157.巨大な岩と対峙しました
「これで・・・終わり!」
石蜥蜴の真っ赤な口を長く伸ばした三節棍の端で貫いて地面に突き刺す。
そのまま背中に馬乗りになり激痛に大暴れするのを押さえつけていると少しずつ動きが弱まり、そして動かなくなった。
「ドロー」
【ストーンリザードのスキルを収奪しました。硬化、ストック上限は後一つです。】
地面に吸収される前にスキルを収奪、これでストック上限に達する筈が何故か違うアナウンスが流れてきた。
「ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、スキルのストック数が合わないんだ。これで最大数の筈なんだけど・・・。」
「それってスキルレベルが上がったからじゃない?」
「あぁ、なるほどそういうことか。」
収奪したスキルのストック数はレベルに依存する、レベルが上がったときのような倦怠感もなければゲームのようなアナウンスが流れるわけじゃないので気づきにくいんだよなぁ。
レベルが上がったのは素直に嬉しい。
ストック数が増えるだけでなく種類も増やせるので新しい戦い方を選ぶことができるし、魔物の種類が増えても既存スキルをわざと消費せずに収奪できる。
「レベルが上がったのに和人君が難しい顔してるよ。」
「いや、レベルが上がったってことはさっきまでマックスだったスキルを恒常化できないんだと思ってな。」
「あー、確かにそういう弊害があるのか。いざとなったら恒常化、っていう技がつかえなくなっちゃったんだね。」
「そういうこと。今回はエコーを多用するから問題ないといえば問題ないんだけど、階層主のスキルなんかは何周もする必要が出てきたんだな。」
「E級ダンジョンとはいえ普通の魔物よりも時間がかかりますから。」
今後レベルが上がるにつれてこういう弊害が出てくるんだろうなぁ。
階層主の素材は高く売れるので資金稼ぎのついでと思えばそこまで苦にはならないだろうけど、それでもめんどくさいことに変わりはない。
ま、プラスの方が多いだけに素直に喜んでおくか。
「ストック数から考えると今のレベルは6、レベル5の時に恒常化を覚えたから次に新しいのを覚えるとしたらレベル10ぐらいなんだろうなぁ。」
「そもそも収奪スキルだけでも規格外なのに恒常化に加えて新しいスキルって、それは贅沢ってもんだと思うよ僕は。」
「それはまぁそうなんだが、スキルが切れた時に何もできないのがなぁ。」
「クリスタルで新しいスキルを手に入れられればいいんですけど。」
無い物ねだりしても仕方がないんだが、回数制限があるとはいえ恒常化を含め8種類のスキルを使えると思えば須磨寺さんの言う規格外もいい所。
今後を考えると索敵や回復なんかのスキルも欲しいところだがどの魔物から入手できるかさっぱりわからないのでコツコツ行くしかないなぁ。
「あ、階段みーっけ。」
「どうしますか?後一つでストック上限ですよね、戻ります?」
「んー・・・いや、このまま降りよう。」
「後悔しない?」
「そんな言い方されると悩むんだが、レベルが上がってなかったらそのまま降りたわけだし硬化を恒常化するつもりはないから結局のところ一緒だ。」
「それもそうだね。」
次はいよいよ城崎ダンジョン初の階層主。
この為に武庫ダンジョンに出向いて準備もしてきたし、その他のストックも十分ある。
ここではリルを出せなかったけれど階層主なら他人の目がないので安心して活躍してもらえるだろう。
俺達の実力と手数の多さを考えればそこまで苦戦しないはずだ。
知らんけど。
階段を下りて巨大な扉の前でしばしの休憩、城崎名物といえばやっぱりカニ!ってことで今日はお宿特性のカニ尽くし弁当を用意してもらった。
ここにきて早一週間以上、にもかかわらずカニを食べていなかったのはシーズンオフだったこともあるけれど、それでも今これを食べておかなければならなかった。
「んー、美味しい!」
「カニはいいねぇ、ダンジョンの中なのにお酒が欲しくなっちゃうよ。」
口いっぱいに広がるカニのうま味を堪能しつつ英気を養い、簡易コンロで沸かしたお茶で一服。
ここがダンジョン内、しかも階層主前だというのになんとまぁ気の抜けた光景だ事。
他の探索者が見たらなんていうだろうか。
まぁ他所は他所うちはうち、俺達には俺達のリラックス方法がある。
「点検完了!おまたせ、そろそろ行こっか。」
