14.美味い話にはとんでもない裏がありました
美味い話には裏がる。
そうだよな、俺みたいな新人探索者にこんなすごい提案するなんて普通はあり得ないよな。
収奪スキルのお陰でトントン拍子にダンジョンを攻略してきた俺だが、所詮はレベル二桁にも満たないド新人。
にもかかわらず大道寺グループで使える特別なカードを貰えただけでなく、家まで用意してもらえるなんて普通に考えて出来すぎている。
だがあの状況で断れる人なんているだろうか。
探索者として喉から手が出るほど欲しい物、そして夢に向けた生活環境を改善するまたとないチャンス。
あの二つを同時に出されて断れる人なんているはずがない。
「さぁ、行きましょう和人さん」
「ちょっとまってくれ、まだ査定結果も聞いてないしそれにダンジョンから戻ってきてこんな恰好なんだ。着替えぐらいさせてくれ」
「あ!ごめんなさい、そうですよね。じゃあ向こうで待っているのでどうぞごゆっくり」
さも当たり前のように腕に絡みついてくる彼女を強引に引っぺがし、逃げるようにして更衣室に駆け込む。
とりあえず気持ちを落ち着かせるために熱いシャワーを浴び、身だしなみを整えてから更衣室の外へ、すると楽しそうに職員の女性と話していた彼女がこちらに向かって大きく手を振ってきた。
「和人さんおかえりなさい、査定金額すっごいですよ!」
「え、先に聞いたのか?」
「すみません、てっきりパーティーの方かと思いまして」
「いやまぁ、そうなるんですけど・・・。」
危険が多いダンジョンに潜るときは複数人で潜るのが一般的、その際に協力し合うパーティーをギルドに登録するきまりになっている。
そうする事で後々になって分け前で揉めたりすることが無くなり、更には戻ってこない探索者がいた場合に状況把握がし易くなる。
ただし、危険は減るものの分け前も減るので何でもかんでも複数人で動くのがいいというわけじゃない。
安全を取るかそれとも収入を取るかその辺が難しい所だよな。
「それでは査定金額ですが、キラービーの針とアングリーバードの肉にビッグムルシェラゴの牙と翼で合わせて4万円。そこに加えてアメルライト鉱石が3万円とアングリーバードの卵が4万円ですので合わせて11万円が買取金額になります」
「11万?ほんとに?」
「あ!和人さん、ゴールドカードがありましたよね?あれだしてください!」
「ん?あぁ、これ?」
さっきもらった金色に輝く特別なカード。
なんでもダンジョンで採掘された特別な素材を使っているとかで叩いても壊れないし、名前も刻印されているので所有者以外が使えないようにもなっている。
それを出した瞬間に職員さんの目の色が変わった。
「これ、上位の探索者でもめったに手に入れられないっていう特別なやつなんですよ。凄い人だとは思っていましたけど、関係者の方だったんですか?」
「いやいや、訳あって手に入れただけで関係者ってわけじゃ。これを出すと何かあるのか?」
「このカードがある方は査定金額を割り増しすることになっています。二割の加算になりますから13万2000円が本日の買取金額です。金額を変更しますので少しお待ちくださいね」
提示するだけで二割も買取金額が増えるとかどれだけ優秀なんだよこのカード。
ていうかどれだけギルドに金を出しているんだ大道寺グループは。
「お待たせしました、お連れ様と分けなくても大丈夫ですか?」
「大丈夫です、それじゃあ和人さん行きましょう。ありがとうございました!」
「どうぞお気をつけて」
「ちょ、ちょっとひっぱらないでくれって」
強引に腕をつかまれ引っ張られるようにしてギルドを後にする。
色々ありすぎて外はもう真っ暗になってしまっていた。
「この後どうします?ご飯にしますか?それともお買い物ですか?」
「とりあえず今後について話したいから落ち着ける場所に行こう」
「落ち着ける場所・・・、和人さんって結構大胆なんですね」
「そういう場所じゃないから!」
そういう場所ってどういう場所だよなんて子供みたいなことを言うつもりはない。
