12.使えないスキルが実は有用でした
突然ボトボトと落ちてくる大蝙蝠。
俺を殺そうと狙っていたやつらが突然力を失ったかのように落下を始めそのまま地面に叩きつけられていく。
雄叫びは大声を出すだけ、にもかかわらずなんで上から落ちてくるんだ?
墜落しても地面に吸収されないという事は死んでいないんだろうけどそのままピクリとも動かない蝙蝠たち。
しかしチャンスはチャンスだ。
ボロボロになった闘争心を奮い立たせて動かなくなった大蝙蝠を片っ端から叩き潰していく。
元々強襲してくるから怖かったのであって墜落すれば打ち上げられた魚と同じ、無抵抗のままトドメを刺され順に地面へと吸収されていった。
全てを倒し終えた後に残った大量の牙と翼が魔物の多さを物語っている。
一体どれだけの探索者がここで餌食にあったんだろうか、最後でこれはやばすぎるだろ。
武庫ダンジョンは比較的魔物も弱くて10階層しかないからそんなに難しくないとか言われてるけど絶対嘘だ。
「ともかく俺は生きてる、生きてる・・・よな?」
大量の魔物を倒したからかレベルアップの違和感に素材を拾う間もなくへたり込んでしまう。
目の前がぐるぐると回って目をつむっても地面が回っているような錯覚を覚え、更にはアドレナリンの放出が止まったか今度は震えが止まらない。
正直なところ雄叫びがどんなスキルかはわからなかったけれどあれが無かったら間違いなく死んでいただろう。
探索者はいつ死んでもおかしくない危険な仕事だとついこの間も教えられていたはずなのに、収奪スキルがあまりにもアタリだからって調子に乗ってしまった結果がこれだ。
今回は偶然生き延びる事が出来たけれど今後はもっと慎重にならないと。
それこそ誰かと一緒に潜ったりする覚悟を決めた方が良いかもしれない。
だがそのためにはこのスキルを公表しなければならないわけだし・・・、いや、だからそうも言ってられないんだって。
レベルアップの気持ち悪さと緊張と恐怖で思考がおかしな方向に向いてしまっている。
「はぁ、早く地上に戻りたい」
レベルアップが終わったのかやっとまともな思考に戻ってきた。
フラフラと立ち上がり吸収される前に急いで素材を回収、後は通路を抜けて階段を降りれば転送装置が待っている。
カバンを背負い直して階段の前へ、そこである事を思い出した。
「そういやエコーってどんなスキルだったんだ?」
雄叫びは使った、結局詳しい中身はわからなかったが助かったのは事実だ。
じゃあエコーは?
犬笛と同じ感じだと嫌だからって使わなかったけど、もしそうだとしても階段を下りれば魔物は襲ってこない。
それに魔物が来るとしても死角からはあり得ないからここならある意味安全に試すことができるんじゃないか?
【ビッグムルシェラゴのスキルを使用しました、ストックはあと二つです。】
スキルを頭の中で唱えるといつものアナウンスが使用したことを教えてくた。
その途端、今見ている景色とは別にもう一つの景色が直接脳内に広がっていくのがわかった。
最初は見える範囲だったので違和感はなかったが、それが次第に暗くなり見えないはずの通路の先まで見えるようになってくるのだから気持ちが悪い。
よくゲームとかであるポリゴン的な3Dマップ、あれがどんどんと作られていきあるところでぴたりと止まった。
「エコーってことは、反響か何かで先を察知してるのか?」
蝙蝠は超音波を出してそれが戻ってくる距離や角度で見えない部分までも見えるって何かの本で読んだことがある。
エコーロケーションだっけか、目の見えない人が音の反響で距離や物の大きさを認識するあれだ。
このスキルも同様に超音波的な物を出してそれを把握しつつ脳内に映像として投影している、そう考えればこの状況にも納得だ。
てっきり犬笛的な物だと思っていたのだが、これを使っておけばさっきみたいな待ち伏せも事前に分かったんじゃないだろうか。
くそ、そんな事だったらもっと早く使っていたのに!
悔しくなって階段を降りるのをやめマッピングされた辺りまで歩いてみる。
さっきまでは薄暗くて足元も見えなかったはずなのに脳内のMAPがそれをありありと教えてくれる。
【ビッグムルシェラゴのスキルを使用しました、ストックはあと一つです。】
MAPが切れた所で再度使用、やはり薄暗くて見ない部分までがくっきりと見えてきた。
なんなら壁に設置された罠まで見える。
あそこは反対の壁に手を当てながら歩いていたから気づかなかったが、もし罠の方を押していたら作動していたって事か。
なんだよこのスキル優秀過ぎるだろ。
「ん?」
MAPが形成されている途中で進まなかった分かれ道のど真ん中に何かが表示された。
この形と大きさから察するにアングリーバードではあるのだが。
「まさか・・・、いや、確かめる価値はあるか」
もし魔物まで判別できるとしたらこれ以上便利なスキルはない。
血まみれの棒を手に明かりもなく見えないはずの道を進んでいくと、分かれ道の先にアングリーバードが座っていた。
薄暗いせいかこっちには気付いていない。
見えないはずなのに足元の小石までもが見えている、そんな不思議な感覚と興奮で再び気分が高揚してきた。
やっぱり収奪スキルは大アタリじゃないか。
棒が届くギリギリのところまで近づいて力いっぱい棒を叩きつけると、突然のことに反応すらできないままそいつは前に倒れこんだ。
頭をつぶす感触はあった、即死じゃないかもしれないがもう動くことは出来ないだろう。
ビクビクと痙攣する体に触れ、スキルを確保。
【アングリーバードのスキルを収奪しました、雄叫び。ストック上限はあと二つです。】
これが大蝙蝠に有効なら今後も使わない理由はないだろう。
スキル回収後、ためらいなくとどめを刺すと肉とは別に卵も落ちているのに気が付いた。
アングリーバードの卵はドロップ品ではないため温めている所に遭遇するしか手に入れる手段はない。
そのため肉よりも高値で買取される武庫ダンジョン屈指のレア素材だ。
「これで卵焼きとか作ったらむっちゃうまかったりして」
さっきまで死にかけていたってのに食い物の事を考えられるぐらいには余裕が出てきたようだ。
エコーのストックはあと一つ。
もう少し調べてみたいところだけれどここで無理をすればさっきの二の舞になってしまうのでここは無理せず地上に帰ろう。
ダンジョンは恐ろしいところと身をもって知ったところなんだ、転送装置に乗ればすぐ来れるんだしスキルはまた収奪しにくればいいだろう。
『まだいけるはもういけない。』
とある探索者の名言として語り継がれているようにまだいけると思った時こそが一番危険だったりする。
命あっての物種だからな、あんな思いはもうこりごりだ。
おとなしく来た道を引き返して階段の前へ。
この先は新人探索者が最も気を付けるべき魔物のいる場所、次こそはしっかりと対策を練ってから挑むとしよう。
階段を降りるとわき目も降らず転送装置に直行し、地上へと引き返したのだった。
 




