145.ダンジョン内はお宝であふれていました
城崎ダンジョン。
玄武洞という国の天然記念物内に出来たダンジョンで等級としてはD級ダンジョン、中は一般的な通路型になってる。
五階層までの上層部では多数の鉱石が採掘されるためほとんどの探索者はここを利用するが、中層から下層にかけても珍しい鉱石や宝石の原石が採掘できる鉱脈が点在していることもあり階層主を倒せるほどの実力者はここを利用することも多い。
ただし中層以下は火山帯の影響を受けているため非常に環境が悪く、特に下層では砂漠のような熱波に襲われることもあり非常に探索が難しい場所とされている為にここまで下りる探索者は稀。
しかしながら下層でしか得ることの出来ない素材も多く定期的にギルドが討伐隊を組んで氾濫防止を兼ねた探索を行っているんだとか。
「「おぉ~~。」」
手続きを終えた俺たちは七扇さんに案内されてそのままダンジョン前まで移動、薄暗い洞窟内に突如として現れた黒い壁の向こうは巨大な坑道のような空間だった。
坑道っていうかもはやトンネル?
片側交互通行ができるぐらいのトンネルを彷彿とさせる巨大な空間に思わず桜さんと共に驚きの声を上げてしまった。
「え、そんなに驚くところ?」
「まさかこんなに人が多いと思わなくて、すごい活気ですね。」
「みんな鉱石目当てだからね、掘っても掘っても壁が崩れることはないし採掘後も時間が経てば元に戻るから安定した資源確保ができるのが一番の魅力、でもこう見えてダンジョンだから魔物には気をつけようね。」
「ミネラルタートルだったよな、ぱっと見はただの岩なのに実は生きてましたってことが多いらしい。しっかし、これだけ人が多いとリルの出番はなさそうだな。」
右を見ても左を見ても人ばかり。
ギルド同様に露骨な視線を感じるけれどチラ見する程度で文句を言ってくるような感じはなさそうだ。
とはいえここから先はギルドの目があまりない無法地帯、バレなければ何をやっても問題ないと思っている奴もいるだけに気を付けないと。
「とりあえず下を目指しつつ開いてる場所を採掘って感じだね、多田ダンジョンみたいな感じで行けばいいと思うよ。」
「了解。それじゃあ桜さんは周囲を警戒しつつ何か違和感があったら教えてくれ。」
「わかりました。」
人が多い分索敵にはあまり気を使わなくていいけれどそれ以外の部分で気を使う必要がある。
多田ダンジョンと違って目的の鉱石があるわけではないのでサクサク降りるっていうわけにもいかないんだよなぁ。
俺を先頭に壁の近くを歩きつつ、掘っている人がいない場所を見つけてはピッケルを振り下ろす。
だが一向に当りが出る様子はなくただ体力を使うだけという感じだ。
「これだけやって出ないとなると、めぼしいものは掘りつくされてるって感じなんだろうなぁ。」
「それはあるかもね、でも壁の向こうでは鉱石が復活しているはずだからどこかで何かは見つかると思うよ。」
「何かねぇ・・・。」
「あ!和人さんちょっと待ってください。」
ピッケルを肩に担ぎため息をついていると少し後ろを歩いていた桜さんが何かに反応して慌てて声をかけてくる。
彼女の横はさっきピッケルで崩した壁、まさかあそこを掘れと?