そりゃまだ20代だし性欲だってそれなりにあるけれど、相手が相手だけにそういう気分になれるはずがない。
何やら不満げな顔をする彼女をスルーしつつひとまず駅前の居酒屋に場所を移した。
ブラック時代に一度連れてきてもらったことがあったが個室もあるので周りを気にせず話をすることが出来る。
前は圧迫面接代わりに使われた場所だが今回は正しい使い方をさせてもらおう。
「とりあえず何か飲む?」
「じゃあビールで!」
「え、飲めるの?」
「こう見えて二十歳越えてるんですけど?っていうか探索者になれるのは成人からですよね?」
見た目がかなり幼いからかなり年下かとおもっていたがそうか、そこまで下じゃないのか。
見た目とのギャップのあってどうも違和感が。
飲み物を注文すると一分もしないうちにキンキンに冷えたグラスが運ばれてくる。
俺の方にビール、彼女の方にウーロン茶。
二人で苦笑いをして店員が行ってから中身を取り換える。
「和人さんは飲まないんですね」
「全く飲まないわけじゃないけど酒にはいい思い出がないから」
「それなら私と一緒に楽しい思い出いっぱい作りましょうね!」
「あー、そうだな」
「なんですかその反応」
「いや、なんていうか今でも信じられないっていうか。本当に大道寺家の娘なんだよな?」
今こうやって目の前ではしゃいでいる彼女こそゴールドカードを発行している大道寺グループのトップ、大道寺剛太郎の娘・・・らしい。
あのカードの他に用意してもらった新しい家、この二つを手に入れる上で提示された条件はただ一つ。
『彼女と共に生活をして実力がつくまでダンジョンに潜る時はできるだけ手伝ってほしい。』
言われた時は信じられなかったが、あの条件を聞いて断れるはずも無かったし何よりそんな雰囲気じゃなかった。
その結果、こうして彼女が俺について回っているというわけだ。
「娘って言っても俗にいうお妾さんの子だから大道寺の名前はあってもあの家を継ぐことはできないんですよね。その代わりに本家の人達よりも自由にさせてもらってますしこうやって探索者にもなれたわけで。お願いすれば武芸とかも教えてもらえたから正直やっていける!って思ってたんですけど、実際はあんな感じで死にかけていた所を和人さんが助けてくれたわけです。もうダメって思ってた所へ颯爽と現れてくれた和人さんは私からすればもう運命の人って感じで・・・でも迷惑ですよね」
まだ一口もつけていないのにハイテンションで話し始めた彼女だったが、次第に声のトーンは落ちていき最後は下を向いて俯いてしまった。
「迷惑かと聞かれたら正直わからない。助けたのも偶然だし運命とかそういうんじゃないと思うけどそれでも探索者としてあの条件は見逃せない。何より可愛い子に慕われて悪く思う男はいないだろ」
「え、可愛いですか?」
「そりゃ人並み以上には?ともかく、一緒に住むのはいいけどお互い線引きはキッチリしたいと思ってるからそこは協力よろしく。ダンジョンに潜るとしても色々と話し合わないといけないこともあるし、まずはそこをしっかりと決める時間にしたいと思ってる。ここまではオッケー?」
「オッケー!」
「なんでそんなにテンション高いかな。まぁいいか、とりあえずそういう事だからよろしくね、大道寺さん」
若者のテンションってやつだろうか、でも常に全力投球的な明るさは嫌いじゃない。
そんな彼女だったが急に頬を膨らませたかとおもったら俺に向かってビシッと指をさしてくる。
「桜って呼んでくれなきゃダメです」
「じゃあ桜さんで」
「えー、年下なんですから呼び捨てていいじゃないですか!」
「まだ知り合って間もないんだし線引きはキッチリとって話をした所だろ」
「仕方ありませんから許してあげます。でも主導権は私が握りますからね、和人さん」
「何の主導権なんだか、とりあえず乾杯」
「かんぱーい!」
カチャン!とグラスが勢い良くぶつかり彼女が笑顔に戻る。
誰かと食事を摂るなんて久々だな、そんな事を考えながら俺もウーロン茶を口に運ぶのだった。




