151.勢いで迎え入れることになりました
「だから、言ってやったんです。『こんなところで文句を言っている暇があるならさっさとダンジョンに潜って稼いで来いっ』て、でもそれってつまり自分も当てはまるんですよね。お金が欲しいなら文句を言わないで仕事してたらいいのに、それこそ先輩みたいに嫌な探索者に媚び売ってギルドに売って貰えたら成績も上がって寮も良い部屋を回してもらえるんですけど、どうしてもそれが出来なくて・・・。」
顔を真っ赤にした七扇さんがグラスに入ったビールを一気に流し込み、ダン!と机の上にグラスを置く。
何故こんなことになっているかというと、とりあえず時間を少しだけ遡ってみよう。
ギルドを早々に脱出した俺達は外で待つ桜さん達と合流、ギルド前で待機してくれていたバスに乗り込んでそのまま宿まで送ってもらった。
最初は寄り道するっていう話もあったけど七扇さんが一緒なので今日はそのまま戻ることにしたようだ。
「え?」
「ほら、後ろがつかえてるから早く早く。」
「で、でもこんな所に?私なんか場違いじゃありませんか?」
「そんなことないですよ、大丈夫ですって。」
初日同様玄関前にずらっと並ぶ仲居さん達にビビりまくっている七扇さんの肩を桜さんが押しながらバスを降り、そのまま離れまで移動。
まるで借りてきた猫のような感じになった七扇さんを桜さんと須磨寺さんが途切れることなく話し続ける。
気持ちはわかる、俺も最初はそんな感じだった。
「こんないい部屋、初めてです。」
「ちょうど一部屋開いていてよかったですね、ご飯食べたら遅くなりますし今日はそのまま泊まって行ってください。」
「え、でもご迷惑じゃ。」
「大丈夫だって、和人君も女の子が増えたほうが嬉しいでしょ?」
「ノーコメントで。でも迷惑じゃないからそこは安心してくれ。」
下手なことを言って桜さんの機嫌を悪くするのもあれなのでここは無難に逃げるのが吉、ご本人には申し訳ないけれど桜さん達が喜んでいるのでこのままおつきあいしてもらおうじゃないか。
ひとまず荷物を置いて各自休憩、俺は飯の時間まで自室の風呂に入ってゆっくりさせてもらうことにした。
露天風呂で探索の疲れを取りながらのんびりすること数十分、そろそろ上がろうかというタイミングで部屋の内線が鳴る。
「和人君ご飯だってー。」
「了解、すぐ行く。」
急いで身支度をしてリビングに向かうと、そこには鮮やかな色浴衣に袖を通した三人が一足先に座っていた。
七扇さんを中心に彼女をはさむかのように並んで座る三人。
ってことは俺がその前に座るのか?
「お待たせ。」
「和人さん大丈夫ですか?」
「おかげさまで。七扇さんはちょっとはゆっくり・・・出来るはずがないか。」
「あ、あの、本当に私なんかがご一緒していいんでしょうか。私なんてギルドでも下っ端の何もできないDランク上がりですし皆さんのような実力者と一緒にいるなんておこがましいというかなんというか。」
「まぁまぁそう気を使わないで。今日だって二人が七扇さんを無理やり連れだしたようなものだし、個室の手配とか色々してもらって助かったからそのお礼みたいなものだよ。」
恐縮しきりの七扇さんをリラックスさせるべくしっかりとフォローを入れておく。
連れ出したのは事実だし二人が喜んでいるのも間違いない。
いきなりこんなところに連れてこられたら俺だって同じような感じになるだろうけど、でもまぁせっかくの機会だしギルドの内側とか色々と聞かせてもらえたら面白いかもしれない。
もちろんそれをしたから便宜を図ってほしいとかそういう下心があるわけではない、あのギルド長の反応を見る限りそんなことをお願いしたら後々大変なことになりそうなのでそういうめんどくさいことはしないに限る。
しばらくして各々の前に料理が並べられ、琥珀色の液体がコップに注がれる。
あぁ、労働の後の一杯ってなんでこんなにテンションが上がるんだろうか。
「それじゃあ和人君、音頭よろしくぅ。」
「俺が言うのかよ。」
