102.階層主は強敵のはずでした
御影ダンジョン十階層。
E級ダンジョンであればここが最終階層になるはずだけどここではまだ中間扱い。
ここを抜ければ次の階層から魔物の数は三種類に増えるし、最終階層は二種類の階層主が出てくるのである意味ここがターニングポイントということになる。
そんな場所に出てくるんだからその実力も相当なはず、この間銀狼でひどい目に合っているだけに気合を入れて臨まなければ。
もっとも、今回は桜さんもいるしいざとなったら須磨寺さんという隠し玉もいる。
もちろん本人にその気はないだろうけど自分の命が脅かされればそうもいっていられないだろうし、情けない話だけどもしもの時はお願いするしかない。
それでも、あくまでもメインアタッカーは俺達なのでその辺の分別はつけていくつもりだ。
「休憩はもう大丈夫?」
「美味しいごはんに甘い物で元気百倍です!」
「今回は予算がいっぱいあったからね、それに甘い方は桜ちゃんが選んだんだよ。」
「そういや一緒に買いに行ったんだっけ。」
十階層おなじみのトラップテーブルはスルーしつつ、床にシートを広げて優雅な食事を堪能した後は桜さんチョイスのデパ地下スイーツをいただくという何とも優雅な休憩時間になった。
食事も持ち込んだものだけでなく須磨寺さんが簡易コンロを使いながらテキパキと温かいスープまで用意してくれるという豪華仕様。
一人の時は栄養補助食品的なので済ませてしまう事が多いけど、こういう温かい食事は体の底から元気になるような気がする。
「それじゃあ元気になったところでお待ちかねの階層主とご対面、今回は最初だけ魔装銃を使ってあとは一緒に戦うから。可能な限り地上にくぎ付けにできれば難しくないはず、とりあえず無茶だけはしないように頑張ろう。」
「はい!」
「ガウ!」
「僕が後ろで応援してるから頑張って!」
扉を押し開けた先はいつものドーム状の空間、違うところがあるとすれば天井がかなり高くなってるところだろうか。
真ん中では丸くなったままの階層主、っていうか階層主って全体的に寝てるところからスタートなのか?なんて考えながら、各自が持ち場につく間に魔装銃をセットして狙いを定める。
初手を譲ってくれるなんて優しい階層主なんだろう。
お互いにアイコンタクトを交わしてから銃に魔力を装填してトリガーを引くと見事に弾は命中・・・。
「嘘だろ、はじかれた!」
命中はした、だけどキン!という金属音が部屋に響き弾は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
それと同時に主が体を起こし、鋭い眼光で俺を睨みつけながら独特な尻尾をバシンと床に叩きつける。
フォークテイル。
その名の通り二股に分かれた鋭い尻尾を持った飛竜の一種で人生で初めての竜種との戦いになる。
竜といえばおとぎ話に出てくるドラゴンを想像するがこいつは火を吐いたりしない。
ただし、ものすごい速度で尻尾を振り回すし空を飛んで上から強襲してきたりもする。
つまり油断のできない相手というわけだ。
「さすがドラゴン、鱗の硬さは名前通りだな!」
魔装銃をその場に放置して急ぎフォークテイルへと接敵、桜さんとリルもほぼ同じタイミングで走り始めていた。
飛竜との戦闘で一番面倒なのは空に逃げられる事。
こちらの攻撃が届かないからという理由もあるけれど一番は空からの強襲に対応し辛いからだ。
俺達にできるのはただひたすら攻撃を続けて地上に釘付けにすることだけ、そんなわけで初手は失敗したものの次の手を確実にするべく真っ先に奴へと飛び掛か・・・らない!
