122.武器の素材を探しに来ました
川西ダンジョンの北にあるもう一つのダンジョン、その名も多田ダンジョン。
元々は銀や銅を算出していた鉱山だったらしいんだけどその跡地にできただけあって鉱石系のドロップが多いことで有名。
ついたあだ名がダンジョン鉱脈。
鉱脈から得られる各種素材は通常のものと比べて純度は落ちるものの産出量が減らないということもあり複数の金属系企業の出資によって運営されている。
E級なので探索者であれば誰でも入ることができるのが魅力、ただ直接お金につながるとなれば色々と厄介ごとが多いのでも有名だったりする。
「ティタム鉱石を使ったアタッチメントねぇ。てっきり探索用道具専用の素材かと思ったんだがそうじゃなかったんだな。」
「軽くて丈夫、それでいて錆びない。確かに強度面ではほかの素材に比べると若干劣るけどそれでもダンジョン産だけあってある程度の衝撃には耐えられるし何より魔力伝導率が高いから属性を乗せても減衰しないってのがいいよね。」
「そいつがここの三階層から産出すると。別に一緒に来なくてもよかったんだぞ?」
「鉱石系の素材を回収するのに運搬人を採用しないとか何しに行くのって感じだよ。それに、鉱脈からはティタム以外にも宝石の原石とかも出たりするから見つけたら掘りまくることをお勧めするんだけど、その分競争も激しいんだよねぇ。」
工業製品に多用されるだけあってどれだけあっても困ることはないし、それが高値で売れるとなれば力自慢の探索者がこぞってやってくるのは間違いない。
更には金属系企業に雇われた労働者もダンジョン内で活動しているので、一般探索者が鉱脈を発見できる可能性はごくわずかだ。
今回の探索に桜さんは不参加、なんでも父親に呼び出されたんだとか。
探索実績は上げているし怒られる理由はないと思うんだけど、あぁ見えても大企業の社長令嬢だけに何かあるんだろう。
知らんけど。
「まぁ行けるところまで行って回収できないなら転送装置で地上に戻ればいいだろう。E級だし魔物もそこまで強くないはず、のんびり行くか。」
「ダンジョンデート楽しみだね。」
「いや、デートじゃないから。」
一体いつそんな話になったんだと冷静にツッコミを入れつつ、装備補強のための素材を回収するべく多田ダンジョンの入り口をくぐる。
中は想像通りのゴツゴツとした洞窟型、鉱山をそのままダンジョンにしちゃいました!的な雰囲気を醸し出している。
入ってすぐの空間は非常に広く、それこそこの間の御影ダンジョン最下層ぐらいあるんじゃないだろうか。
空間が広いのを利用して探索者が休憩する場所や食事用の店まで用意されているようだ。
っていうか必要な物全てがすっぽり入っている感じ?
なんだろうこのお祭りみたいな雰囲気は、ぶっちゃけ場所が場所だけに陰鬱としているのかと思ったらものすごい活気じゃないか。
「ここはいつもこんな感じなのか?」
「んー、仕事で何回かきてるけどいつもこんな感じだね。朝晩関係なく人が出入りしてるし坑道がアリの巣みたいに張り巡らされているから奥まったところでは女の子を買えたりもするらしいよ。」
「こんなところでわざわざ買わんでも。」
「労働契約で外に出れない人もいるからじゃないかな。ほら、ダンジョン前のゲート結構物々しかったでしょ?」
確かにギルドだけじゃなくダンジョンに入る時もライセンスの提示を求められたし、あれは外から入ってくる人を調べているんじゃなくて中から逃がさないのが目的だったのか。
そうなると犯罪者や借金を背負った人が働かされているって噂もあながち間違いじゃなさそうだ。
なんだろう昔読んだ漫画を彷彿とさせるんだが、外出権とか買わなきゃいけないやつか?