「こっちも準備完了です!」
「そんじゃま最後の確認だ。いつも通り桜さんとリルがヘイトを稼ぎつつ俺が後ろに回って甲羅を攻撃、へばりついている鉱石を回収したらスキルを使って本格攻撃。気を付けるべきは振り下ろしと薙ぎ払い、それと・・・。」
「泡攻撃ですね。」
「触れると爆発するっていう厄介な奴だから傾向が見えたら即座に左右に逃げる事、こればっかりは受けられないから気を付けて。」
「わかりました。」
大丈夫と言いながらも確認は大事、特に階層主ともなると油断して何度も痛い目に合っているので気を付けないと。
魔装銃を背負いなおして扉に手を当て、思い切り力を入れると土煙と共に左右に開いていく。
見えてきたのはおなじみのドーム型の部屋、その真ん中に鎮座しているのは灰色の巨大な岩。
鉱石発見のスキルを使っていないにもかかわらず、キラキラと輝いているようにみえる。
「それじゃあ行くぞ。」
「はい!」
「ガウ!」
荷物を壁際に置き、須磨寺さんに見守られながら各々が持ち場につく。
魔装銃を構えていつものように魔力を装填、効くかどうかはわからないけれどとりあえずやるだけやってみよう。
狙いは巨大な岩、その中でも一際赤く輝く石めがけてトリガーを引くとカーン!という甲高い音と共に赤い石がポロリと下に転がり落ちた。
「動くぞ!」
合図と同時に階層全体が大きく揺れ、真ん中の岩が轟音と共に持ち上がる。
それと同時に地面から現れたのは巨大なカニ。
カニはカニでもさっきの岩を背負っているからヤドカリ的な感じなんだろうけど、巨大なハサミを頭上高く掲げカチカチと鳴らして威嚇してくる。
流石にここまで来て真ん中のそれが階層主と知らないやつはいないだろうけど、無警戒に落ちた鉱石を拾いに行くと大変なことになっただろう。
「リルちゃん、GO!」
「グァゥ!」
探索者の役目はたとえどんな魔物であっても勇猛果敢に戦いを挑むこと。
見た目以上に素早く振り下ろされるヤドカリの爪を華麗なステップで避けつつ、リルの爪が奴の甲羅に傷をつける。
流石階層主、この程度じゃ傷をつけるぐらいしかできないか。
それでも甲羅の薄い関節部分には攻撃が通るのか隙をついた桜さんが確実にダメージを与えていく。
まさに完璧なコンビネーション、さてそろそろ俺も仕事をしますかね。
二人に気を取られている隙に裏側へ移動、背負った巨大な岩が攻撃のたびに左右に揺れているけれど、先端部がこちらに傾いているので上まで攻撃は届きそうだ。
三節棍を長く伸ばして上段に構えて左右に揺れるタイミングを見計らって思い切り叩きつける。
【ストーンリザードのスキルを使用しました。ストックは後五つです。】
叩きつける瞬間に先ほど手に入れた硬化スキルを発動、ただでさえ固い隕鉄がさらに強度を増したことで頑丈そうな岩をも易々と砕いてしまった。
それと同時に散らばる鉱石たち。
ズバリ俺の役目はこいつの岩から鉱石を採掘すること、鉱石蟹の名の通り背負った岩からは通常手に入らないような多種多様な鉱石類が見つかっている。
その中にはアダマンタイトやオリハルコンと呼ばれるA級ダンジョンでしか手に入らないような鉱石が混ざっていることもあるので採掘がデフォルトと化している。
まぁ、クリスタルでスキルすら手に入れられないような俺が見つけられるとも思えないけどやるだけやってみよう。
「和人さんそっちに行きます!」
「任せとけ!」
流石にあれだけの衝撃を受けたら嫌でも存在がバレる。
自分の住処を削られて怒りに燃えるカニが巨大な鋏を振り回しながらこちらへ突進、あえて壁際に退避してからもう一つのスキルを発動させる。
【アンテロープのスキルを使用しました。ストックは後五つです。】
ぎりぎりまでひきつけたところでステップスキルで真横へ移動、標的がなくなったカニはそのまま壁に激突してしまった。
「さすが和人さん!」
「さぁ、ガンガン削りまくれ!」
普通はこのまま追い打ちをかけるところなんだけど、俺の役目は鉱石採掘。
ここぞとばかりに棍を打ち付けリルと桜さんも一緒になって岩を砕いていく。
しばらくして正気に戻ったカニが再び動き出したところで距離を取り、元の場所に移動してからまた二人にヘイトを稼いでもらう。
その隙に須磨寺さんに素材を回収してもらうところまでが1サイクル。
さぁ、まだまだ掘りまくってやるぜ!




