114.恐ろしい階層に挑戦しました
改めましての御影ダンジョン十三階層。
熱帯雨林のような不快な湿度と噎せ返るような草の香りに満ちた空気に到着したその場で嫌になってしまった。
はぁ、これを後二階層も続けなければならないのか。
さらにはそこを超えたらダンジョンの最終階層が待ち構えているわけで。
今までの平和な感じから一転探索者のメンタルを殺しに来る配置に走破する前からげんなりしてしまう。
事前に調べて分かっていてもこれはちょっとなぁ。
「うぅ、服のチョイスを間違えた気がします。」
「俺もそう思ったんだけど、虫刺されはともかくヒルとか落ちてきても嫌だしここは我慢するしかないとおもうよ。実際須磨寺さんも完全防備だし。」
「本当は桜ちゃんを擁護してあげるべきなんだろうけど、ここに関してはそういうわけにはいかないんだ。ごめんね。」
「仕方ないです。」
いつもはどちらかというと可愛さ重視の服を着る彼もこの階層に関して言えばそうではないらしい。
それもあって今回は減点されずに済んだようだ。
正しいことを言って怒られるのは不思議なんだが、まぁ納得してくれたのならそれでいいか。
「ここに出てくるのは主に植物系の魔物、ウツボカズラ的なプラントポットとラフレシアのようなマンイーター、そして毒の花粉を飛ばすブラッドプラント。この緑の中じゃどこに隠れているかわからないし、なにより戦うときに場所を確保しづらいのが難点だな。」
「リルちゃんの機動力を使えないわけですね。」
「わふん。」
「それでも魔物の気配は感じるわけだし、索敵は任せた。足元から頭上まで見るべきところは多いけどそんな激しく動き回る魔物じゃないはずだから慎重に進んでいこう。」
難しそうに見えてもここはD級ダンジョン、この程度で挫折していたら先になんて進めないので頑張っていくとしよう。
須磨寺さんと一緒に目の前の葉っぱや枝を切り落としながら先を行くリルを追いかける。
少し歩くだけでじっとりと汗がしみだしてきて服に張り付き、それがまた気持ち悪くなるという悪循環。
それを我慢しながら進むことわずか数分。
先導するリルがぴたりと立ち止まり桜さんが慌てて上を見上げた。
「いる・・・はずなんですけど、どこでしょう。」
「まるで間違い探しをしてる気分だなぁ。」
「あー、そんな感じかもね。動くやつを探せ!とかそんな感じ。」
「そういうの一番苦手なんだよなぁ。」
某ファミレスの間違い探しも完遂できないような人間なのでこの濃い緑の中から魔物を探すなんて・・・って、いるわ。
「いた。」
「え、うそ!」
「あれで隠れてるつもりなのか?馬鹿なのか?」
「あー、確かにいるね。すっごい、隠れる気ゼロだ。」
スコープを覗きながら顔を上げた瞬間、巨大ウツボカズラがプラプラと揺れながら触手のような蔦を垂らしている。
真緑に映える真っ赤な口?
