124.稽古をつけてもらうことになりました
多田ダンジョンで回収したアタッチメント用のティタム鉱石は無事に必要数が集まったので改めてドワナロクで製作依頼を出すことができた。
およそ二週間ぐらいかかるそうだが、出来上がり次第連絡をもらえることになっているので気長に待つことにしよう。
今回は手に入れた素材を丸々俺が回収することになってしまったので代わりに須磨寺さんには買取金相当の現金をお支払い、全部で10万円也。
昔の俺が聞けば高い!と騒ぎそうなものだけど、アタッチメントそのものを買おうと思ったら倍以上の値段がするだけにこれでも十分安い買い物だ。
そりゃ自分で取りに行ったんだから当然といえば当然なんだけど、あの量を一人で持ち帰るのは不可能だし往復する手間とかを考えたらかなりリーズナブルといえるんじゃないだろうか。
「ただいま帰りました。」
「あ!桜ちゃんお帰り!」
「おかえり桜さん。」
「あぁぁぁ疲れましたぁぁぁぁ。」
帰ってくるなり共用スペースのソファーにうつぶせに倒れこむ桜さん。
倒れこんだ際にスカートが膝上までめくれあがってしまったにもかかわらず、本人はそれを直すのも億劫なようで盛大なため息をついたまま柔らかなソファーに沈んでいく。
流石の須磨寺さんも見かねた様子で捲れたスカートのすそを直してあげている。
「大変だったみたいだね、なんだったの?」
「実は、お見合いを勧められまして。」
「え!お見合い!?」
「もちろん父もそのつもりはないんですけど、相手が相手だったのでむげに断るわけにもいかず、結果早めに会ってこちらからお断りしてきました。でも相手が相手でそれがもう緊張しちゃって。」
呼び出されたと思ったらいきなりお見合いとかどんな状況だよ!と思いながらも、よくよく考えれば大道寺グループの令嬢なのでそれが十分あり得る話なのか。
しかもその日のうちに会ってその日のうちに断りを入れるという行動力。
確か見合いは女性の方からお断りを入れるのがほとんどってい聞いたことがある、それもあって早めに切り上げったかったんだろう。
しかしあの父親が断れなかった相手ってのは一体どんな人物なんだろうか。
「そんなにイケメンだったの?」
「実は、前にすれ違った月城さんだったんです。」
「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
「私だってそんな反応でしたよ。初めから断るつもりだったので写真も見てなかったんですけど、扉を開けたらあの人がいて・・・もう心臓が止まるかと。」
「ってかそんなイケメンとのお見合いなんで断ったの!?顔良しスタイル良し実力良しのAランク探索者だよ!?僕だったら二秒、ううん一秒でお願いします!って言っちゃいそうなんだけど。」
「もともと向こうもその気はなかったみたいで、義理的な感じで顔を出しただけみたいです。なのでお互い長々と話すこともないのでさっさと切り上げてきたんですけど、生きた心地がしませんでした。」
まさかあのイケメンと桜さんがお見合いしているとか、昨日の今日でこんなに接点が生まれるとは世の中何が起きるかわからないもんだなぁ。
まぁ俺なんて見合いってものに縁がないので全く関係のない話だけど。
「しかしそんな探索者に見合いを申し込まれるとは、さすが大道寺グループの娘。」
「別に嬉しくないんですけどねぇ。」
「そうなのか?」
「だって大道寺の娘だからって知らない男に言い寄られて、おべっか使われてほんとめんどくさいんです。」
「あーわかるー。可愛いからって適当に声かけてくるくせに、興味なくなったらぽい!だもんねぇ。」
「すまん、さっぱりわからん。」
イケメンとは程遠い俺には全く関係のない話だがまぁ女性にはいろいろあるということだ。
その後も残念な男について盛り上がっていた二人を見守っているといつの間にか眠くなってたのか、うとうとしてしまった。
「そうだ和人さん!」
「んぁ?すまん、聞いてなかった。」
「あらら、お疲れだねぇ和人君。」
「大丈夫大丈夫、それでどうしたんだ?」
「和人さんがD級ダンジョンを制覇したって話をしたら私の師匠がぜひ会ってみたいって言ってるんですけど、どうですか?」
桜さんの師匠といえば確か元Aランク探索者で、対人戦を鍛えまくってくれているというあの人だろうか。
そんな人が俺と会いたいだって?
一体何のために?
「俺に会いたいってどういうことだ?別にすごくもなんともない男だぞ?」
「あ、もちろんスキルのことは言ってませんよ?単純に興味があるっていうか、この短期間でそこまで潜れる実力が気になるっていうか。」
「それはつまりスキルのことを話しているんじゃないか?」
「ま、まぁ興味があるだけだと思います・・・多分。」
多分かーい。
スキルがなければただの人、そんな期待されるほどの実力はないんだけどなぁ。
とはいえ桜さんの対人戦スキルは正直うらやましいと思うし、強くなれるのであれば稽古をつけてもらいたい気持ちもある。
一体どんな訓練をしているんだろうか。
「別に話をするのは構わないんだけど、一つだけ条件がある。」
「条件、ですか?」
「折角だからその人に稽古をつけてもらえないかなと。」
「そんなのでいいんですか?っていうか師匠もそのつもりだと思います。」
「あ、やっぱり?」
そんな気はしていたんだよなぁ。
そうじゃないと俺みたいなのと会いたいなんて言うはずもないし、おそらくどんな戦い方をするのかそういうのが気になるんだろう。
知らんけど。
とりあえず近いうちに日程を合わせてくれるそうなのであとは野となれ山となれ、そこで桜さんみたいに技術を習得できればより強くなれるわけだ。
最近変なのに絡まれることも多いしそういったときに戦えるようになっておきたいっていうのもある。
別に人じゃなくても魔物相手に活用できればそれでよし、っていうかほとんどそれが目的だ。
「ほんと君たちって戦うのが好きだよねぇ。」
「そうでもないぞ?」
「そうですよ、別に戦いたいわけじゃないですし。」
「でも休みのたびに稽古はつけてもらってるんだよね?」
「それは淑女のたしなみっていうか、強くなるのに必要っていうか。」
「ほら、やっぱり。」
「いやいや強くなりたいのと戦いたいのとは別だから。」
戦いたい奴は稽古なんてつけずにそのままダンジョンに通うけど俺と桜さんは強くなりたいから稽古をつけてもらうわけで。
それを一緒にされるのは少々納得がいかないが世間的には同じように見えてしまうんだろうなぁ。
自分が強くなればそれだけ深いところに潜れるようになる。
深いところに潜ればそれだけ収入がよくなり、収入がよくなれば夢に近づくことができる。
更に言えばそれが直接自分の命を守ることにつながるから稽古をつけて欲しいわけで。
「まぁ二人が強くなればなるほど僕の懐は温かくなるから引き続き頑張って。」
「もちろん、引き続きよろしく頼む。」
「綾乃ちゃんもこうしたらいいよってことがあったら遠慮なく教えてね。」
ま、そんなわけで強くなれるきっかけがつかめるかもしれないので今度の稽古は非常に楽しみ。
後は明日からどこに潜るか、目も覚めたことだしその辺しっかりと打ち合わせしておこう。
理想で言えばDランクダンジョンだけど桜さんも一緒なのでその辺を考えて選んでいかなければならない。
強すぎず弱すぎず、収入もそこそこ残しつつ。
話し合いは夜遅くまで続き、そしてついに次なる動きが決まったのだった。




