103.収奪スキルの存在がばれました
危ないところはあったけれど無事に強敵との戦闘を終え、勝利を共に称えあう。
ドロップ品はフォークテイルの鱗と尻尾、それと肉。
それもかなりの分厚さがあるので食べ応えがあることは間違いない。
肉はリルに行くとしても尻尾を輪切りにしたドラゴンステーキはヤバいほどうまいっていうからな、今日はこれを焼いて祝杯をあげようじゃないか。
「すごいすごい、あのフォークテイルと初見で倒せるパーティーはなかなかないよ!」
「ありがとうございます。」
「桜ちゃんの弱点看破はやっぱりすごいね、ちゃんとその指示を受けて動けるリルちゃんも強い!」
「えへへ、頑張りました。」
「ガウガウ!」
後ろで観戦していた須磨寺さんもからもお褒めの言葉がたくさん出ている。
Bランク探索者に褒めてもらえることなんてなかなかないし、実際戦っている所を見てもらってアドバスをもらえるだけに非常に恵まれた環境と言えるんじゃないだろうか。
桜さんもリルもものすごく頑張ってくれたおかげで強敵に勝利できた。
良いことだ。
「何より和人君のスキルがすごかったね!あの時はどうなることかと思ったけど相手の動きが鈍くなったおかげでギリギリで回避できたみたいだし。九階層でも使ってたけど、あれはなんていうスキルなの?」
「え?」
「あれ?桜ちゃん知らないの?サンダーバードからリルちゃんを助けるのに使ってたんだけど・・・あれ?もしかして僕言っちゃいけない事言っちゃった?」
流石Bランク探索者、桜さんの目はごまかせてもこの人の目はごまかせなかったらしい。
九階層では何とかごまかせた気でいたけどどうやらそう思っていたのは俺だけで、さっきのスキルを見て確信に変わったんだろうな。
仕方ない、ここまで言われて隠すのもあれだしいい機会かもしれないな。
僕何かやっちゃいましたか?みたいな顔をする須磨寺さんと何事かという感じの桜さん。
勝利の余韻もほどほどに隅っこに移動して改めて収奪スキルについて説明をした。
スキルを手に入れた経緯、そしてスキルの内容。
最初は驚きを隠せない桜さんだったけど、なぜ黙っていたかについて話をしていくと神妙な面持ちでうつむいてしまった。
それはそうだろう、自分のことを信じてもらえていなかったわけだしそうなるのも無理はない。
「なるほどね、確かにそんなスキルがあったら高ランク探索者が目をつけるだろうし果てには研究材料として監禁される可能性だって十分にありえそう。魔物が現れて何十年とたっているけど、具体的にどういうスキルを使うのかとかどういう原理なのかについては解明されてないものも多い。でも和人君のスキルがあればそれを解き明かすきっかけになるわけだし隠そうとするのも仕方がないよ。」
「それはそうなんですけど・・・。」
「桜さんには悪いと思ったんだけど、お父さんの兼ね合いもあるし出来るだけ隠しておきたかったんだ。もちろん信頼していないわけじゃない、でもどこからどう話が漏れるかもわからないしせめて実力が認められれば下手に手は出せないだろうって考えたんだよ。」
「それが正解だったと思うよ。正直な話、探索者ギルドにはとんでもない考えの人がたくさんいるしあの人たちからすれば低ランクの探索者なんてただの駒。使ってつぶれても新しいのを補充すればいい、それぐらいに考えている人も多いから。でもある程度実績が積まれて名前が知れ渡れば安易につぶすわけにもいかなくなるし、自衛するという意味では賢い選択だと思う。ほら、こうやって話してくれたんだから許してあげようよ桜ちゃん。」
俯いたままの桜さんの頭を須磨寺さんが優しくなでる。
はたから見れば美少女が美少女の頭を撫でているように見えるけれど、片方は男なんだよなぁ。
「・・・はぁ、わかりました。和人さんには和人さんの事情もありますし実際私を助けてくれたのもそのスキルのおかげなんですよね。思い返せばおかしなところもありましたし、今となれば納得です。でもでも!次からは隠し事なんてしないでくださいよ!一緒に潜る仲間なんですから!」
