もさもさ
平凡な女子高校生【首藤 えり】のいつも通りの朝…だったはずなのに。
「ねむー…」
今日も首藤 えりに憂鬱な朝が来た。
ベッドの上で仰向けになり4分ほど白い天井を眺める。
(今日も学校サボるか…)
そんなことを考えながらベッドからのそのそと出ていく。
ふと、部屋にある鏡に目を向けるとボサボサな髪、浮腫んだ目や鼻、そんな最悪な姿の自分を見て1言「キモチワル…」と、吐き捨てて学校に行く振りの準備をする。
(お母さんの前では真面目な女の子の振りをしないと…)
自然な笑顔を顔に貼り付けてお母さんに明るく「行ってきます!」そう言ってえりは家を出た。
えりは家を出てすぐに外の物置に登ってベランダへ行き、部屋に入る。
そして、いつも通り部屋でゴロゴロする…はずだった。
「あれれ〜僕の主人が帰ってきたもさ!?」
「うわっ」
素早く口を手で覆う。危うく叫ぶところだった。
(お母さんにバレたらオシマイだ…!)
この謎の紫の2頭身の熊は一体なんなのか、虫にしてはでかいし、動物にしてはなんか違う感…というかこいつだけアニメのようなデフォルメなのだ。なぜだ?なぜなのか?
そんな風に頭をフル回転にして考えていたら足音が聞こえてきた。
(やばい、お母さんが来る!)
えりは謎の2頭身をがっしりと掴んでベランダへ出た。
「急になにも」
2頭身の口を手で覆う。
「しっ!静かにして、お母さんにバレたら怒られるよ!」
小声で2頭身怒る。
「ふー、やっと行った、お母さんしつこすぎ…というか、あんた誰?」
お母さんが仕事の時間になり、ようやく去って行った。
えりは長時間2人(1人と1匹?)でいたせいで、警戒心など無くなっていた。
「よくぞ聞いてくれたもさ!僕の名前は“ルビー・ラナンキュラス”もさ!よろしくもさ!」
そう言ってルビー・ラナンキュラスは握手を求めてきた。
「なんで手を握らないもさ?」
可愛く上目遣いで、こっちを不思議そうにする2頭身にえりは腹が立った。
「なんでって、そりゃあ、手に気色の悪い口がある奴に手をつなごうなんて人は居ないよ」
「あれ?バレたもさ?あともうちょっとだったのに…残念だもさ!」
何がもうちょっとなのだろうか、えりは分からない。
「もういいもさ!仕方なく説明してあげるもさ!君の血液が僕の毛につくと、君は魔法少女になれるもさ、そして、君は僕と一緒に悪い奴らから人類を守るもさ!どうもさ?きっとやりたくなったもさよね!?ほら、握手するもさ!」
なんて図々しい2頭身なのだろうか。
「絶対に嫌…と言いたいところだけど、具体的に何をして守るの?頻度は?給料は?そこら辺が良かったら考えてあげる」
相手が上から目線な喋り方なので、えりも上から目線返しをする。
「うーん、どんなやり方って言われると、そりゃあ…ね?」
ルビーはそう言って、小さなポケットから銃や斧を出してくる。
「ふっ、物騒」
えりは、鼻で笑う。
それに対してルビーは「てへっ」と言い、舌を出す。
「あと、頻度は毎日とは言わないけど、結構多いもさ…給料は1匹12万も」
「やる」
「早いもさね、それじゃ契約の握手もさ!」
「これって痛い?」
えりの質問に対してルビーは苦笑いをし、無理やりえりの手を掴んだ。
「いった!」
あまりの痛さに声が出る。
まるで、手を何千もの針で抉られたようだ。
「うっ、はぁ、はぁ、こんっなに、痛いとは、聞いてないんだけど?」
ルビーを睨む、そして噛まれた手を眺める。
「あれ?傷がない…けど、なにこれ?」
えりの手にはルビーの宝石のような絵があった。
「契約完了もさ!また明日様子を見に来るもさね!それじゃ、また明日もさ!」
朝から凄く大量のエネルギーを使った気がする。
(もういいや、今日はもう寝よ…)
そうしてえりの魔法少女になってからの1日目が終了した。
ちなみにお母さんには「早退した」と言ったらしいです。