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ソフト・ストリート-2

 姫乃は反動で跳ね上がろうとする銃口を押さえつけ、二発続けて轟音の銃声と共に弾丸を放つ。


「ソフト・ストリート!」


 男の両足がギュルリと捻られフローリングの床に消え、上体を下げて弾丸をかわす。

 そして腰から上だけになった男がそのまま床を滑るように姫乃へと迫る。


――気持ち悪い!何なんだこの能力は!?


 体内に入る能力ではない。それでは床から現れたり、今のように半身を消す説明がつかない。


 姫乃は後ろに下がりながら更に一発弾丸を放つが、指を僅かに動かすのを見極めて男が右へ避ける。


 後ろに下がり続ければいずれ追い詰められる。向かって左に移動した敵を見て、姫乃は回り込むように進路を後ろから右へと変える。


「逃がすか!」


 男の上半身も床に吸い込まれるようにして消える。先程のように男は完全に姿を床に消した。


――どこから来る!?


 反射的に背後を警戒したくなるが、姫乃はそうしない。視線を無闇に動かせばそれが隙になると分かっているからだ。


「真上です!!」


 真琴が叫び、姫乃は前転するように飛び出して降ってきた敵の一撃をかわした。


「喰らいな!!」


 姫乃は起き上がるより先に着地の隙を狙って弾丸を二発放つが、天井から飛び降りた敵の男は水に飛び込むよう床に吸い込まれて消える。

 消える瞬間、体が捻れて細くなり的が小さくなる。そのせいで一発の弾丸も当たらない。

 姫乃は追い打ちとして更に床に一発撃つが手応えはない。


――天井にも移動出来るのか……


 姫乃は排莢しながら敵の能力を思考する。


『姫乃、敵の出す振動を広い範囲で感じます!まるで体を薄く引き伸ばして移動しているように!』


 耳の無線から真琴の張り上げた声が聞こえた。手元で銃声を上げ続ける姫乃の聴力を気にしての配慮だ。


「広い範囲で振動を感じる……」


 視線は手元に下げず、しかし装填の作業を続けながら姫乃が口に出して確認する。


 真琴がそう感じるならばそうなのだろうと姫乃は思う。

 しかし薄く引き伸ばしているという推理は違うだろうと同時に考えた。


 単純に体を薄く引き伸ばしているならば見えるはずだからだ。しかし敵は姫乃の目に映らない。完全に姿を消している。


「同化……いや、違うな」


 床に消えるのは床と同化しているのかと考えたが、ならば肉体の中に入るのが説明出来ない。


『三十八!壁です!!』


 真琴の声に思考を中断して姫乃は直ぐに指示された方向に銃口を向けた。


「やはり、俺の出る位置を先読み出来るみてぇだな」

「っ!?」


 壁から現れたのは男の腕一本であり、声は姫乃の真下から聞こえた。


 能力を探っているのは姫乃達だけではない。敵も同じだ。

 そして対策を打たれ、先手を取られた。


「方法の詳細は分からねぇが、それももうどうでも良い!終わりだ!!」


 壁の腕が壁に吸い込まれて消え、床から飛び出した男が姫乃の足首を、そして太股を絡みつくようにして掴んで床に引き込もうとする。

 壁にあったはずの腕は既に元の位置に戻っていた。


「同感だよ!アタシもテメェの能力に悩むのはやめだ!!」


 姫乃は足に絡みつく男に銃口を向ける。男が銃に手を伸ばしてくるが構わない。掌を貫通して脳天を撃ち抜いてやる。姫乃は引き金を引いた。


「ぐがぁぁあああ!痛ってぇええなあ糞が!!」

「え?え!?」


 姫乃は何が起きたのか理解出来なかった。


 結果から言えば弾丸が発射されなかったのだ。


 引き金は確かに引いたが、銃声が鳴らず、弾丸を射出した衝撃もない。弾丸は発射されなかった。しかし、それなのに男にはダメージを与えた。

 姫乃は何が起きたのか分からず手に持った銃に目をやり事実に気付いた。


 姫乃の銃は引き金を引くとハンマーが振り下ろされ、銃弾の尻を叩いて弾を撃ち出すというシンプルな構造だ。

 そして弾丸が発射されなかったのは、その一連の流れが阻害されていたからだった。


 振り下ろされたハンマーが、間に差し込まれた男の指を叩いていたのだ。


 少しでも知識がある者ならば簡単に思い付く方法だ。しかし簡単な手だからこそ警戒するし、姫乃もハンマーに触れさせるようなミスは犯さない。


 ならば何故そんな方法で阻止させてしまったのか。


 それは男の指が細長く捻れ、銃口から入り込み、シリンダーと弾丸の隙間を抜けて、ハンマーとの間に差し込まれたからだった。


 本来ならば有り得ない場所を通ってきただけに、姫乃はそれに気付かなかった。代わりに、敵の能力に気付く。


「隙間……隙間に入り込む能力か!!」


 これならば全ての動きに説明が付く。


 体の中に入るのも隙間に入った為であるし、床に消えるのは木の中、もしくはフローリングの板と板の間に体を入れていたからだ。

 壁も天井も、古い洋館だけに木の板張りだ。男の隙間に入り込む能力ならば自由自在に移動出来る。


