118.二体の階層主と対峙しました
お宝を回収した後はいよいよ初のD級ダンジョン走破に向けた大一番が待っている。
これまでの経験上階層主が一体でも中々大変だったのに、それが二体ともなるとかなりの苦戦するんじゃないだろうか。
そりゃ収奪スキルがあるから他の人よりかはなしかもしれないけど、それでも主が二人ともなると桜さんやリルがいても簡単には走破させてくれない、はず。
でもできないとは思っていない。
今までと違って一人じゃないし、多少なりとも成長はしてきている。
「みんなしっかり休めた?」
「おかげさまで美味しい食事に温かい飲み物、そして甘い物まで出してもらったら準備万端だ。」
「食べ過ぎてお腹痛くならないでよ?」
「甘いものは別腹だから大丈夫らしい、なぁ桜さん。」
「大丈夫です!」
血糖値が上がって眠たくなるどころか活力が満ち溢れる感じ、これが最終階層へ挑もうとするテンションからくるものなのかそれとも糖分を摂取したおかげなのかはわからないけれど、今日一番のコンディションなのは間違いない。
大丈夫、やれる。
いや殺る。
たとえ相手がどんな相手であれ俺たちなら大丈夫、そう自分に言い聞かせてゆっくりと立ち上がった。
目の前にはいつもより大きな扉。
それぞれに目配せをしてしっかり頷き合ってから、その扉をゆっくりと押し開けていく。
少しずつ見える扉の向こうはいつもよりも巨大な空間が広がっており、その真ん中には例によって例に如く階層主が待機。
そいつは俺の気配を察したのかゆっくりと顔をあげ、鋭い目でこちらを睨んできた。
「え、なんで閉めちゃうんですか!?」
「話には聞いてた、理解もした、相応なものだっていうのもわかってる。だけどあそこまで恐竜っぽくなくてよくないか?」
「あはは、初めて見る人はみんなそんな感じになるよね。」
「えっとそんなにですか?」
「まぁ見てみたらわかる。」
再び扉を押して桜さんが隙間からのぞき込むと何も言わずに身を引き、小さく首を横に振った。
「あれはだめです。」
「な?」
「どこからどう見ても恐竜じゃないですか!」
「な?あれはダメだろ?」
「え、魔物ですよね?琥珀から生き返ったとかいう映画とかじゃないですよね?」
「残念ながら本物なんだよねぇ。」
御影ダンジョン最下層に待ち受けるのはラピュトルとプティラノドン。
ラピュトルの特徴は鋭い爪と牙、そして素早い身のこなしで襲い掛かってくるだけならまだしも上空から急降下もしくは炎のブレスをはいてくるプティラノドンもいる。
ってかもうラプトルとプテラでいいじゃないかと思うんだがなぜか鑑定するとこの名前になるらしい。
はぁ、ギルドの報告書とか読んでまさかそこまで似てないだろうと思っていたのに思いっきりそのままじゃないか。
「どうする、引き返す?」
「どんな相手であれここまで来て引き返すっていう選択肢はない。大丈夫だ、たぶん。」
「さっきの勢いはどこに行っちゃったんですか和人さん。」
「いやいや、あのビジュアルはさすがにビビるだろう。でもまぁやるしかない、こっちには恐竜よりすごいリルがいるんだから負けるはずがない、なぁリル?」
「ガウガウ!」
「ってなわけだから気合を入れなおしてもう一回行こう。」
深呼吸を二度、それからしっかり自分を鼓舞して再び扉を開く。
まるで野球ドームのような天井の高さと広さ、そのど真ん中に鎮座したラピュトルが早くも体を起こして俺たちの品定めを始めている。
どれから喰うのがうまいのか、そんなことを思っているのかもしれないが生憎と喰うのは俺たちのほうだ。
「リルと桜さんでラピュトルを、とりあえず俺は魔装銃でプティラのほうを何とかしてみる。危なくなったら撤退もできるからくれぐれも無茶はしないで行こう。」
「了解です!」
