148.転がる魔物を誘導しました
天井から落ちてくる舌の長いカエル。
やばい!と思うより早く体が動き、推定落下地点より前方に飛び込むようにして回避、すぐさまリルを召喚して警戒させつつその場で回転して三節棍を短く構える。
これが二節だったらこんな狭い場所で振り回せなかっただろうけど、三分割することで狭所でも一応戦うことができそうだ。
「桜さん消化液に気をつけて!」
「わかりました!」
一瞬の判断が上手くなったのも師匠に鍛えてもらったおかげ、無防備にこちらの背を向けるロックフロッグ目掛けて棍を振り下ろそうとしたその時だ。
蛙が180度ぐるりと上半身だけ回転させ、あろうことか長い舌で振り下ろされた棍に絡みついてきた。
そのまま上半身を戻そうとするものだからかなりの力で引っ張られ、持っていかれそうになるのを必死に抑える。
「リル!」
舌が長く伸びている今がチャンス、リルの鋭い爪で切り裂いともらおうと後ろを振り返ったのだが、そこには2体の蛙にブレスを吐いている彼女の姿が見えた。
須磨寺さんの悪い予想が的中した感じ、どうやらこいつらは通路の奥に隠れていたようだ。
前も後ろもカエルだらけ、通路が狭いこともあり自由に動き回れないのが非常にめんどくさい。
「ヤァ!」
「グゲーーーー!」
必死に抵抗していると桜さんが気合の入った声と共に蛙の下を切り裂き、棍に巻き付いていた舌が鮮血をまき散らしながらほどけていく。
ナイス桜さん、グッジョブだ。
再び棍を構えなおして痛みで暴れまわる蛙めがけて根を振り下ろして叩き潰すと、前傾姿勢になった俺を乗り越えるようにして桜さんがリルのそばに駆け寄り、ショートソードを構えて敵を牽制。
タイミングを逃した蛙たちは再びリルのブレスを浴びて動きが鈍くなったところを桜さんに攻撃されてあっけなく地面に吸い込まれていった。
【ロックフロッグのスキルを収奪しました。ラングアタック、ストック上限は後五つです。】
俺も最初の一匹からスキルを収奪してからしっかりとどめを刺して一息ついく。
ドロップは蛙の皮と舌。
まぁこれに関しては予想通りなんだけど、予想外なのはそのスキル。
てっきり消化液を収奪できると思ったのに奪えたのは舌を使った攻撃スキルのようだ。
俺の舌は長くないので他のスキル同様見えない舌か何かが飛び出すんだろうけど、五階層の階層主はこれをあてにしていただけにちょっと予想が外れてしまった。
まぁそれに関しては別途武庫ダンジョンなんかで回収できるからそこまで慌てなくてもいいんだけど、いちいち取りに行かなければならないのがめんどくさい。
「大丈夫か?」
「大丈夫です、リルちゃんもご苦労様。」
「グァゥ!」
「まさかあんなに隠れていたとは思わなくて、なんだかごめんね。」
「いや、そういう予想がついたんなら初めから其れありきで動けばよかったわけだし須磨寺さんのせいじゃない。」
むしろ数がいるということはそれだけ素材を獲得するチャンスがあるということ、意外にも皮はそれなりに使い道があるようなので一気に数を集められるのはありがたい。
更に消化液で鉱石を食べた後は体内で再精製されて稀に結晶化することもあるそうなので、周囲に鉱石がないことを考えると可能性は十分にある。
問題はこの奥がさらに狭くなっているということ。
「さて、どうする?」
「不用意に突撃するぐらいならこのあたりから攻撃しておびき出す方がいいんじゃない?」
「まぁそれが一番だよなぁ。問題はエコースキルがないから敵が見えないことと、曲がった先には届かないってことぐらいか。リルを召喚して突っ込ませる手もあるけど、そこまでしなくていいだろ?」
「そうですね、今回の目的はあくまでも走破ですから無理はしなくていいと思います。」
「決まりだな。」
素材は欲しいが無理をするほど欲しい素材でもないので程々の所で引き返すとしよう。
魔装銃を構え天井付近を狙って打ち込むこと数十発、チャージした弾倉が空になるまで打ち込んで命中したのは全部で三匹だけだったが、運よく一匹が鉱石の結晶をドロップしたので大勝利といっていいだろう。