「っと、あぶねぇ。」
棍を振り上げ飛び掛かろうとしたその瞬間、奴の体がくるりと反転しさっきまで自分の頭があった場所をものすごい速度で尻尾が通り過ぎた。
咄嗟にスウェーバックで避けなければ今頃頭と胴体がサヨナラしていたかもしれない。
さっき撃たれた仕返しってか?初手からやってくれるじゃないか。
最初こそ尻尾に怯えて中々接近できなかったけれど、誰かが攻撃している間は反対が無防備になるようなのでそれぞれが交代で注意をひきつつ残りの二人が確実にダメージを与えていくことができた。
桜さんは直感スキルで尻尾攻撃を巧みに避けつつ弱点看破で弱っている部分を確実に教えてくれるし、鋭いリルの爪は奴の鱗をもを切り裂けるようで気づけばそこらじゅうがボロボロになっている。
そしてそこを狙って火水晶の魔力を炸裂させれば爆発と共に肉がえぐれフォークテイルの悲鳴が響き渡る。
【サンダーバードのスキルを使用しました。ストックは後二回です。】
それに加えて、先ほど収奪したスキルが棍に麻痺の効果を付けられるらしく攻撃と同時に動きが鈍くなりその隙を逃さずリルが弱点へ噛みつくことでほぼワンサイドゲームの様な感じになっていた。
空に飛ばれる前に被膜を破ったのが正解だったな、強敵と呼ばれた飛竜も機動力を生かせなければタダの的だ。
「和人さん、来ます!」
そう思ったのもつかの間、耳をつんざく咆哮に全員が耳をふさぎ衝撃波で数歩後ろに下がってしまう。
凶暴化。
五階層同様階層主が稀に使う暴走モード。
いきなり攻撃速度が上がったり威力が上がったりするから注意が必要、そう理解していたのにいざとなると咄嗟に反応出来なかった。
っていうかD級ダンジョンの階層主が二回連続で使うとか思わないだろ。
「リルちゃんブレス!」
「ガウ!」
「ダメ、間に合わない!」
スローモーションで近づいてくるフォークテイルの尻尾。
さっきと同様にバックスウェーで避けられるような距離でもなくかといってしゃがむ時間もない。
走馬灯のように様々な考えが光の速さで駆け巡り、一つの結論に至った。
【ファルコンナイフのスキルを使用しました。ストックはあと一つです。】
【サンダーバードのスキルを使用しました。ストックはありません。】
スキルの同時使用。
しかも飛び道具のスキルにそれが乗っかるとしたら。
実証も何もしていないぶっつけ本番、放たれた見えない刃は遠心力で振り回される尻尾に当たり無残にも砕け散りながらも麻痺の効果は確かに発動したのか尻尾が俺の眼前を通り過ぎて行った。
おそらく尻尾の根元が止まったからしなった時の軌道が変わったんだろう。
ヤバかった、マジでやばかった。
心臓がドクドクと激しく鼓動するのを感じながらそのままバックステップで確実に距離を取り、少し遅れてリルのブレスが炸裂。
ブレスで真っ白になった顔面めがけて桜さんのショートソードが振り下ろされ、奴の右目から鮮血が飛び散った。
「ナイス桜ちゃん!」
「たたみかけるぞ!」
「はい!」
「ガウ!」
いつまでもボーっとしているわけにもいかない。
震える膝に活を入れて再びやつめがけて突進、片目が潰された傷みで大暴れするやつの尻尾の根元めがけて棍を振り下ろし水晶の魔力を爆発させると尻尾が吹き飛びスプリンクラーのように血が飛び散った。
被膜を破られて飛べず、頼りの尻尾すらなくなってしまったらただの魔物、最後はリルの鋭い牙が奴の喉元をかみちぎりその巨体は地に伏した。
強敵ではあった、だけどこの間の銀狼ほどの強敵ではなかったな。
【フォークテイルのスキルを収奪しました。テイルアタック、ストック上限は五つです。】
忘れずスキルを収奪すると笑顔を弾けさせた桜さんとリルがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
何はともあれ階層主は無事に討伐、あとは素材を回収して地上に戻るだけだ。
だが、その時の俺は満面の笑みを浮かべる彼女達の後ろから鋭い目つきを向ける彼の視線に気づくことはなかった。




