150.査定結果を聞いて驚きました
「は?」
「だからー、全部で43万円。あ!2割増だから51万円か」
「和人さん・・・」
「皆まで言うな、俺も信じられん。」
初の城崎ダンジョンを無事に走り抜け、査定を須磨寺さんに任せて風呂や着替えを済ませて最初と同じく会議室に集合したわけだがそこで想像もしていなかった結果を聞かされている。
たった一日潜っただけで50万?
冗談だよな?
「凛ちゃん、何とか言ってあげてよ。」
「綾乃さんの言うことに間違いありません。今回持ち帰っていただいた鉱石類が全部で45個で31万円、ロックフロッグの皮と舌、岩ルマジロの鱗が全部で7万円、そして鉱石結晶が5万円になります。ミネラルタートルの分も含まれているとはいえ初回で鉱石45個はかなりの数字ですよ。」
「ほらー、嘘言ってないでしょ?僕たちの頑張りが50万円以上になったんだよ!もっと喜ぼうよ!」
「綾乃さん呼びになってる・・・。」
「凛ちゃんと呼ばれましたので。」
さも当たり前のように言うけどギルド職員を下の名前で呼ぶってどうなんだ?
最初に会った時から普通の職員と違うなと思っていたけれど、まさかそこまで親しくなっているとは思わなかった。
別にそれが悪いとは言わないが下手に他の探索者に目を付けられるのが嫌だなと思っただけだ。
「いや、まぁいいんだけどさ。ギルドがその金額で買ってくれるのならこっちとしてはありがたい話だし、それだけあればしばらく宿代を気にしなくても済みそうだ。」
「10日分は払えますね。」
「だな、それまでに走破できなくてもとりあえず寝るところには困らないだろう。毎日この半分でも稼げば装備を更新したりクリスタルを買う余裕も出てくるだろうから無理に六階層まで行かずに稼ぎ続けるのもありかもな。」
今回はちょっとイレギュラーな稼ぎ方をしてしまったけれど、鉱石発見のスキルがあれば確実に鉱石を掘り当てられるので稼げないということがない。
その中でレア物が出れば万々歳、三階層はともかく二階層迄を往復するだけでもかなりの額を稼げるだろう。
そこで稼いだ金を新しい装備につぎ込んで更新しつつ、下に潜ってさらに稼ぐ。
可能ならクリスタルを使って新しいスキルを手に入れたいところだが、これに関しては当たる保証はないのでまずは装備の更新からやっていこう。
うまくいけば階層主でドロップする可能性もあるし、その場合はありがたく使わせてもらうさ。
「これだけ稼いで10日分、いったいどんなお宿に泊まられているんですか?」
「んー、ちょっといい所?」
「そんな感じです。」
「いやいやあの規模をちょっといい所で済ませるのはどうかと思うぞ。」
世間からすればちょっとどころかかなりいい所、なんせ通常価格は15万円だからこれだけ稼いでも三日しか滞在できない。
今回は大道寺グループのコネを使って金額を抑えてもらっているだけだし、それをちょっとで済ませるのは申し訳なさすぎる。
須磨寺さんが今のお宿についてさらっと説明したのだが、話を聞いていた七扇さんの表情がどんどんと暗くなっていった。
「・・・いいなぁ。」
「凛ちゃんはどこに住んでるの?」
「私はギルドの寮に住まわせていただいています。八畳のワンルーム、トイレ風呂は共同です。」
「ん?ギルド職員になれるってことは元は探索者だよな?」
八畳ワンルームで風呂トイレ共同って俺のボロアパートをちょっと良くしただけじゃないか。
腐っても元探索者、E級ダンジョンを走り回るだけでもそこそこの稼ぎにはなるんだしもっといい部屋に住んでいてもおかしくないと思うんだが。
いやまぁ何か事情があるのかもしれないけど、それを深掘りするのは流石に気が引ける。
「皆さんと同じDランクまではなんとか。でもその先はなかなか難しくて、家庭の事情もあってギルドの職員に推薦してもらったんです。」
「えー、でもギルド職員って結構もらってるんじゃないの?今日の鉱石だって卸すとそれなりの金額になるし、もっといい場所に住んでると思ってた。」
「私もです。職員さんはみんな素敵な人ばかりですしもっと華々しい感じだと思ってました。」
「そうだったらよかったんですけど、ほんとどこに行っちゃうんでしょうね。」
なんとも遠い目で壁の方を見る七扇さん。
なんだろう、ギルドの暗部というか見ちゃいけない部分を見せられている気がする。
探索者になればもっといい生活が出来る、そう信じて探索者になっただけになんだかショックだ。
でもまぁ寮が偶然そういう所なだけで給料はそこそこもらっているかもしれないし、何なら節約してあえてそこに住んでいるという可能性もワンチャン・・・。
なんともお通夜みたいな空気になってしまったその時だ、どこからか子犬が鳴くような音が聞こえてきた。
慌てて周りを見渡すも子犬がいるはずもなく、代わりにおなかを抑えて顔を真っ赤にする七扇さんの姿が目に飛び込んでくる。
横から視線を感じ慌ててそちらを見ると桜さんが真剣な顔で首を横に振っていた。
あ、なるほど。
下手に話題にすれば彼女を辱めることになる。
この世の中、やれセクハラだなんだといわれてしまうだけに余計なことはしないほうがいいだろう。
「まぁまぁそういう難しい話は偉い人に任せちゃおうよ。重たい荷物を背負ってたから僕もうお腹ペコペコ、はやく宿に戻ってご飯にしよ!凛ちゃんももちろん来るよね?」
「え?」
「は?」
「だってもう定時でしょ?和人君の名前出したらサクッと上がれるだろうし外で待ってるから早く来てね。」
いや、定時は定時かもしれないけど俺の名前を出したところで早く上がれる理由にはならないと思うんだが?