回収後はそのまま本通りに戻り三階層への階段を探しながら恒常スキルで鉱石を掘り続ける。
あまり深く掘りすぎないついで掘りのわりにはそこそこの回収率があり、予定よりも多くの鉱石を回収することが出来ている。
流石の須磨寺さんも重そうだが運搬人の仕事なのでまだまだ頑張るとのことだった。
そんなこんなで気づけば三階層。
ここまではほぼ一本道なので鉱石目的の探索者も多かったけれど、ここから先は鉱石もそれなりに美味しくなる代わりに魔物も狂暴になってくるので注意が必要だ。
「はぁ、おなかいっぱ~い。」
「ご馳走様、今日も美味しかった。」
「お粗末様、本当は宿のお弁当にしようと思ったんだけど折角キッチンが使えるんだから何か作らなきゃって思って作ったんだけどお口に合って何よりだよ。」
「ここを抜ければ転送装置ですね、今地上は何時ぐらいなんでしょう。」
「時計を見る限り16時、何とか夜には戻れそうな感じだな。」
無事に走り抜けるのが前提ではあるけれど、そもそもダンジョンを走破しようって言っている奴がこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
おなかも満たされたわけだし三階層も一気に駆け抜けてしまおうじゃないか。
「この階層に出るのは岩ルマジロでしたよね。」
「見た目はコロコロしてて可愛いけど、実際あいつがものすごい速度で転がってくると中々怖いものがあるよ。体当たりされたら骨折する可能性もあるから出来るだけ受け流すようにしてね。」
「受け流しですね、分かりました。」
岩ルマジロ。
名前から察した通りごつごつした背中を丸めて転がってくる魔物で坂道とか関係なくものすごい速度で襲ってくる。
転がってきたらとりあえず逃げることが先決、一応盾なんかで受け流すことで速度を落とすこともできるけれど難易度的にはかなり高いらしい。
因みに肉をドロップするらしく、しかも中々に美味しいとのことなのでリルのおなかを満たすためにも見つけたら倒す必要がある。
二階層よりも通路は狭く薄暗い通路を慎重に進んでいくと、先を良くリルが小さなうなり声をあげながら立ち止まった。
「いたか。」
「わふ。」
「ここからじゃわからないけどとりあえずさっき言ったとおりの対応で行こう。」
「了解です。」
通路の先は薄暗くリルにはわかっても俺達には何も見えてこない。
もう少し進めばわかるんだろうけど下手に近づいて避けられないのも嫌なのでとりあえず様子見だ。
その場に止まったものの向こうも同じことを考えているのか一向に動く気配がない、となるとやることは一つだけ。
先程の様に魔装銃を構えて薄暗い通路の奥へ照準を合わせここだろうと思うところめがけて弾を発射、すると壁でもないところで火花が散り、うっすらと丸い影が見えた。
あそこか。
「来るよ!」
先制攻撃を受けて怒った岩ルマジロがものすごい音を立てながら転がってくる。
避けるのは簡単、でも予想以上の速さに受け流すことが出来ず桜さんがそのまま後ろに倒れそうになってしまった。
坂道でもないのになんて力、これが下り坂だったら止めようがないぞ。
「無理しないで!でもあまり時間をかけすぎると仲間を呼ぶからもっと大変になるよ。」
「つまり無茶しすぎない程度に無茶をして倒せってことだな。」
「あはは、そうともいう。」
「リル、突っ込んできたらすれ違いざまにブレスを頼む。直撃しなくてもいいからそこを通らせて少しでも速度を落としていこう。」
「わふ!」
とにもかくにもまずははあいつをどうにかしないと始まらない。
高速で襲い掛かる攻撃を出来るだけ受け流しつつ速度を殺しその隙をついてとどめを刺す、頭で考えるのは簡単だけどそれを実行するのがなかなかに難しいわけで。
城崎ダンジョン三階層。
高速で襲いくる最初の難関を前にどういう戦い方をするべきか必死に考えるのだった。