じりじりと近づいていくとラピュトルの後ろに隠れていたプティラが羽を広げ猛スピードで天井付近まで飛び上がり、ぐるぐると上を回り始めた。
今迄みたいに先手は譲ってくれないらしいがやることは何も変わらない。
生きてこいつらを倒してダンジョンを走破する。
魔装銃をしっかりと構え、ぐるぐると旋回するプティラの飛ぶ先を狙ってゆっくりとトリガーを引いた。
まるで運動会のようなパン!と乾いた音共にラピュトルが動き出し、それに合わせて桜さんとリルも行動を開始。
こうして長い長い戦いの火ぶたが切られたのだった。
「くそ、当たらねぇ!」
「リルちゃん無理しないで。」
「ガウ!」
一体どのぐらい戦っているんだろうか。
三十分?一時間?いや、もしかすると二時間以上戦っているかもしれない。
素早い動きでこちらを翻弄しつつ隙を見せれば即襲い掛かる獰猛なラピュトルと、上空を飛び回り同じく隙を見せるとものすごい速度で急降下してくるプティラノドン。
魔装銃を連射しても中々当てることができず、かといって桜さん達を助けに回れば炎をはきながら突っ込んでくるので放置するわけにもいかないわけで。
一度扉の外に撤退して作戦会議を行い、再び部屋に戻って戦いを繰り返すこと二度。
幸いにも弾数を気にしなくていい装備なので継続して戦うことができているけれど、正直なところ打開策は見つかっていない。
「リルちゃんブレス!」
「グァゥ!」
「駄目だ、遅い!」
「あーもう、なんであんなに後ろまで飛んじゃうかな。折角追い込んだのにこれじゃ鼬ごっこだよ。」
桜さんが攻撃を受け流しつつ隙を見てリルがブレスをするも待ってましたという感じでひらりと回避されて結局元の感じに戻ってしまう。
その隙をついてまたプティラが急降下してくるので迎撃しながら軌道を変えて突撃を回避、棍を振りぬいて当てようとするも羽にすらかすらないという残念な状況だ。
「とりあえず後ろに下がろう、大丈夫食料も水もいっぱいあるからいくらでも挑戦できる。」
「わかりました。」
再びこちらに向かってくる二体めがけてブレスと斉射を同時に行いその隙に扉の外へ。
これで三度目の撤退、非常につらい状況ではあるけれど幸いにもけがはしていないし戦意も喪失していないのでまだまだ戦える状況だ。
「みんなお疲れ様。」
「綾乃ちゃ~ん、もうつかれました~。」
「ここまで大けがしてないだけみんな凄いよ。最初よりも動けてるし、攻撃もちゃんと見えるようになってるから何とかなる!」
桜さんが須磨寺さんに抱き着きながら泣き言を言っている。
一見すると少女に甘えているようにも見えるけれど、なんであの見た目で男なのかさっぱりわからない。
ふと俺のほうを向いて「くる?」みたいな反応をしてくるけれど丁重にお断りしておいた。
「確かに次どう動くかはわかるようになったけどそれに対応する手段がなぁ。せめてプティラだけでも先に処理できればいいんだけど俺の腕じゃ中々。」
「スキルも駄目だったんですよね?」
「かなり素早い攻撃なんだけど向こうに見られていたら意味がないみたいだ。あの炎の突進に合わせてリルのブレスを当てられたらいいんだけどそれができないタイミングで落ちてくるのがさらにむかつく。」
「プティラはCランク冒険者でも苦戦する相手だからねぇ。」
「遠距離攻撃が少ないのをいいことに上をくるくる回りやがって、正々堂々地上で戦え!」
そうだそうだ~と桜さんもそれに合わせてくれるし、リルもガウガウと文句を言っている。
こんな状況でもふざけられる余裕があるだけ俺たちはすごい、そして強い。
あと一手、あと一手何かがあれば確実に超えられる壁であることは間違いないだけにそれをどうやって見つけ出すか、収奪したスキルを確認しながら必死に考える。
御影ダンジョン最下層。
待ち受けていた二体の階層主は想像していた以上の強さで俺たちの前に立ちふさがっていた。