当の本人もかなり驚いているしそんな急に誘っても別の用事があるかもしれないじゃないか。
「いいですね!実はギルドのお仕事がどんなのか聞いてみたかったんです、もちろん七扇さんがよければですけど。」
「桜ちゃん、凛ちゃんって呼ばないと。」
「あ、ごめんなさい凛ちゃん。」
「いえ、大丈夫です。でもご迷惑じゃ・・・。」
「大丈夫大丈夫!ほら、和人君がサインしないから凛ちゃんのお仕事が終わらないじゃない。お詫びとしてカウンターまで一緒にもっていってよね。」
「ういっす。」
なんだかよくわからないが俺のせいにされたので責任を持ってカウンターまで買取承諾書を持っていこうじゃないか。
二人は一足先にギルドの外へ。
それを見送り何とも恐縮した感じの七扇さんと共にカウンターまで移動すると奥から無理やりスーツを着てます!っていう感じの中年職員が慌てた様子でこちらへかけてきた。
「これはこれは新明様、探索お疲れ様でございました。まさか初日からこれほどの成果を上げられるとは、今後も城崎ダンジョンに潜られるご予定が?」
「今のところは。」
「ありがとうございます!今後とも是非城崎ダンジョン、そして我らがギルドをご利用いただければ幸いでございます。わたくし、当ギルドを管理しております代表のお茶の水と申します。どうぞどうぞこれからもごひいきに。」
まさか現実に揉み手をしながらペコペコ頭を下げる人がいるとは思わなかった。
脂ぎった顔で何度も頭を下げるなんとも腰の低い感じの代表だが、周りの職員の反応を見る限りあまりいい評価は得られていなさそうだ。
須磨寺さんの話じゃ鉱石でそこそこ儲けているはずなのにギルド内はあまりきれいじゃないんだよなぁ。
もしかしたら寮が狭いのもこの人が原因だったりして。
もちろん確証はないけれど、なんだかそんな気がしてきた。
「そうだ、仲間が七扇さんの事を気に入りましてぜひ食事をと言っているんですがこのまま同行してもらっても?」
「七扇をですか?それはまぁ構いませんが・・・もっといい子もいますよ?」
眉間にしわを寄せて露骨に嫌な態度をとるデb、じゃなかったギルド長。
本人を前にしてもっといい子ってのはあまりにも失礼じゃないだろうか。
だがそれを今言うと色々とややこしくなりそうなので七扇さんには申し訳ないがスルーさせてもらおう。
「仲間は彼女がいいらしいんで。」
「わかりました。ほら、さっさと準備をしろ、新明様を待たせるんじゃないぞ。」
「は、はい!」
「申し訳ありません。昔からあまり要領のよくない子でして、ですが本当によろしいのですか?もっとスタイルのいい可愛い子もおりますが。」
視線の先には確かにナイスバディな職員の姿がある。
この人がこんな態度ではなくさらに桜さん達がいなかったらぜひお願いしたくなる感じではあるけれど、この感じなら他の探索者にも同じようなことやらせているんだろうなぁ。
なんだろうギルドの暗部っていうか露骨に嫌なところを見せられている気分になる。
それから数分、デブからこれでもかというよいしょを聞かされていると着替えを済ませた七扇さんが裏から戻ってきた。
「くれぐれも新明様に迷惑をかけるなよ、それではどうぞごゆっくり。」
一刻も早くこの場所から立ち去りたい、そんな気分のまま外で待つ二人の場所へと急いだ。




