100.魔物に追いかけまわされました
御影ダンジョン八階層。
E級ダンジョンだといよいよ終盤という感じだがここまできてやっと折り返し、魔物も中々に強くなっているし俺達の実力もしっかり上げていかないと。
レベル自体は決して低くないので問題になるのはやはり実力。
もっと周りを見たり先廻りしたりというゲームで言うプレイヤースキル的なものをもっと磨く必要がありそうだ。
どう動けばいいのか何を見て反応すればいいのか、この辺を意識しながら戦ってみよう。
「さっきと違って穏やかな感じですね。」
「丘陵っていうか緩やかな坂を上がっている感じだ。」
「視界も広いし戦いやすいと思うかもしれないけど、言い換えればどこからでも狙われるってことだから気を付けてね。」
「引き続きリルが索敵、桜さんは奇襲に備えて警戒をよろしく。」
「わふ!」
「お任せください!」
階段を降りた先は広い広場のようになっており、進行方向にゆるやかな坂が続いている感じで左右には緑豊かな木が何本も生えている。
須磨寺さんの言うように今いる場所はどこからでも攻撃できる開けた場所、とりあえず気を付けて進もう。
リルを先頭に歩いていると途中で彼女の足がぴたりと止まる。
見た感じ何かがいるようには見えないけど、桜さんの方を見ると微かに首を縦に振る。
そうか、いるのか。
魔装銃を構えてスコープ越しにあたりを警戒するも魔物の姿は見えない。
一体どこに・・・。
「グァゥ!」
「え、あ、いた!」
「どこ!?」
「10時の方向・・・いえ、2時です!」
リルの顔が右へ左へと忙しく動きそれを追いかけるとやっと姿を見ることができた。
ムステライス、パッと見は白いイタチでテンとかハクビシンとかそういう感じにも見えるけれどその手はカマキリの様な鎌になっていてそれを構えてあちらこちら走り回っている。
「くそ、思ったより速いぞ。」
「無理に攻撃して隙を見せると切られちゃうから注意してね。」
「了解です」
リルが一生懸命に追いかけるも相手の方が早いせいでなかなか追い詰めることができない。
追いつけないのをいいことにリルを翻弄しつつ桜さんに襲い掛かり、また離れるのを繰り返す。
壁に追い込むとかそういうことをしないと倒せそうもないけど残念ながら開けた場所すぎてそれもかなわないわけで。
マジでどうするよ。
「一体どうやったら追い込める・・・って痛ぇ!」
「大丈夫ですか!?」
「なんだよ、いったいどこから攻撃されているんだ?」
突然頭に何かが当たり慌ててその場にしゃがむと、足元にはさっきまでなかったクルミの様なものが落ちている。
これが頭に当たったのか、そりゃ痛いわけだ。
「ショットスクイラルが向こうから狙ってきたんだろうね、因みにそれ美味しいいんだよ。」
「食えるのか?」
「栄養価も高いからあえて狙われ続けて木の実を回収するっていう人もいるぐらいには人気だよ。」
「とはいえムステライスを放置したまま素材を確保するってのは中々に大変だし、いつまでも狙われ続けるわけにもいかない。ならばやることは一つだろ。」
向こうがその気ならこっちも同じことをしてやるだけ、イタチの方は二人に任せて再び魔装銃を構えてスコープをのぞき込む。
見えるのは緑の葉っぱばかり、だけど方向は間違いないので根気よく探していくと・・・いた!