「そうだよ。それに、隠す必要がなくなったってことはそれを運用した新しい戦い方ができるわけでしょ?エコースキルとか無茶苦茶便利だし、さっきの帯電を組み合わせれば隙の少ない魔物を強制的に麻痺させられるんだからこれを使えば高ランクダンジョンの走破も目じゃないよ。それこそ、未走破ダンジョンだって走破できちゃうんじゃない?」
「だといいんですけど。」
「出来る出来る!すごいよ、世界で誰も成し遂げたことのない世界を見られるなんて、桜ちゃんこれはとんでもないことだよ!私が諦めた世界をもう一度見られる日が来るなんて・・・。」
「「諦めた世界?」」
興奮気味の須磨寺さんからポロリと漏れた言葉、本人もやっちゃったって顔をしたけれどすぐにいつもの明るい表情に戻った。
「和人君が秘密を教えてくれたんだし次は僕のも言わないと不公平だよね。あ!次は桜ちゃんの秘密も聞かせてもらうから覚悟しておいてよ?」
「秘密なんてないですよぉ!」
「あまり楽しい話じゃないんだけどね、私が探索者になったのは・・・。」
それから須磨寺さんのこれまでの経歴と実績、そしてなぜBランク探索者を止めて運搬人になったのかを教えてもらった。
俺の秘密なんて小さく感じてしまうような壮絶な話に桜さんも俺も呼吸を忘れてしまうぐらいで、話が終わると同時に慌てて呼吸をしたぐらいだ。
「とまぁそんな感じなんだ。だから元Bランク探索者とはいうけど今の実力はDランクぐらい、だからこの前バンシーにやられかけたんだ。それでも知識だけは誰にも負けないからそこは期待してくれていいよ!それに今の僕は運搬人のスペシャリスト、どんな場所でもどんな荷物でも運んじゃうからね。」
「呪われたダンジョン、そんなのがあるんですね。」
「ダンジョンって簡単に言っても毎年新しいのがポコポコ出て来てるからさ、知らないのも無理ないよ。」
「和人さん、絶対に綾乃ちゃんの呪いを解きましょうね!」
「そんな…僕のことなんて気にしなくていいからね!そりゃぁ和人君のスキルを聞いてもしかしたらって思っちゃったけど、それで二人まで呪われてほしくないし。未踏破ダンジョンの危険は誰よりもわかってるつもりだからわざわざそれに付き合わなくても大丈夫さ。」
そうやって彼は言うけれど、今の話を聞いてはいそうですかで終われるわけがない。
もちろん実力もないのにそんなことをして同じ目に遭うつもりはないのでその辺はしっかりと考えるつもりではいるけれど、それでも聞かなかったことにすることはできない。
呪いを解くにはそのダンジョンを走破しなければならない。
彼の目指した世界をもう一度見せてあげるためにも、まずは自分たちの実力を底上げしなければ。
やることは単純明快、レベルを上げる事と実績を積み上げる事。
ダンジョン走破という実績が一番手ごろかつ確実なのでまずは地道にダンジョンを制覇していこう。
大丈夫、俺達にはリルがいるし収奪スキルだってある。
なにより経験豊富な運搬人がついているんだから様々な面でサポートしてもらえるのは非常にありがたい。
今日ここからが俺達の新しいスタートだ。
「よーし、それじゃあまずは御影ダンジョン走破を目指して頑張ろう!」
「「おーー!」」「ガウガウ!」
円陣を組むように手を合わせて掛け声と共に手を上へ。
今のテンションじゃなかったら恥ずかしくてできなかっただろうけど、これでお互いの結束はより強固になった・・・気がする。
「ということで~、次は桜ちゃんの秘密の番だね。ほれほれ、何を隠しているのかな~?」
「秘密なんてないですよぉ。」
「嘘おっしゃい、乙女は秘密でできてるんだから一つや二つあるでしょ?ほ~ら白状しちゃえ。」
「だからないですってば~!」
また美少女が美少女にからんでいるように見えるけれど片方は男なんだよなぁ。
そんな微笑ましいやり取りを眺めながらリルの頭をわしゃわしゃと撫でて癒されるのだった。




