153.階層主を目指して準備することにしました
残念ながらスキルを手に入れることはできなかった。
最後のはかなりいい反応だったので無茶苦茶期待したけれど、結果はまぁこんな感じ。
これがあるからクリスタルは怖いんだよなぁ。
もちろん桜さんはこの後にA級スキルを手に入れたので同じようにならないとも限らないけど、残念ながらそれを買う金がないので今回は撤退だ。
次は再び金を貯めてから、ってことで一度宿に戻って次の行動について考えることにした。
「残念でしたね」
「まぁそんなもんだ、元々発現率は2割程度って言われているしあと3回やって出たらある意味平均値ってとこだな。」
「それを考えると3回でAランクスキルを手に入れられたのはものすごく幸運だったんですね。」
「発現も運、中身も運、だからこそ宝くじって言われてるわけだ。探索者になるだけなら可能性は高い、でも探索者としてやっていくスキルを手に入れるには可能性は低い。それでも平均100万出せば探索者になれると思えば決して高くはないんだろうなぁ。」
「でも、元を取る前に怪我をしたり死んじゃったりする人もいるからならない方が正解な場合もあるんじゃない?」
誰もが探索者になりたいわけじゃなくこの国で言えば全体の3割、特に若年層にその傾向が強い。
確かにダンジョンから産出される素材は生活を劇的に変化させたけど、それを加工したり販売したりするのは一般の人だし探索者だけで世の中が回っているわけじゃない。
もっとも、それを考えられずに威張っている奴が大抵命を落としているわけだけど。
「ま、俺たちは運良くそのスキルを獲得できたからこそ探索者になれたわけだしやることをやるだけだ。とはいえ働きすぎは体に毒、ってことで明日は自由行動ってことでいいんだよな?」
「そうだね、連日潜ってるし明日ぐらいはゆっくりしようよ。」
「折角城崎にきたのに温泉巡りとかしてませんから、明日はいっぱい巡りましょうね凛ちゃん。」
「え!私もですか!?」
「ギルド長にはもう許可をとってるから大丈夫だよ、期待の探索者をしっかり接待してこいだって。」
城崎ダンジョンに来て早五日が経過、連日のようにダンジョンに潜っていたのでたまには休憩しようという話になった。
温泉地にきて温泉に入らないのも勿体無い話、毎日個室の風呂には入っているけれど広い風呂はまだ試してないんだよなぁ。
帰りが遅いので外を出歩かないにせよ本館の露天風呂ぐらいは満喫しておきたい、とはいえやりたいこともあるわけで。
「和人君は?」
「んー、武庫ダンジョンに行こうかと。」
「「「えぇぇぇ!?」」」
「木之本主任と話もあるし、いろいろ準備もしときたいから。」
「全くワーカホリックだなぁ和人君は、休める時に休むのも探索者の仕事。そんなにお仕事が好きならそっちの方で頑張ってよね。」
それはまあわかっているんだけど次を目指して色々と準備したいじゃないか。
そんなわけで迎えた翌日、まだ眠っている三人を起こさないように静かに宿をでたのだが、何故か鈴木さんが外で待機していた。
「桜様の送迎がありますので駅までで申し訳ありません。」
「そんな、むしろこんなに朝早くありがとうございます。」
「これが仕事ですので。もし向こうのドワナロクに行くことがありましたら・・・。」
「いえ、その場合はこっちで買うので大丈夫です。」
最近では鈴木さんにお願いしたいからドワナロクに行っているので、いくら商品が大きいとはいえ向こうに行くつもりはない、っていうか多分時間もない。
そんなわけで駅まで送ってもらい滑り込んできた電車に飛び乗って武庫ダンジョンへ、朝一番に出たはずなのに到着したころには大勢の探索者がギルドに来ていた。
俺の単独走破以降認知度が上がって探索者が増えたと木之元さんも喜んでいたっけ。
「やぁ新明君、久しぶりだね。」
「お世話になってます。」
「この間の件なら残念ながらまだ調査中でね、色々聞こえては来るけど決定的なものは残念ながらまだ見つかってないんだ。でもまぁそれも時間の問題だから気にせず潜ってくれて構わないよ。って、今日はそれを聞きに来たんじゃないのかな?」
