117.宝箱を回収しました
十四階層に待ち受ける巨大オーグル砦。
本来ならば複数パーティーで攻略するべき場所も俺たちの実力と収奪スキルがあれば制圧することなど朝飯前。
いや、言い過ぎた。
結構大変だったけど何とか制圧することができた。
【メイジオーグルのスキルを収奪しました。土塊。ストック上限は後二つです。】
【アーチャーオーグルのスキルを収奪しました。シャープシュート、ストック上限は後一つです。】
休憩しながら獲得したスキルを確認。
メイジの魔法は武器に縛りがないのか使用可能、アーチャーのスキルも今回は魔装銃でも使えたので弓専用という感じではなさそうだ。
リビングメイルで使えなかったので半分あきらめていたんだがこれは思わぬ収穫だな。
【現在のスキルレベルは5、現在所有しているのは土塊のストックが四つシャープシュートのストックが五つ突進が四つ溶解液が三つ三角飛びが二つ、恒常スキルはエコー。残りストック種は一つです。】
とりあえず現状のスキルはこんな感じ。
本当はフルバリで挑みたかったところだけどソルジャー分が開いてしまったので仕方がない。
溶解液とかも集めようと思えばできたけどわざわざあの不快な中歩くのが嫌だったので致し方がない。
「あ、そういえばレベルが上がったみたいです。」
「俺もだ。さすがにあれ全部倒すと嫌でも上がるよなぁ。」
いつものレベルアップ酔いが襲ってくるも最近はそこまできついと思わなくなってきた。
体が順応したのかどうかはわからないけど、この不快感なら戦闘中にレベルが上がっても耐えられそうな気がする。
「みんなお疲れ~、外のは全部回収してきたよ!」
「ありがとうございます。」
「いやー、まさかこの砦をこの人数でやっちゃうとはねぇ。リルちゃんがとかスキルがあるからっていうレベルじゃないよ?桜ちゃんも和人君もリルちゃんもみんなすごい!」
「そのテンションの高さ見ると外でも何か収穫があった感じか?」
「その通り!じゃじゃ~ん、まさかこれが落ちるとはねぇ。」
そういって得意げに彼が掲げたのは一本のロングソード。
見た目だけで言えば特に変わったところはないけれど、ダンジョン産の装備はどれも高値で売れるからきっとすごいものなんだろう。
「他は?」
「これだけだけど?」
「そうか、じゃああとは宝箱に期待だな。」
「ちょ、ちょっと!これだけでもすごいんだよ!?一本20万円はするんだよ!?」
「そりゃすごい。でもなぁ、俺たちの誰も使えないんだよなぁ。」
仮に桜さんが使うならともかくそうでないならただ収入が増えただけ。
もちろんそれは嬉しいんだけど、もっとこう自分たちの底上げになるような装備が欲しかった。
とはいえ弓が出ても杖が出ても使い道はないので結果は一緒だったわけだけど。
手分けして素材の回収を終えた後はお待ちかねの食事タイム。
せっかく拾ってきた装備をほめてもらえず若干不機嫌な須磨寺さんだったけど、美味しい食事を摂ればいつもの感じに戻っていた。
「ごちそうさまでした。」
「あ~美味しかった!ごっちそ~さま~。」
「それじゃあ後はお待ちかねの宝探しですね!」
「これだけデカいんだしどこかに宝箱の一つぐらいあるだろう。とりあえず順番に櫓の上を確認して、無かったら裏の住居だな。」
「りょうか~い。」
「リルちゃん行くよ!」
我先にと飛び出していく桜さんとリル、まずは高いところから確認してそれでもなかったらメインを捜索。
ぶっちゃけ外はあまり期待してないけど探してなくて後悔するぐらいなら元気なうちに探すのが一番だ。
「で、結局ここしか残ってないと。」
「暗いですね、それにちょっとにおいが・・・。」
「まぁ奴らの住まいなんてこんなもんだろう。俺はエコーを使うから桜さんも何か見つけたら教えてくれ。」
「わかりました。」
思わず鼻を腕で覆いながらも彼らが寝床にしていたであろう建物を順番に見て回る。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は十分後です。】
閉鎖空間でこそこのスキルの真価を発揮できる。
