩ヤドカリこと鉱石蟹の背負った岩は随分と小さくなっていた。
そりゃあれだけ殴られ続けたら小さくもなるだろう。
桜さん達がひきつけている間に後ろから岩を攻撃、怒って突進してきたらぎりぎりまでひきつけてからステップスキルで真横に移動して壁に激突させ、目を回している間に全員で一斉攻撃して一気に岩を削り取る。
階層主とはいえまだ浅い階層なこともありこのままいけば無事に終わりそうだな。
「リルちゃんブレス!」
「ガウ!」
「和人さん右足後ろから二本目をお願いします。」
「後ろ・・・あれか!」
シャカシャカ動かれるのでよくわからない感じではあるけれどとりあえずそれっぽい奴を攻撃すると、鈍い音と共に関節が砕けたたらを踏むように横にずれる。
他の足が支えているので今のところは大丈夫そうだが倒れるのも時間の問題だろう。
ステップのストック数は残り二回、それまではこの戦い方で何とかなるはずだ。
「よし!あそこまでボロボロにしたら倒れるのは時間の問題、前みたいに狂暴化さえしなければ大丈夫だからみんな気を抜かずにいこう。」
「和人さんそれはダメです。」
「和人君それはダメだよ。」
もう少し頑張ろうと声をかけただけなのに、と二人の発言に首を傾げた次の瞬間。
突然ガコッ!という音がしたかと思ったら小さくなった岩が突然外れてしまった。
ドスン!と音を立てて地面に転がる岩、その向こうには身軽になった鉱石蟹がハサミをカチカチと鳴らしながらこちらを威嚇してくる。
足や頭部分に比べてくるんと丸まった胴体がなんともアンバランスな感じだが、重荷を捨てたからか先ほどよりもものすごく速く動きそうな感じがする。
っていうか間違いなく速い。
「・・・悪い。」
「和人君のせいだからね!」
「あんな状態でフラグなんて立てたらそうなるにきまってるじゃないですか!」
「だからごめんって!っていうかD級ダンジョンの狂暴化率はかなり低いはずだろ、なんで毎回起きるんだよ!」
階層主の狂暴化は主にC級ダンジョンからが一般的で、D級ではまれに起きる程度。
にも関わらず毎回起きるのには何か作為的なものを感じるんだが気のせいだろうか。
ハサミをカチカチと鳴らしていたカニがハサミを前に突き出し猛スピードでこちらへ突っ込んでくる。
流石にもう引き付けるとかそういう余裕もない。
「カニなのにまっすぐ歩くなんてずるいぞ!」
「和人君、それはいまさらだよ。」
「それもそうか。」
「弱点は一応あの丸くなった胴体部分なんですけど、いけますかね。」
「いけるというかやるしかないだろ。」
まっすぐ突っ込んできたかと思ったら、そのまま旋回するように横に移動し再びこちらに突っ込んでくる。
胴体部分を攻撃しようにも器用にくるんと体の下に格納されているせいで直接充てるのは難しい。
となると無理やりにでもあのハサミを潜り抜けるかもしくは甲羅ごとダメージを与えるしかない。
「桜さんとリルでなんとか隙を作ってくれ。」
「わかりました!」
「ガウ!」
「須磨寺さんは今のうちにあいつが落とした岩から鉱石を採掘しておいてください、できますよね?」
「まったく運搬人使いが荒いんだから。でもまぁあの岩を丸々採掘することなんてめったにないから、頑張って大物探しておくね!」
狂暴化している以上さっきのような決まった動きで攻撃し続けるのは難しい。
それならば温存していたあのスキルで一気に仕留めてしまった方がよさそうだ。
素早いハサミ攻撃を華麗なステップで避けるリル、そしてその状況でも振り下ろしを受け流してダメージを与え続ける桜さん。
そして横からゆっくりと近づいて攻撃するタイミングを・・・。
「あ、やばい。」
