146.鉱石がたくさん転がっていました。
城崎ダンジョンは鉱石であふれている。
前に読んだダンジョン雑誌に書かれていたのはあながち間違出はなかったようで、新しく収奪したスキルによって鉱石の採掘効率はぐんと上昇。
なんせどこにあるのかわかっているので誰も掘っていない場所を探してピッケルを叩きつければ何かしらの結果が出てくるんだからありがたい話だ。
もっとも、その場所の奥なのか手前なのかは運しだい。
すぐに出てくるのもあれば光っているけれどどこまで掘っても出てこないってのもあったので、絶対に回収できるわけではなさそうだ。
それでも無作為に叩く必要がなくなっただけでも気分的には非常に楽、話し合いの結果城崎ダンジョンでの恒常スキルをこれに変更することで金銭効率を上げていくことが決定した。
「ほんと規格外だね、和人君は。」
「俺というかスキルだけどな。」
「どこにあるかわかるだけでもチートなのに、それを連続して使用できるのはほんとずるいと思う。毎日毎日あてもなく掘り続けている彼らに知られたら・・・大変だね。」
「大変ですめばいいけどな。」
恨みを買ってボコボコにされるか最悪殺されるか。
鉱石を欲している企業からすればのどから手えが出るほど欲しいスキルだろうから、採掘場に連れていかれて奴隷のように場所を教え続けることになるのかもしれない。
つまりそれだけヤバいスキルが一階層で手に入ってしまったわけだが、これは絶対に口外できないなぁ。
「とりあえず中身については全員お口チャックでよろしく。」
「わかりました!」
「スキルも確保できたし次に行っちゃう?」
「そうだな、ここで掘り続けるのもいいけど今日の目標はあくまでも三階層走破だからそっちを優先しよう。もちろん掘れる場所があったら掘るつもりだけど、優先はあくまでも探索で。」
「とか言って掘り出すのが楽しくなってるんじゃない?」
「楽しいのは楽しいけど、結局疲れるのは俺だからなぁ。」
二人がピッケルを振ってくれれば多少は楽になるけれど残念ながらその気はないらしい。
いや、桜さんはやる気だったけどどうやらこういうのに向いていないようだ。
「チッ、ダンジョンに女連れてくんじゃねぇよ。」
その時だ、鉱石を掘り当てて休憩していると横を通り抜けた探索者が露骨な舌打ちをしてから文句を言ってにらんできた。
今までは遠巻きに睨んだり舌打ちされたりはあったけれどここまで至近距離で悪意を向けられるの初めての事、でもまぁ覚悟はしていたし別に怖くもないので何とも思っていないのだが・・・。
「どうして女だからってダンジョンに入っちゃダメなんですか?」
まさか桜さんが反応するとは思わず俺だけでなく舌打ちした相手も驚いた顔をする。
だがどうやらそれが逆鱗に触れたらしく真っ赤な顔でこちらに近づいてきた。
「ここは遊び場じゃねぇんだよ。いっちょ前に武器なんてぶら下げて男に媚びうっていいご身分だなぁ。それとも女連れなのを自慢したいのか?ちょっと鉱石を見つけたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ。」
「媚びなんて売ってませんし和人さんは調子になんてのってません。貴方こそ鉱石を見つけられなくて八つ当たりしないでください。」
「なんだとこのアマ!」
オブラートに包むわけもなく本音を相手にぶち込みまくる桜さん。
荒くれ者っていうかどう見ても残念な見た目をしたこの人にそのセリフはガソリンを投入するのと同じこと、流石に間に割って入ろうと思ったその時だ。
「まぁまぁそんなに怒らないでよ。僕たちが可愛いのは事実だから仕方ないとして、別に和人君は自慢したいわけでも調子に乗っているわけでもないんだ。ちょっと鉱石を見つけるのがうまいだけ、お兄さんだってそんなに真っ黒になるぐらい掘っているんだから見つけるのは得意なんでしょ?そんなに得意なんだったらどっちが先に鉱石を掘り当てるか競争してみようよ。もしお兄さんが先に見つけたら僕たちが見つけた鉱石、全部あげちゃうからさ。」
激情した男と桜さんの間に割って入ったのは須磨寺さん、てっきり仲介するのかと思いきやいい感じにディスっていくだけでなく勝手に勝負事まで始める始末。
カバンをひっくり返して回収した鉱石をぶちまけた瞬間、男と周りにいた人たちの目の色が一気に変わった。
「ちなみにだれでも参加してくれて構わないよ、ただし和人君が先に見つけた場合は参加したみんなの鉱石を一つずつ置いて行ってもらうからよろしくね。」
いや、よろしくねって勝手に話を進めないで欲しいんだけど?