「そこ!」
スコープ越しに先程の実を投げつけようとしているリスを発見、次が投げつけられるよりも素早く狙撃すると見事命中させることができた。
さぁ素材を回収・・・とおもいきや、今度は別のイタチがこちらに向かってきたので慌てて棍で応戦。
なんなら別のリスがまた狙撃を開始して・・・となんともしっちゃかめっちゃかの状態になっている。
階層が上がるたびに難易度も上がるというけれど、こうも混戦が続くと中々メンタル的にもしんどいわけで。
「くそっ!」
「どうする、撤退する?」
「まだいけるはもう無理っていうけれど・・・。」
防戦一方、リルはともかく桜さんは明らかに動きが鈍くなっているしここはひとつ前の階層に戻って休むという手もある。
別に無理をする必要はない、前みたいに最速を狙っているわけじゃないんだから出来ることから積み上げていけばそれでいい。
「リル、桜さんこっちへ!」
「はい!」
「ガウ!」
少し離れたところで戦っている二人をこちらに呼び寄せると、待ってましたと言わんばかりに攪乱を続けていたイタチが三匹同時に追いかけて来た。
いつの間にもう一匹増えたのかはわからないけど追ってくるのならばチャンス。
「桜さんは周囲を警戒してリスの攻撃に警戒!リルは反転してブレスをぶちかませ!」
「リルちゃんやっちゃえ!」
わざわざ広がって戦う必要はない。
冷静に判断することで乱戦でも活路は見いだせるはず、ということで桜さんに狙撃から守ってもらいつつ敵を一方向におびき寄せたところでリルのブレスをぶちかますと直撃こそしなかったものの凍った地面に足を取られてイタチがコメディのようにつるんと滑った。
そこを逃すことなくリルが鋭い爪で切りかかり、こちらに転がってきた一匹に向かって棍を叩きつける。
「よし、そのままリスを攻撃だ!」
「任せてください!」
桜さんが盾を片手に森へと飛び込み、慌てて逃げるリスを狙って魔装銃をぶちかます。
防戦一方から一転、ちょっとの変化で一気にこちらが優位に立った。
つまりどれだけ冷静に動けるかがこれからのカギになるという事、今まで以上に頭を使っていかないとCランクなんて夢のまた夢なんだろう。
「はぁ、何とかなった。」
「お疲れ様でした。」
イタチのドロップは鋭い鎌と毛皮、リスのドロップは木の実。
ドロップ以外にも狙撃されながらそこそこの木の実が転がっていたのでそれも全部須磨寺さんが回収してくれていた。
流石、仕事が早い。
「あそこで撤退するのかと思ったけど、さすがだね。」
「いやいや、もっとしっかり周りを見れるようにならないと。あの程度で翻弄されてたら11階層以降もっと大変になるだろうし。」
「すみません私がもっとしっかり受け止められたらよかったんですけど。」
「わふぅ。」
「まぁまぁ、そんなに落ち込まなくてもちゃんと対処できてるんだから大丈夫だって!」
桜さんの横で申し訳なさそうな顔で耳を垂らすリル、各々思うところはあるみたいだけど彼の言うように何とかなっているんだからまだ大丈夫。
大ケガしてるわけじゃないし、現にちゃんと探索は進んでいる。
この先は開けた場所を通らずに進めば両方から狙われる可能性は少なくなるし、そういう部分を即座に判断できるよう練習していこう。
今までは収奪スキルやリルに頼り切っていたところがあるから今後は自分自身を鍛えていかないと。
「はい、どうぞ。」
「これは?」
「さっき拾った例の木の実、とりあえずこれ食べて元気だしてこ!」
落ち込む俺達を見かねて差し出されたドロップしたての木の実。
クルミっぽいのに中身はクリっぽいそれを食べた次の瞬間、濃厚なコクと甘みが一気に脳へと駆け上がっていく。
「やば、うま!」
「すっごい甘い!なにこれ!」
「みんなが集める理由わかった?」
「桜さん、リス、リスを倒そう!」
「わかりました!でも倒しちゃうとドロップしかもらえないんでいっぱい耐えますね!」
「え、なになに、なんでそんなにやる気になっちゃうの?美味しいから?」
「「美味しいから!」」
ダンジョンに潜りだしてからというもの、食べる事への執着は二人ともすさまじい。
美味しい物を食べられるなら危険な魔物にだって立ち向かえる、食事はある意味俺達の原動力ともいえるかもしれない。
急に元気になった俺達を見てリルが嬉しそうに尻尾を振り、慣れない須磨寺さんが珍しく動揺している。
ウジウジ悩んでたって仕方がない、とりあえず今はこの美味いやつを大量に手に入れなければ。
そんな使命感を全力に出しながら八階層を進んでいくのだった。