目に見えない音波を発して周囲の音を確認、隠し部屋があれば即座にわかるはずだ。
桜さんの直観スキルもそういった違和感なんかを見つけてくれるので二人そろえば確実に何かを見つけられる。
探索すること数分。
ついにその時はやってきた。
「ここ?」
「ですね、違和感があります。」
「エコーでもこの先に何か部屋がある感じだ、でもどうやって開ける?」
「こういう時は・・・とりあえず叩きます!」
ショートソードを振りかぶり柄の部分で思い切り壁をたたくも反応は無し。
押してみたりリルのブレスをかけてみても一向に開く様子はなかった。
「うーん、駄目だねぇ。」
「何かあるのは間違いないんだが、やっぱりスイッチ的なのがあるのか?」
「一応部屋の中を探してみましたけどそれらしい反応はありませんでした。」
「ぐぬぬ、ここまで来て開けられないとか悔しすぎる。」
魔法使いやシーフ的なスキルがあれば開けられたかもしれないけど、残念ながら今のメンバーにそのスキルはない。
はぁ、ここまできてあきらめるしかないかなぁ。
盛大なため息をつきつつ壁を強く押すも反応なし。
「押してダメなら引いてみろってか?」
「取っ手もないのにどうやって引くのさ。」
「そりゃ何かひっかけて・・・ってこれは?」
改めて壁をよく見ると、足元のほうになにやらキズになっている部分を発見。
攻撃したからではなく明らかに何度か触って削れたような感じだったのでその辺を適当に押してみると石材の一部がクルリと反転して取っ手のようなものが姿を現した。
全員の顔がぱっと輝き、警戒をしつつゆっくり引っ張ると土煙と共に壁が手前に動き出す。
「罠は・・・なさそうだな。」
「ほんと便利だねぇエコースキル。」
「あ!宝箱がありますよ!」
罠がないことを確認して中に入ると上は棚になっておりその下に銅色の宝箱が鎮座していた。
棚の上には何やら怪しげな薬、とりあえず回収だけ地上で鑑定してもらうとしよう。
「カギはかかってなさそうだな。」
「何が入ってますかね。」
「D級ダンジョンの定番といえばポーションとかだけど、それっぽいのは棚の上にあったし隠し扉の中ってなるとやっぱり装飾品じゃないかなぁ。」
「開けてみればわかるだろ。罠があるかは運しだい、とりあえず離れておいてくれ。」
宝箱に罠はつきもの、シーフがいないので確認すらできないけど桜さんの直感スキルが何も反応しないのを信じて棍を使って蓋を持ち上げる。
隙間が空き、ゆっくりと蓋が持ち上げられていく。
「・・・いけるか?」
「それっぽいね。それじゃあお宝はいけ~ん!」
須磨寺さんが宝箱に近づき中身を確認。
得意げに両手に掲げられたのは見覚えのあるクリスタル、それと小さなポーチ。
「マジックポーチ!」
「正解!これは大当たりだよ!」
「すごい、私初めて見ました!」
「マジックって確か見た目以上に中に荷物を入れられるってやつだよな。」
「そうそう、ある意味では運搬人泣かせの道具だけど、この大きさだとそこまでの容量はないからプライベート用かもしくは一般向けかな。」
「高いのか?」
「容量次第ですけど50万円とか物によっては100万を超えることもありますよ。容量は上で鑑定してもらわないとだめですけど、ダンジョンでしか見つからないのですっごい価値があるんです。いいなー、私も欲しいなー。」
こんなちっさなポーチがそんな値段になるのか。
大きさは親指から小指を広げた程度。
見た目だけで言えばポケットティッシュが二つぐらいしか入らないんだが、確かに桜さんのカバンとかいつも荷物がたくさん入っているし、この大きさで色々入れば便利なんだろう。
別に壊れる心配もないし一生使えると思えばこの値段も安いもの。
探索者からすればさっき拾った剣のほうが価値はありそうだけど、戦わない一般人からしたらこっちのほうが何倍も価値がある。
ともかく大当たりは確保できたわけだし、あとは最後の大仕事が待っている。
残るは十五階層。
二体の階層主が待ち受けるD級御影ダンジョン最後の戦いと行きましょうかね。




