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グレネード・ランナー-6

 由貴が落ち着くのを待った後、脱がした!と緩奈と新平にはやし立てられながら、秋人は由貴に懇意に謝罪した。

 何故か由貴も謝罪し、傷が酷いので腕や足、背中など由貴と同箇所を触れ合っても問題がないギリギリの部分まで秋人は治療をしてもらった。


 何だか一気に疲れた秋人は帰って休みたかったが、由貴についてはまだしも、他の三人を解放するのも瓶にこのまま監禁して結論を先延ばしにも出来ないため、今の状況を整理して今後の方針を話し合う。


「まず捕らえた三人だが、新平、また頼めるか?」

「はい、大丈夫です。用意していたのでそれぞれの身の回りの処理が終われば直ぐにでも飛ばせます」


 一応の警戒の為、先の二人とは別の場所に送ると新平は答えた。

 攻撃的な能力者の三人だが、知らぬ遠い地で新平の庇護無しでは生きられないだろうし、常駐の使用人も安全だろうと秋人は考え、今回も新平に任せる事にした。


「今後の対策だが、組織の情報が手に入らないのではやはり返り討ちしかないか」


 秋人は溜め息混じりに呟いた。

 敵の本拠地とは言わずも拠点を暴き出せれば話は変わるが、そうでないならば敵が仕掛けてくるのを待つしかない。

 今回のように一人の時を狙われたりと、待つのは不利でしかないが他に手がない。

 緩奈と新平も同意見らしく、思索するも良い対策は思いつかなかった。


 新平がふと疑問に思った事を口にする。


「緩奈さんは存在が知られていないから分かりますけど、どうして僕より秋山先輩にばかり刺客が放たれるんでしょうか?」


 秋人はこれまでアポロ・ストライクの檜山から始まり、ウルトラ・セブンの上杉、グレネード・ランナーの長谷川と三人に狙われている。それに引き替え、新平は秋人と上杉との戦いの邪魔をしないように仕向けられたトレイン・ラインの掛布と戦ったのみだ。存在が知れてる割には秋人程に執拗な襲撃がない。


「たぶん相手にも情報がないせいね」


 新平の疑問には緩奈が答えた。


「私たちが接触した敵部隊には諜報系の能力者もいなかったし、何より取り逃していないから、私達の情報は一切敵に流れていないのよ。私達がとれほどの規模の集団か相手は分かっていないの」


 幸運にもこれまで敵を一人も逃していない秋人達は、秋人と新平が能力者であり手を組んでいるという情報以外は、能力の内容や集団の規模含め一切の情報を敵組織に漏洩していない。


「それが秋山先輩ばかり狙われる理由になるんですか?」


 新平は首を傾げて再び尋ねる。


「それが新平が狙われない原因だ」


 秋人が、敵は情報が無い故に秋人を狙うのではなく、情報が無い故に新平を狙わないのだと説明する。


「緩奈の能力は優れてはいるが、戦闘が始まってしまえば干渉力は皆無に等しい。つまり俺と新平の二人だけが戦闘では使える人員だ。二人しかいないと分かれば戦力を削ぐためにも新平も狙われるだろうな。敵は新平が戦力の半分を担う重要な存在だと理解していないって事だ」


 一度戦闘が始まると緩奈の能力が直接的に役に立たなくなる。それが顕著に現れたのが檜山戦の時だ。

 秋人が直接檜山と戦い、新平はその窮地を救った。緩奈が秋人の危機を新平に伝えたが、実際に緩奈が直接何かをする事は出来ず、見ているしかなかった。見る能力なのだからそれは仕方がない事だ。


「それに頭を叩くのは集団戦の定石よ。規模が分からない集団とはいえ、判明している中でもより上に立つ者を狩るのが上策でしょ?」


 不良達の小競り合いに体育祭の騎馬戦、企業の合併から国家を覆すクーデター、果ては戦国時代の合戦まで、規模の大小に関わらず集団のトップを狙うのは何時の世に置いても常識と言える策である。