「お客様の前だよ、ほら早く早く。」
「やれやれ。あー、とりあえず今日はお疲れ様。色々あったけど中々の収入になったし、明日以降も同じぐらい稼ぎながらコツコツ探索を続けよう。七扇さん、今日はお付き合いありがとう。色々大変だと思うけどとりあえず今日は付き合ってもらえるとありがたい。それじゃあ、かんぱい!」
「「「かんぱーい!」」」
そんな感じで始まった食事だったんだけど、最初こそチビチビやっていたはずの七扇さんが二人に飲まされたのかはたまた雰囲気で飲みすぎたのか良い感じに酔いまくってしまい、何かしらのスイッチが入った結果さっきのようになってしまったというわけだ。
中々の生い立ちに全員が動揺している中、そんなこと関係ないといわんばかりにたまった鬱憤が吐き出されていく。
なんだろう、ギルドの暗部っていうかそれよりも深いところを見せられている気分だ。
おそらく城崎ダンジョンがそうなだけであって全部が全部あそこ程腐っているとは思えないけれど、それでも現役職員の口から出てきているわけだから間違いじゃなんだろうなぁ。
「うぅ、凛ちゃんがそんなに苦労しているなんて知らなかった。」
「自分で言うのもなんだけど僕も中々不幸じゃない?でもそれに匹敵するぐらいに凛ちゃんも大変みたいだし、ほんと頑張ってると思うな。あんたはえらい!ほら、和人君も何か言ってあげなよ。」
「あー・・・なんだ、これを機に職場を変えてみたらどうだ?別にギルドはここだけじゃないし、引っ越ししてもいいなら他のギルドを紹介できなくもない。借金に関しては何とも言えないが別のギルドで稼げばちゃんと払えるわけだしやることやってたら文句は言われないだろう。」
「それってつまり、私を拾ってくれるってことですか?」
「ん?」
いや、なんでそういう話になるんだ?
俺はただ主任とか別のギルドの職員を紹介して動いてもらえたらと思っただけなんだが、なんでそんな話になってしまうんだろうか。
そもそも拾うって野良猫じゃないんだからそんなことできるはずもなく・・・。
「僕たちというものがありながら目の前で別の女の子を口説こうとするなんて、でも凛ちゃんなら許せちゃうかも。」
「あんなにお仕事頑張って報われないのならいっそ私達と一緒に来てもらった方がいいような気がしてきました。買取とか素材系は綾乃ちゃんにお任せできますけど、資料集めとかギルドの手続きなんかは凛ちゃんがいてくれる方が助かりますし、なによりあんな場所に凛ちゃんを置いておくことなんてできません!」
「いや、そもそも口説いてないから。」
「なんで口説かないの!?」「なんで口説かないんですか!?」
「会ってまだ数時間しか経ってないんだぞ?それなのにいきなりこんな男に口説かれたら恐怖以外の何物でもないだろうが、なぁ七扇さん。」
慌てて助けを求めるも本人はいい感じに出来上がってしまっているのか、なんとも言えない表情でこちらを見て来る。
更にはその両隣からもものすごい圧力をかけられているんだがどうしたもんか。
今後を考えるとギルドに精通している人がいても悪くはないんだが、俺のスキルとか色々と秘密にしなければならないことが多いだけに気軽に決めるわけにはいかないわけで。
「あそこから連れ出してくれるならなんでもいいです。それに私は新明様より須磨寺様の方が・・・」
「ん?凛ちゃん何か言った?」
「なんでもありません!」
「じゃ、じゃあとりあえず城崎ダンジョンに潜っている間は手伝ってもらうって事でどうだ。俺達のダンジョンに詳しい職員についてもらえる方がありがたいし、いまさら別を探すのも面倒だし。」
とりあえず今は逃げるのが一番だ。
この感じだとずっと雇うとかそんなことを言われかねないので期日を決めてお願いしておこう。
何事も保険をかけておかないともしもの時大変なことになる。
ほんとどうしたもんかなぁ。
コップになみなみと注がれたビールを一気に流し込み、盛大なため息をつきながら七扇さんの扱いについて思案するのだった。