リルたちを攻撃していたと思ったら突然横歩きでこちらに突っ込んでくる。
いきなりカニらしい動きはやめろと心の中でツッコミをいれつつあえてそのまま突っ込んでハサミの振り下ろし攻撃を回避、続いて右からの二発目もスライディングで潜り抜けて回避しつつ背中側へ回った瞬間にスキルを発動。
【アシッドスライムのスキルを使用しました。ストックは後五つです。】
【アシッドスライムのスキルを使用しました。ストックは後四つです。】
【アシッドスライムのスキルを使用しました。ストックは後三つです。】
武庫ダンジョンで回収してきた溶解液が無防備な背中に降りかかり甲羅から白煙が上がった。
痛覚があるのかはわからないけれど白煙を上げながらめちゃくちゃに振り回すカニからわずかに距離を開けて様子を見守る。
三発も当てたのに甲羅に穴を開けることはできなかったが、それでも強度が落ちたのは間違いない。
後はあそこめがけて硬化した棍をぶちこんでやれば・・・。
「和人さん逃げてください!」
「しまった!今それを使うのか!」
あまりにもワンパターンな攻撃ばかりで忘れてしまったが、こいつにはとっておきの技があった。
ハサミを振り回して暴れるカニからいったん離れ、再び距離を詰めて無防備な背中めがけて攻撃しようとおもったのだが、向こうもそれを待っていたようでその場でくるりと180度回転する。
こちらを向いたカニの口元には大量の泡、やばいと思うよりも早くそれが俺めがけて吐き出された。
触れたら爆発する泡を避けようにもあまりにも至近距離かつ広範囲すぎて走って逃げられるような状況じゃない。
カニのくせにやってやったみたいな顔しやがって。
万事休す、とスキルのない俺ならあきらめた所だろうけどそう簡単にやられる俺じゃない。
【アンテロープのスキルを使用しました。ストックは後一つです。】
【アンテロープのスキルを使用しました。ストックはありません。】
距離が足りなければさらに移動すればいい、ということでスキルを使ってなんとか泡攻撃を回避。
その間に後ろからリルと桜さんが溶解液をかけた甲羅を攻撃してヒビを入れる。
あれで俺を倒したつもりだっただろうがそうは問屋が卸さない、再び反転して二人を攻撃しようにも俺が控えているのでそれすらできず慌てて横移動で距離を取る。
形勢逆転、追い詰められた俺達が今度は奴を追い詰める。
ひびの入った甲羅を守るように壁を背にして部屋の中を逃げ続けるカニだが、両サイドから追い詰めさらに正面から威嚇すればもう逃げる場所はない。
「ガウ!」
「これで終わりです!」
【アシッドスライムのスキルを使用しました。ストックは後二つです。】
リルのブレスが正面から襲い掛かり桜さんのラッシュで右足を粉砕、体を傾けながらも再び泡を吹きかけようとする顔付近めがけて溶解液を噴射してやった。
口の中で泡が破裂し、更に顔付近の甲羅から白煙が上がる。
顔面はボロボロ、おそらく目も見えなくなったのかハサミを適当に振り回している。
「いい加減倒れろ!」
その隙をつき、最後は横から白煙を上げているところめがけて硬化スキルを施した棍を叩きつけて大穴を開けることに成功した。
【ペトーラクラブのスキルを収奪しました。爆裂泡、ストック上限は後六つです。】
体を支える足を折られ、さらに頭から叩きつけられたことで大地に倒れる鉱石蟹。
動かなくなる前に収奪したスキルはまさかのあの泡だった。
まだ地面に吸い込まれていないので気を抜いちゃいけない、棍を構えたままゆっくりと近づくと最後の力を振り絞ってハサミを持ち上げたが俺の顔まで上がることなく最後はこと切れた。
城崎ダンジョン最初の階層主、鉱石蟹。
中々の強敵ではあったが俺達の敵ではなかった。