134.次なるダンジョンへ準備をはじめました
御影ダンジョンの次は城崎ダンジョン。
元々梅田ダンジョンを目標としていた俺たちにとってD級ダンジョン制覇は必須、そのうちの一つを制覇できたので残る一つをどこにするのかという問題が出てきた。
現時点での候補は城崎ダンジョン、兵庫県北部に位置し火属性の魔物が多数存在する通路型。
難易度でいくと御影ダンジョン程度といわれているけれど一番の問題は下層の暑さ、何でも十一階層以降は火山帯のようになっておりかなりの暑さの中戦わなければならない。
その為にも曽根崎ダンジョンなんかで定期的に訓練していくわけど、根性論ではどうにもならないので結局は道具や装備で解決していくしかない。
仮に熱気耐性スキルがあればその準備も必要ないけれど篠山ダンジョンのように都合よく手に入る可能性もないので事前準備は必要不可欠。
もっとも、すぐに暑くなるわけではないので今すぐに全部そろえる必要はないけどな。
とはいえなにも準備しなくてもいいというわけではないので事前に情報収集しながら必要なものをリストアップしてみたわけだけど・・・。
「これ、全部そろえると三桁行くよな。」
「そうだねぇ、装備を一新して更に道具もとなると確実にこえちゃうね!」
「こえちゃうね!じゃねぇよ。はぁ、俺のタワマン貯金が崩れていく。」
折角頑張って貯めたのに必要経費とはいえ数字が減っていくのは色々と辛いものがある。
まぁそれ以上の金を稼げば問題ないわけだし必要なら金策に走ればいいだけなんだけど、それでも増えたものが減るのは変わらないわけで。
「お父様にお願いして・・・。」
「それはそれ、これはこれ。俺の武器が一番金がかかるわけだし、そこは自分で出さないと。とはいえ肌着とか冷感装備って結構高いんだよなぁ。」
「そうそう、普通の発熱素材と違って魔物由来の装備になるから必然的に高くなっちゃうんだよね。」
「肌着とかは自分で買うから大丈夫ですよ?」
「サイズとか知られると困っちゃうもんね~。ねぇねぇ、そのふくよかな胸はまだまだ成長中?」
「須磨寺さん、いくら何でもセクハラが過ぎるぞ。」
見た目がオッケーでも中身的にはアウト、いくら本人が嫌がらなかったらハラスメント認定されないとはいえ今のセリフは世間的にはアウトだと思うんだが。
「は~い、きをつけま~す。でも僕はこの前一緒に勝負下着を買いに行っちゃったからサイズは知ってるんだけどね!聞きたい?」
「ちょっと、綾乃ちゃん!」
「あはは、冗談冗談。和人君がどうしてもってお願いするなら言っちゃうかもしれないけど、そうでないなら言わないよ。こう見えて口は堅いんだ。」
「全く信じられない発言だな。」
「ひどい!僕の事そんな目で見ているなんて!」
「はいはい、茶番はこのぐらいにしてさっさと行こうぜ。」
まだまだ続きそうな感じだったのでさっさとキリ上げて通いなれたドワナロクへ。
いつもなら装備品を見てからほかのものを買い付けるんだけど、今回はあえてそこを最後にしてまずは必要不可欠な物から買いそろえる。
耐熱性の高いテントにはじまり冷感下着や服、それに休憩用のタオルなんかも冷感仕様で買いそろえる。
ここで重要なのは気持ちだけ冷たく感じる冷感ではなく完全に温度を下げる冷感であるという点。
それを身に着けることで実際に数度温度を下げられるので熱中症のリスクを防ぎ、だるさや気持ちの低下を軽減させることができる。
ぶっちゃけ寒さは何とかなっても暑さは中々我慢しづらいもの、どちらも命に係わるとはいえ暑さのほうがネガティブ度合いが強いのはなんでなんだろうか。
「和人君、こっちの保冷バックはどうかな。」
「デカすぎないか?確かにそのぐらい大きい方が飲み物を冷やすには便利だがそれを引きずって歩くとなると中々に大変だと思うぞ。」
「別にカバンに入れるから大丈夫だよ?」
「カバンに・・・?」「入れる・・・?」
須磨寺さんの前には花見やBBQなんかにもっていくような巨大なクーラーボックスが置かれている。
俺は難しいだろうけど彼なら上に座っても全く問題なさそうな大きなものなのだが、それをカバンに入れる?
