128.ダンジョンの中を走り回りました。
「くそ、いつまで走ればいいんだよ!」
悪態をつきながら後ろを振り返ると三頭のゾンビ犬が俺たちを追いかけていた。
立ち止まって倒すこともできるけどそれをしてもまた新しい奴がやってくるし、デッドランナーに周りを囲まれてしまう。
今のところ須磨寺さんはピッタリ後ろをついてきてくれているので大丈夫だと思うけれど、いつまでも走り続けるわけにもいかないだろう。
ダンジョンでゾンビと鬼ごっことか全く笑えないイベントなんだが。
「和人君、もしかしてスキルか何か使ってる?」
「デッドランナーから疲れないスキルを収奪したんでなんとか。」
「えぇぇ、何それいいなぁ!僕もスタミナアップのスキルはあるけど、さすがにちょっとは疲れるんだよね。じゃあそれを使えばずっと走れるの?」
「いや、そういうわけじゃないらしい。スキルが切れると・・・。」
突然足にものすごい違和感を感じ、まるで鉄球を引っ張っているような重さを感じた。
予想通り不疲スキルは時間制限があるらしく、スキルが切れるとこんな感じで露骨に足が重たくなってしまう。
【デッドランナーのスキルを収奪しました。ストックは後三つです。】
すぐにスキルを使うと再び走れるようになるけれども心なしか切れた瞬間の重さがどんどんと増しているような気がする。
いずれスキルを使っても走れなくなるんじゃないか、そんな不安を感じながらもとりあえず今は走り続けるしかない。
「なるほどね、そんな感じになっちゃうんだ。」
「いつまでも使えるスキルじゃないらしい。っていうかここをスキルなしでどうやって走破するんだ?」
「んー、一つ言えるのは最初に走ったのは悪手だったってことだね。ずっと歩いていたらあのペースで襲ってくるからそこまで怖くないんだけど、一度でも走り出すとこんな感じになっちゃうんだよ。そうなったら一度上に戻ってリセットしてからってのが一般的かな。」
「そういうのは先に言ってくれると嬉しいんだけど!?」
「和人君まじめだからその辺も調べてるかなーって思ってたんだけど、止める前に走り始めちゃったから。」
確かに須磨寺さんに聞かなかったのは俺の落ち度だけども、どうしようもないのならスキルの効果がある間は走り続けるしかないだろう。
その為にも奴らが邪魔だ。
「リル、後ろにブレス!」
「ガウ!」
「そんでもっておとといきやがれ!」
前を走っていたリルが即座に反転、後ろから迫ってきていたゾンビ犬めがけてブレスを吐きかけ再び前に戻っていく。
動きがゆっくりになった奴らめがけて順番に棍を叩きつけ、襲い来るデッドランナーめがけて円を描くように振り回して威嚇。
どうやら一頭倒しそこなったようで、地面に吸い込まれなかった奴からスキルを収奪しつつとどめを刺してリルを追いかける。
【デスハウンドのスキルを収奪しました。抵抗波、ストック上限は後五つです。】
何かに抵抗するみたいだけど、こういう状況なんだからもっと有効なやつ持ってこいよな。
っていうかデスハウンドっていうのかあのゾンビ犬、名前だけは無茶苦茶かっこいいな。
ひとまず追いかけてきていた犬は何とかなったが、大量のデッドランナーはまだまだ後ろを追いかけて来ている。
それからどれぐらい経っただろうか、壁沿いにひたすら走り続けたものの一向に階段は見えてこず、何度か囲まれそうになったところを強引に走り抜けて切り抜けたりもした。
スキルのないリルや須磨寺さんにも疲労の色が濃くなってきている。
入口すらわからないぐらいの巨大空間。
まったく何が通路型だよ。
「あ、やば!」
突然少し後ろを走っていた須磨寺さんがそんな声を出したかと思うと、振り返ると膝をついて倒れていた。
おそらく足がもつれたか何かなんだろうけどそれを逃さずゾンビが群がってくる。
映画ならそのまま食われるパターンだが、生憎とこれは映画じゃない。
急いで駆け寄り群がるデッドランナーを薙ぎ払いスペースを確保。
荷物を背負ってのマラソンともなるとスタミナ自慢の須磨寺さんでも限界はあるようだ。。
「大丈夫か!」
「ごめん、ちょっともつれちゃって。」
「ずっと走り続けだから無理もない。くそ、リルとも分断されたか。」
足を止めれば囲まれるのがこの階層。
俺一人ならともかく彼も一緒となると強行突破もなかなか難しいものがあるわけで。
でもここで見殺しになんてできるはずがない。
「ウォーン!」
とその時だ、そんな俺たちに何かを知らせるかのようなリルの遠吠えが聞こえて来た。
魔物に囲まれたとかならわざわざ吠えることもない、となると上か下への階段を見つけたんだろう。
くそ、ここを超えれさえすれば辿り着けるのにあまりにも数が多すぎる。
須磨寺さんも山刀を手に戦う意志は見せているものの、この数ともなると中々につらいものがある。
かくなる上は彼だけでもリルと合流させれば俺は走り続けることができるわけで。
「あっぶねぇなぁ!」
左から襲ってくるゾンビの頭をフルスイングで吹き飛ばしへたり込む彼に向かって手を差し出す。
「手を!」
「え?うん!」
左手で彼の手をしっかりと握り反対の手で短く分断した棍をヌンチャクのように素早く振り回しながら走り出す。
【デスハウンドのスキルを使用しました。ストックはありません。】
使えるスキルは何でも使う。
何かに抵抗してくれることを信じてスキルを発動させると、何故か棍が当たる前に目の前にたちふさがっていた奴が左右に吹き飛ばされたように見えた。
まるで船が波を切り裂いていくようにデッドランナーの群れをかき分けて走り続けると、細い通路の前でリルが奴らを切り刻んでいた。
更には通路の奥に下り階段も見える。
「もうちょっとだ、頑張れ!」
「頑張る!でもお姫様抱っこで連れて行ってくれてもいいんだよ!」
「悪いがそのデカい鞄ごとは無理だっての!」
見えてきた希望に思わず口も軽くなる。
後はあそこに突っ込むだけそう思った次の瞬間、デッドランナーをかき分けるように真横からデスハウンドが飛び出してきた。
あ、やばい。
スローモーションでそいつが俺の首元を狙っているのが見える。
一直線に向かって来たそいつの牙が無防備な首元に刺さるより早く、バシンと何かに弾かれそのまま後方へと流されていった。
これが抵抗波。
あくまでも推測だけど外皮みたいに周りに空気の壁みたいなのができて、それが後ろに流れているんじゃないだろうか。
その見えない何かに阻まれて正面のやつらも横から来たのも後ろへと流されていく。
とりあえず何とか階段まで到達、須磨寺さんを先に行かせて俺とリルで階段を背に立ちふさがる。
「さぁ鬼ごっこは終わりだ。スキルの効果が続く限り稼がせてもらうぞ。」
「わふ!」
後ろは階段、魔物がくるのは正面のみ。
ここならいざという時にすぐに逃げ込めるし、前方しか気にしなくていいので戦うのも楽。
何より収奪したスキルで疲れない今、経験値が勝手に向かってくるのを逃す手はない。
迫り来る無数のデッドランナーを前にさっきとは違うテンションで立ち向かうのだった。