「正解だ。だが暴いたところで関係ない。お前に残された唯一の武器は封じ、お前を掴んだ」


 銃が無ければ姫乃は能力を使えない。

 銃で戦う姫乃を見れば、銃を使う能力、もしくは戦闘系の能力者ではないというのが敵にも分かってしまっていた。


「終わりだ!ミンチにしてやる!」

「ヒっ!!」


 グっと床に引き込まれるのを姫乃が感じると同時に、無理矢理に足先を床の板の間に引き込まれ、ブーツは軽々と裂け、爪が砕けて指先が潰されていく。


「イヤァァァアアあああああああああ!!」


 激痛。否、そんな甘いものではない。

 焼かれるような、神経を引き剥がされるような痛みに始まり、塩を塗り込むように、傷口をほじくり返すようにして傷を深めてくる。


「あああああああああああああああ!!!」

「ぎゃはははは!!良い声で鳴くじゃねぇか!!」


 男が喜びに打ち震え、高らかな笑い声を発したその時。


 一発の銃声が響き、放たれた弾丸が男の脇腹を横から貫通した。

 撃ったのは姫乃ではない。武器もなければ、彼女にそんな余裕もなかった。


「はぁはぁはぁ……遅かったが、狙いは初めてにしては上々だよ……真琴」


 額に玉のような汗をジットリと浮かべ、それでも姫乃が微笑んで見せた先にいたのは、彼女の相棒である真琴だ。撃ったのは彼女だ。


 真琴は武器を持たない。攻撃性のある能力でもない。たが、部屋に突入する際、姫乃が外に残したライフルがあった。


「……撃た、れ、た?」


 男は自身の脇腹を押さえる。貫通して左右に開けられた両方の穴から、血が止めどなくドクドクと流れ出ている。位置からして致命傷だ。


 男は床からズルリと抜け出すと、不安定な足取りでヨロヨロとよろけながら壁に背を付けた。


「アタシ達の勝ちだ……」


 姫乃は激痛故、いつの間にか投げ出していた拳銃を拾い上げ、男に向けて構える。真琴もそれにならってライフルを構えた。


「ガフッ……ゲホっゲホっ……いや、まだだ……まだだぜ……」


 男は血を吐き出しながら、ポケットから無線機を取り出した。


 無線機の使用用途は一つだ。仲間に連絡を取る気だと二人は察する。


「させません!」


 真琴は直ぐさま引き金を引き、発射した弾丸が男の胸を貫く。が、弾丸が通り抜けた男の体に新たな風穴は明かなかった。


「俺が……俺が壁を背にするのは、完全なる防御の構えだ……弾丸が俺に触れた瞬間、壁と弾丸の隙間が出来る……隙間の肉体を操作し、攻撃を簡単に避ける事が出来るんだよ……」


 男の能力は、関節や厚みを無視して隙間に入り込み移動する能力だ。

 腕だけを壁から生やしたように、体の一部を別の場所、弾丸の当たらない位置に動かす事など造作もない。

 弾丸に限らず全ての攻撃が無力となる。


「そして感謝する……礼を言うぜ……壁に穴が空いたお陰でこの部屋から出られる……」

「っ!!しまった!!」


 男は言うや否や、真琴が自身を撃って開けた背後の小さな穴に体をねじ込み、壁の隙間ではなく壁の中へと入り込んだ。


「ちくしょう!!当たれ!当たれえええ!!」


 姫乃は六発全ての銃弾を男が入り込んだ壁に撃つが、手応えはない。


「真琴!ライフルを!」


 真琴は直ぐに姫乃に駆け寄り、ライフルを押し付けるように渡してから背後に膝をついて姫乃を支える。

 そしてキャッチ・バイブレーションの効果範囲を広げて策敵範囲を広げる。


「下ってます!七メートル!」

「打ち抜け!ドット・スナイプ!!」


 真琴は敵が発する振動の中心を指差して姫乃に伝え、姫乃は指示された地点へ能力を使った、壁などの遮蔽物に阻害されない不可視不干渉の弾丸を撃ち込む。


 恐らく攻撃は命中しただろう。しかし敵は移動を止めない。敵は今更一発喰らった程度、構うような状態ではない。それが分かってしまっていたからこそ、二人は状況の深刻性に顔をしかめた。

 彼女達は、ここに護衛対象がいない事を伝えさせてはならない。

 知られれば敵は問答無用に命を奪う能力を行使してくるからだ。それを退ける戦力が今ここにはない。

 何よりやられっぱなしは彼女達のプライドが許さない。仲間を二人やられておいて、おめおめと逃してなるものかと姫乃と真琴は思っていた。


 しかし、彼女達には逃げる敵を追う方法が無かった。


「二十四!」

「畜生!止まらない!」


 二発、三発、四発と弾丸を撃ち込むも、敵の移動は止まらない。真琴の指示する距離が段々と長くなる。


 取り逃した。


 二人がそう感じ始めた時、彼女達ではない、敵を追う別の存在が現れた。


――ガシュッ!!


「敵の位置を教えてくれ」


 唐突に掛けられた声に、姫乃と真琴は振り向いた。


「いや、必要ないな。新平、銃口の先を目指して進め」

「了解です!壁の中だろうと、地下だろうと、どこまでも追い掛けますよ」


 壁にポッカリと穴を空けたそこに、秋人と新平が現れた。


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