「それもあるんですけど、久々に一人で潜って帰ろうかと。」
「相変わらずストイックだねぇ。」
本当は階層主用のスキルを回収しに来たんだけど、久しぶりに別のダンジョンで自由に戦いたいってのも嘘じゃない。
鉱石掘りが嫌いなわけじゃないが流石に毎日同じことをしていると飽きてしまう。
それなら腕試しとスキル回収も兼ねてダンジョンに潜り、あわよくばクリスタルなんて手に入れられないかなーなんていう浅はかな考えもあるわけで。
挨拶もほどほどにまずは七階層に移動してから六階層に戻り、大蝙蝠からエコースキルを回収。
城崎ダンジョンでは鉱石回収を優先するので恒常スキルは変えられないけれど、先に進むことを考えてフルストックになるように魔物を探す。
最初はこいつに悩まされて大変だったけど、今ではリルもいるしエコースキルを最初に使えば怖いものもなく戦うことが出来ている。
ストックを補充したら来た道を戻って七階層へ、本来の目的はこっちだったりするわけ。
「武庫ダンジョン七階層といえば、ボムフラワーだよなぁ。」
七階層といえば歩く爆弾花ことボムフラワーの群生地。
投擲スキルは使い勝手がいいし、奴らが落とす実はスキルと相性抜群。
篠山ダンジョンや川西ダンジョンなんかではかなり活躍してくれるけれど、城崎ダンジョンではまだまだ活躍しそうにはない。
今回の目的はこいつとは別のもう一匹。
「お、いたな。」
レモンゼリーとかパインゼリーとか言われるけれど中身は凶悪なアシッドスライム。
過去に冒険者が喰われて?いる現場に遭遇したけれど、見た目のわりになかなか凶悪だったりする。
でもそれは過去の話、リルのブレスと小麦粉があれば俺達の敵じゃない。
「ふむ、固めた後に凍らせるとこんな感じになるのか。」
初手はリルのブレス、動きが鈍くなったところで小麦粉を混ぜて固めると寒天のような感じになってしまった。
スキルを収奪してから寒天を崩すようにして核を攻撃すればボロボロと崩れて地面に吸収されく。
前はボムフラワーの実を投げて爆破していたけれどこのやり方なら安全かつ確実に倒せるから楽だよなぁ。
【アシッドスライムのスキルを収奪しました。溶解液、ストック上限です。】
「これで終わりっと。」
城崎ダンジョン五階層の階層主と戦うにはこのスキルが必要不可欠。
正確に言えばなくても倒せるだろうけど、あるのとないのとでは難易度が確実に変わってくる。
折角の収奪スキルを使わないのはもったいない、ってことでストック上限まで回収した後はリルと共に階層を駆け抜けて久方ぶりのアイアンゴーレムと対峙。
前まであんなに強そうな感じだったのにそこまで怖く感じないのは自分のレベルが上がったからだろうか。
もちろん突進等のスキルは凶悪だけど、パターンはしみ込んでいるしリルがいるので動きを遅くしてしまえばそこまで強い敵でもない。
自分のレベルと装備をフル活用してわずか30分ほどで討伐、まさか自分はここまで強くなっているとはちょっと想像していなかった。
「ま、それだけ実力がついてきたってことで。」
「わふ!」
リルも余裕な感じで戦っていたので彼女的にもいい運動になったことだろう。
城崎ダンジョンだと三階層ぐらいしか出番がないので少々運動不足な感じはある。
七扇さんがいるので地下で大暴れするわけにもいかず結果ここで発散させてもらったというわけだ。
「さて、走破報酬をもらって帰るとするか。」
今から戻れば夕食までには間に合うはずだ。
残念ながら銅箱からクリスタルは出なかったけれど、ポーションが二本も出たのでまずまずの成果という所だろう。
転送装置で地上に戻ると外はまだ明るくギルド内も活気にあふれていた。
さて、サクッと手続きをしてみんなの所にもど・・・。
「新明君ちょうどいい所に!」
受付に行こうと思ったら裏から主任が飛び出して来たと思ったら俺の顔を見るなり近づいてくる。
これはどう考えても普通じゃない。
あぁ、今日は晩飯を一緒に食えないな。
それだけは確信した。