うーん、雑。
むっちゃ雑。
でもまぁ狙いやすいことはいいことなのでサクッと安全地帯から倒してしまおう。
しっかり狙いを定めてトリガーを引くと見事ウツボカズラのボディに命中。
悲鳴のような甲高い音と共にぽっかりとあいた穴から液体が勢いよく噴射してくる。
あ、やばい。
「逃げるぞ!」
「ワフ!」
慌てて後ろに下がるとさっきまでいた場所に液体が降り注ぎ、触れた葉っぱを見る見るうちに溶かしてしまった。
おそらく中にたまっていた溶解液か何かだろう、これを浴びたら大変なことになっていただろう。
「間一髪だったね。」
「まさかここまでの被害になるとは思わなかった、ごめん。」
「大丈夫です、そのおかげで別の魔物もつり出せたみたいなので。」
「ん?」
「ほんとだ、マンイーターが溶解液を浴びて姿を現したみたい。」
頭上ばかりに気をとられていたが、溶解液が降り注いだ地面を見るとさっきいた場所からさらに五歩ぐらい進んだ場所に真っ赤なラフレシアが口を開けて待機している。
花弁以外は土に埋もれてしまっているので葉っぱか何かで隠れてしまったらまず見つけられない。
あのでかい口の中にも同じように溶解液が満たされているだろうから、何も気にせず落ちてきた獲物は花弁についた歯でしっかりと噛みつかれて生きたまま溶かされてしまうわけだ。
うーむ、上から溶かされるよりもこっちのほうがやばい気がする。
流石、人喰いの名は伊達じゃないってことか。
「・・・知らずに歩いてたら食われていたと。」
「そんな感じですね。」
「つまりあれか、ここは直接魔物が襲ってくるんじゃなくて罠を仕掛けて待っているパターンのやつか。」
「ちなみにブラッドプラントの毒は神経性だから、気づかないうちに動けなくなったところを伸びてきた蔓にぐるぐる巻きにされて血を抜かれちゃうってやつだから気を付けてね。」
「いや、気を付けてねって言われても困るんだが?」
恐るべし十三階層。
十二階層が動物的な脅威で殺しに来たかと思ったら、今度は間接的な脅威で殺しに来ている。
気を付ければ何ともないのに気を付けるべき場所が多すぎて嫌になってしまう。
嫌になってしまうんだが・・・。
【恒常スキルを使用しました。エコー、次回使用は十分後です。】
普通ならこの時点で引き返したくなる環境も収奪スキルがあればただの不快な場所でしかない。
本来へ暗闇や閉鎖空間で実力を発揮するスキルではあるけれど、近い場所位なら魔物の位置ぐらいは把握はできるので待ち伏せを食らうこともない。
唯一ブラッドプラントの毒花粉だけは気を付けなければならないけれど、それもマスクをつけておけば防げてしまうのであとはただの的だ。
「いやー、普通はここで挫折する人が多いのにほんと収奪スキルってずるいなぁ。」
「じゃあ使わないほうがいいのか?」
「そういうわけじゃないんだけど、僕が潜ったときは結構苦労したんだよここ。」
「そうですよね。よく見ればわかるといっても探すのも大変ですし、長時間この環境にいるのは嫌になります。上も下も気にしながら歩いていたらこんな速さで歩けませんよ。」
エコースキルの仕様上途中で途切れる時間があるけれども、その間は休憩すればいいだけなので特にイライラすることもない。
進んでは休憩、進んでは休憩、魔物は見つけるたびに攻撃して素材を回収するだけの簡単な探索。
環境さえ無視すればある意味御影ダンジョンで一番簡単な場所かもしれない。
それもこれもすべては収奪スキル、さらに言えば恒常スキルがあるおかげだ。
ここに来るまでに二桁回数は使用しているので普通のスキルだけだったら途中で引き返すか挫折していたことだろう。
ほんと恒常スキル様様ってやつだなぁ。
「まぁ俺たちにはそれがある、それでいいじゃないか。」
「それもそうだね。ちなみにこの子たちのスキルは使えそう?」
「溶解液はスライムでも回収できるし、しいて言えば毒花粉ぐらいか。」
「動けなくするやつですね!でも私たちは大丈夫でしょうか。」
「そこなんだよなぁ・・・。」
単純にマヒ性の毒花粉をまき散らすだけなら俺はともかく他の面々にも被害が出てしまう可能性がある。
持続時間もわからないしどれぐらい摂取すれば聞き出すのかとかも調査しなければならない。
でも使い道はありそうなのでとりあえずステイ。
なんせダンジョンの前階層で手に入れたスキルは次の階層で使えるってのが武庫ダンジョンでのセオリーだっただけにそれを期待したいところだ。
「携帯用の扇風機とかで飛ぶかな。」
「あー、可能性はあるか。部屋にまき散らして動けなくなったところを・・・せこいな。」
「いいじゃないですか、倒せればいいんですよ倒せれば。」
「桜ちゃんの言う通り!倒して素材を手に入れて儲かればそれでよし!」
「ずるいって言ったりずるくないって言ったり忙しいなぁ。」
「じゃあ使わない?」
「いや、使う。」
こんな便利なスキルを使わずに苦労するぐらいなら使ったほうが何倍もマシ、現にこの階層の救世主的な存在なわけだしこれからも頼りにしていくつもりだ。
そんな感じで魔の十三階層は収奪スキルの前に敗れ去り、あっという間に次の階層へとたどり着いたのだった。