っていうかこれを背負ってダンジョンの中に入る?
まだまだ探索者としての経験も実績もない俺たちにとって信じられない発言なんだが、本人はいたって真面目なようだ。
「僕のカバンってこう見えてかなり伸縮するからね、このぐらいなら余裕で入るよ。っていうかそうじゃないと魔物の素材なんて入らないから。」
「確かにこの前もものすごい量の素材を押し込んでたけど、あれって桜さんのポーチみたいに決まった容量まではいくらでも入るとかそういうのじゃなかったのか。」
「んー、そういうカバンも確かにあるけど値段で言ったらそれこそ和人君の目指すマンションぐらいするんじゃないかな。」
見た目以上の容量が入り、さらに重さを感じないともなればそりゃその値段にもなるか。
重さを気にせず見た目以上の荷物を運べる、ダンジョンがこの世に生まれて以降様々な物流革命が起きたけれどその最たる例が運搬人スキルとマジックポーチ。
特に後者は重量を気にせず物を運べるということもあり非常に重宝されている。
もっとも、中身に関しては鑑定スキルがあれば一発でわかってしまうのでやばいものを運ぶのに重宝するというわけでもない。
なんせ持ち主以外でもカバンの中身は取り出せるし、結局のところ質量を無視して運べるってのが一番の
魅力だろうな。
ちなみにゲームのようなイベントリ的なスキルは未だ発見されていない。
「カバンに入るならありがたい話だけど、くれぐれも無理はしないでくれよ。なんせ城崎ダンジョンは鉱石の宝庫、それらも持ち帰らなきゃいけないんだから。」
「その辺は心配ご無用、それにこの大きいのを持ち込むのは二桁階層よりも下になってからだから。」
「それなら今買う必要はないのでは?」
「桜ちゃん、君が裏切るとは思わなかったよ。」
冷静な桜さんのツッコミにより巨大クーラーボックスの購入は見送られることになったけれど、ダンジョン内が暑いのは事実なのでもう少し小型のやつを買うことは決定。
御影ダンジョン内で感じたあのうだるような暑さとは違うだろうけど、曽根崎ダンジョンのあの暑さを思い出すと飲み物なしではやっていける気がしない。
「ずいぶん買い込んだなぁ。」
「えへへ、一つ買うとついもう一つってなっちゃいまして。」
「女の子の買い物に口を出しちゃダメなんだよ、和人君。」
「それはそれ、これはこれ。それに購入すること自体には何も言ってないだろ?」
「そういえばそうだね。」
「財布に余裕があるのなら買えばいいだけ、個人の財布の中身にまでとやかく言うつもりはないさ。まぁ、色々言いたい部分はあるけどなぁ。」
なんでそんなに衣料品が多いのかとかその探索道具は必要なのかとか、色々思うところはあるけれど城崎ダンジョンともなると自宅から通うことはできなくなるのでそういったこまごまとしたものを先に買っておきたくなる気持ちはわかる。
俺達なら大丈夫、そう信じてはいるけれどもしもに備えるのもまた探索者の宿命。
命はひとつしかないんだからそれを守る道具を金で買えるのなら安いもんだろう。
「あとは和人君の武器だね。」
「流石に火属性ダンジョンに火属性武器はナンセンス、氷装の小手があるとはいえできればいい感じのを見つけたいところだ。」
「私も新しい武器に挑戦しようかなと思っているので、そっちも探してみます。」
「そうなのか?」
「師匠にいろいろと相談に乗ってもらって考えているんです。」
なるほどな。
何事もチャレンジが大切、低階層ならリルもいるし挑戦しても大丈夫だろう。
とにもかくにも装備がなければ始まらない。
いざ行かん、決戦の地へ!