「どうかした?」
「あそこの岩、怪しくないですか?」
「んー、怪しいかって聞かれたら怪しいけど・・・。」
「多分ミネラルタートルだと思います。」
一階層を進んで早1時間程、にもかかわらずまだ一度も魔物に遭遇していないのは鉱石を掘るよりも魔物を倒した方が確実に鉱石を手に入れられるから。
なのでめぼしい奴はほとんど狩りつくされてしまい中々遭遇できなかったんだが、ついにその時が来たようだ。
一見するとただの岩、腰掛にちょうどよさそうな大きさで本当に魔物なんだろうかと思ってしまうけれど桜さんの直観はかなり当たるので間違いはないだろう。
棍を手にゆっくり近づきおおきく振りかぶって勢いよく叩きつけると、ガチン!という大きな音が通路に反響し岩の隙間から小さな首が顔をのぞかせた。
「和人さん、ここ!」
「了解!」
「次はこっちです!」
鉱石亀との名前が付くだけあって普通に叩くだけではダメージを与えられそうにないが、桜さんの弱点看破があれば確実に弱い所を狙っていける。
桜さんがキズを付けた所を順番に殴りつけていくだけで確実に相手を弱らせていった。
【ミネラルタートルのスキルを収奪しました。鉱石発見、ストック上限は後五つです。】
とどめを刺す前にスキルを収奪、最後に全力で棍を叩きつけると甲羅全体に細かいヒビが入りそのまま砕くことに成功。
息絶えたミネラルタートルはそのまま地面に吸収され、代わりに黒い鉱石を残していった。
「あ、魔鉱石。」
「最初に使っていた武器がこれだったなぁ。」
「魔力の伝導率も高いしそれなりに丈夫、魔物産だから魔素も豊富に含んでいるし最初にしてはまずまずの結果じゃないかな。」
「他にも鉱石を落とすんですか?」
「もちろん、でもほとんどが鉄とか魔鉱石だからあまり期待しないほうがいいと思うよ。それよりも・・・ねぇねぇ、どんなスキルを収奪したの?」
魔鉱石を回収した須磨寺さんが興味津々という感じで顔を近づけてくる。
近くに他の人はいないのでそこまで顔を近づけなくても聞こえると思うんだけど、まぁ念には念を入れてってことだろう。
「鉱石発見っていうスキルらしい。」
「ということはそれを使えば場所が分かるとか?」
「えぇ!そんなスキルだったら掘りたい放題じゃない。ねぇねぇ早く使ってみてよ!」
「さすがにそんな便利な奴じゃないだろう・・・知らんけど。」
もし壁の中の鉱石がどこにあるかわかるのなら、それはもうとんでもないことになる。
これまではどこにあるかわからないから皆やみくもに掘り続けているけれど、場所が分かるのならそんな無駄なことをせずに最大効率で鉱石を回収することができるわけだ。
上層階ではあまり期待できなくても中層から下層にかけてはレア鉱石も手に入るわけだし、そこで使えば億万長者も夢じゃない。
とりあえず使ってみたらわかるだろうけど・・・。
【ミネラルタートルのスキルを使用しました。ストックはありません。】
早速スキルを使用、でも近くの壁を見回しても特に変わった様子はなさそうだ。
「どうどう?どんな感じ?」
「とりあえず使ってみたけど、変化なしだな。」
「えー!どこにあるかとかわからないの?」
「今の所はさっぱりだ。まぁ、そう簡単に鉱石が見つかったら苦労しないだろうし、もしかすると一瞬だけ効果のあるタイプなのかもしれないしな。」
ちょっと期待してしまっただけに残念な気持ちになるけれども、まだどんな効果かは確定していないのでしばらく様子を見てみよう。
もしかすると化けるかもしれないし、そうなった場合は恒常スキルの入れ替えも考えなければならない。
通路型のダンジョンでエコースキルは必須、とはいえそれを変えてでも得られるものが多いのであれば躊躇する必要はない。
その為にもあと六体ミネラルタートルを探さなければならないわけで。
「とりあえず新しいのを探しますね。」
「あぁ、目標は恒常化だからあと六体。なかなか大変だと思うけど、頑張ろう。」
「それまでにスキルの効果が分かるといいね。」
「それは・・・おそらく大丈夫じゃないかな。」
武器を直して再び歩き出した時だった。
さっきまで何の変化もなかったのに一歩進むと突然そこらじゅうが光り輝いた。
突然のことに足を止めると光はなくなり、また歩き出すとまた光りだす。
赤、白、黄色、黒なんかも少しあるようだ。
この色が何なのかはさっぱりわからないし、光っているのは主に天井なので確認するのは難しい。
それでもそこに何かがあるのは間違いない。
城崎ダンジョンはお宝の宝庫、調べ物をしているとそんな文言を見つけたことがあるけれどあながち間違いじゃないのかもしれないな。
まさか一階層からこんなすごいスキルが手に入るなんて・・・。
「和人さん?」
「おーい、和人君大丈夫?」
心配そうな二人をよそに思わず頬が緩んでしまうのだった。