「金は借りないようにしないとな。」
「何事も質素倹約が一番だよ、僕みたいにね。」
「この間も桜さんとお揃いの服を買い込んでた人のセリフとは思えないんだが。金額がおかしかったって聞いてるぞ。」
「え、あれぐらい普通だよ普通。」
「二桁万円は普通って言わないんだけど。」
D級ダンジョンであれだけ稼げるんだから上に行けばもっと稼げるんだろうけど、それでも二桁はやりすぎだ。
一体何を買えばそんな金額になるんだろうか。
「女の子にはお金がかかるんだよ和人君。」
「はいはい、それじゃあさっさと潜ってティタムを探しにいきますか。」
「がんばろー!」
おーー!という桜さんの声が聞こえた気がするけど気のせいだったらしい。
そんなわけで巨大ホールを抜けて坑道に入るもどこもかしこも人ばかり、そこら中でカンカン壁を削る音が反響して耳が痛くなってくる。
事前に聞いていたんで防音を兼ねたインカムをしてもこれなんだからなかったらもっとすごいことになっているんだろう。
ここで何日も働いていたらあっという間に難聴になってしまいそうだ。
第一階層はほぼ企業別に場所が割り当てられているらしいのでさっさと下の階へと移動。
ダンジョンなのでもちろん魔物はいるはずなんだけどもこれだけの人がいると人知れず駆除されていたりするんだろう。
確かネズミか何かだと思うけど、屈強な男たちの前には瞬殺されるんだろうなぁ。
そんなわけでさっさと第二階層へと移動。
上と違ってここはあまり人がおらず遠くから採掘する音は聞こえてくるけれどさっきほどうるさくはない。
「やれやれ、やっとまともに話ができる。」
「上はすごいひとだからねぇ、でもこの下も中々だよ。」
「げ、マジか。」
「違う違う人の方じゃなくて、魔物のほうが。」
「あ、そっちか。でもここも何か出るだろ?」
「ストーンバットがいるけど和人君のスキルがあれば問題ないんじゃないかな。まだ恒常のままだよね?」
ストーンバットといえば鉱石を食べる珍しい蝙蝠の魔物で、稀に体内で生成された鉱石をドロップするらしい。
そこまで大きな魔物ではないけれど一匹一匹の皮膚が石のように固いからその名前がついたといわれているんだとか。
群れで来なければそこまで怖くないし、今は出してないけどリルもいるのでそこまで苦戦はしないはずだ。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は十分後です。】
先の空間が頭の中に3Dで投影されどこに誰がいるのかが手に取るようにわかる。
分岐もそれなりにあるけれどそこまで複雑な感じではないので道に迷う心配もなさそうだ。
魔装銃を手に薄暗い洞窟をためらうことなくサクサクと進む、途中ストーンバットがいたので試しに狙撃してみると体が硬いという割に一発で仕留めることができた。
須磨寺さん曰く存在を認知してから体を硬化させるらしく向こうが恐怖を感じてない間は普通の蝙蝠と変わらないらしい。
「うーん、相変わらず和人君のそのスキルはチートだなぁ。」
「使用制限があるとはいえこの間隔ならオフの状態はほとんどないし、ほんと恒常スキル様様だ。」
「普通はもっとゆっくり進むものだしストーンバットだって決して弱い魔物じゃないはずなんだけど。」
「世間的にはそうかもしれないけど俺にはそうじゃなかったってだけの話だ。残念ながら鉱石のドロップはないみたいだけど目的はそれじゃないしさっさと潜って目的のものを持って帰ろう。」
たとえ向こうが真っ暗闇でもエコースキルがあれば足元の突起から魔物の場所まではっきりとわかる。
ぶっちゃけ次のダンジョンに向けて突進スキルとかシャープシュートとかを恒常スキルにしようかと思っていたんだけどそれをする前で助かった。
じゃなかったらこんなサクサク進むこともできなかっただろうしな。
そんな感じで他の探索者よりもかなり高速で二階層も駆け抜け目的の三階層へと到着。
須磨寺さんの話じゃかなり魔物が多いっていう話だったけど・・・。
階段を一歩進んだところで感じる違和感。
いやいや、まさかそんなことが。
エコースキルが描き出す信じられない状況に思わず苦笑いを浮かべてしまった。