確かに今のスキルがあれば場所はわかるけど、壁の奥深くだったら目も当てられないんだが。
そんな俺の動揺など知るよしもなく、あっという間に話は広がり二階層へ降りる階段前にある巨大な空間に多くの探索者が集合していた。
参加者は全部で20人、その他仲間や野次馬を加えるとその倍近くの探索者が集まっている。
「それじゃあもう一度ルールを説明するよ、この大きなホールの中から先に3個の鉱石を見つけた人が勝ち。不正を防ぐために荷物はこっちで回収するからよろしくね。勝った人には僕たちが集めた鉱石全部とこの場で各自が集めた鉱石の一つを没収出来る権利がもらえる、ここまではいいかな。」
「つまり二つ以上見つけたら一個は手元にも残るってことだよな?」
「さっすがお兄さん理解が速い、つまりはそういうこと。一つだけだったら残念だけど二つ以上見つけたら損はないし三つ見つけたらほぼ総取り、悪い話じゃないでしょ?」
「この兄ちゃんが勝っても条件は同じだよな。」
「もちろん、僕たちの石は回収するだけだし一つずつ貰うって部分も変わらない。ただし勝ちたいからってお互いの鉱石を融通するとかいうかっこ悪いことはやめてよね、みんなここで見てるんだからさ。」
この勝負で一番気になっていたのはその部分。
知らない同士とはいえ一つずつ見つけた探索者が三人が結託して一人を勝者に仕立て上げれば簡単に優勝出来てしまう。
彼らからすれば負けてもここで見つけた鉱石を没収させられるだけなので懐は痛まないし、だれかが勝てば俺達の分を山分けするだけで大儲け。
なんなら他の参加者が集めたやつも手に入るけれどそれは本人に返せば何の問題も起きない。
俺を負かすだけならそういう手段も考えられただが、そこはちゃんと考えてあったようだ。
即席の勝負にしてはずいぶん考え込まれているけれど、まさか前からあるやつなのか?
「それじゃあ準備はいいかな?制限時間無制限、誰が最初に三個見つけるか!ギャラリーは好きに賭けても構わないよ!ちなみに僕は和人君に全額BETしちゃうから頑張って!」
「いや、賭け事までやるなっての。」
「まぁまぁ楽しければいいじゃない?よーーーーーい、スタート!」
須磨寺さんの合図でピッケルを手にした探索者が一斉に壁際まで走りだした。
【恒常スキルを使用しました。鉱石発見、次の使用は30分後です。】
須磨寺さんが時間を稼いでくれた?おかげで恒常スキルのクールタイムが終了、スキルを使うと同時に巨大な部屋のあちらこちらが光りだす。
その近くを掘っている人もいればそうでない人もいるけれど、俺は迷うことなく一番近くの光を目指し一心不乱にピッケルを振り下ろす。
このスキルの欠点は場所が分かってもどこまで掘ればいいかわからないという所。
場所もわからない他の探索者と比べて条件は緩いとはいえ、中々掘り出すのは大変だ。
「見つけた!」
「俺も見つけた!」
五分もすれば運よく一つ目を掘り出した探索者が現れ始める。
そのたびに巨大な空間に歓声がこだまし、その声に焦った横の探索者が別の場所を掘り始める。
その気持ちは痛いほどわかるが俺はここを動かない。
それが分かるのがやっぱり強いよな。
「和人さん頑張って!」
「負けたら僕たちの唇が奪われちゃうよ!」
いや、そんなこと知らんがな。
向こうで勝手に賭けをして余計なプレッシャーをかけてくる須磨寺さん。
それに負けずただひたすらピッケルを振り下ろし、壁の向こうに待つ鉱石を目指すのだった。