「なるほど……檜山さんが組織の一員だった訳だし、僕と秋山先輩の戦いも知ってますからね」


 それならば秋人と新平のどちらが上に立つかは分かりきっている。

 実際は秋人達三人は上下関係も主従関係も無く全員が同等の立場だが、戦闘の実力があり機転の利く秋人が自然と実質指揮を取っている。つまり秋人達は秋人がトップの集団と言って過言ではないのだ。

 そこまで把握していないが組織の狙いは的確だった。


 新平も理解したようであった。


「少人数の刺客を当ててくる理由も大体察しがついてるわ。多くの能力者を動かすのは、それだけ多くの構成員の顔を晒すわけだからそれだけでデメリットがあるし、そもそも戦闘自体が人員も時間も費用も、色々消耗する行動だから、必要最低限の消耗で目障りな集団を消したいと思ったら、少人数でトップを狙うのは必然であり最も有効ね」


 緩奈は節約とも取れる心理が、少人数の刺客を秋人ばかりへ送り込む理由だと推理していた。

 檜山が秋人を組織に誘い込む際に口した、『仕事』という活動もあるのだし、組織としては野良風情と侮る自分達に多くの人員を割ける余裕はないのだとも緩奈は推察していた。


「ハッタリが効いてる状態なんですね」


 敵は大規模な組織かもしれない。秋人達はそう思わせている事でギリギリ凌げるような状態なのだ。


「いつまでこのハッタリが保つかだな」


 今の状態は危うい均衡で成り立っている。


 余りに大きな組織だと見なされれば、それに対抗出来るだけの大規模な戦力が送られて来るし、小さな組織だと見抜かれれば一気に叩き潰せるだけの戦力を送り込んで来るだろう。

 どちらに転んでも、邪魔だから消しとけ、という軽いスタンスから本腰を入れて来る事になってしまうのだ。


 しかしこの均衡が破られるのも時間の問題だと言うのは三人とも理解していた。


 秋人達は既に二つの部隊を退け解体している。今後も秋人達が生き残る為に死合いに勝ち続ければ、いつかは組織は本腰を入れて、これまでとは規模の違う部隊を送り込んで来るだろう。総力戦になれば、秋人達が今の戦力で対抗するのは難しい。


 しかしそれを打開する手がない。最初に秋人が言ったように、秋人達は今、仕掛けて来る敵を返り討ちにする他ないのだ。


「まぁ手がないなら考えても仕方ないな……」

「そうね……」

「そうですね……」


 話し合いはお先真っ暗というのを確認して終わった。


 秋人は壁に掛けられた時計へ視線を向ける。時刻は四時近くを差していた。


「さて、二人も昼何も食べてないだろ?飯でも食べに行くか」

「確かにお腹減りましたね」


 朝から殆ど何も食べてない秋人はかなり空腹だったし、秋人の呼び出しで昼を抜いた二人もお腹が減っていた。三人は微妙な時間ではあるがご飯を食べに行くことにし立ち上がった。


「え?あ、あの!私はどうなるんでしょうか!?」


 話し合いで自分の処分が決定すると思っていた由貴は、落ち着かない様子で三人を見守っていただけに、一切話題に上がらず会議が終結した事に待ったをかけた。


「ん?ああ、そうか」


 今思い出したという風に秋人が言い、緩奈と新平もそうだったそうだったと腰を下ろす。

 そして緩奈からメモ用紙が回され、それぞれが何かを書き始める。


「はい、私の連絡先。何かあったら直ぐに頼るのよ」

「え?」


 反射的に緩奈の差し出した紙を受け取った由貴だが、状況が掴めずメモと緩奈を交互に見た。


「分かってると思うが、その能力は出来るだけ隠した方が良いからな」

「利用したがる人の多い能力ですからね。気を付けてください」

「え?え?え?」


 秋人と新平も連絡先を書き込んだ紙を差し出し、やはり由貴は無意識に受け取ってしまった。


「んじゃ気を付けて帰れよ」

「同じ高校の同じ一年生ですから、また何かの時は仲良くして下さいね」

「もうお腹ペコペコよ。今日は秋人が奢ってよね」


 戸惑う由貴を残し、先程までの緊張感を欠片を見せずに三人は扉へと歩いていく。


「あ、あの!!」


 由貴が再度三人を呼び止める。


「わ、私は、その、海外に行かされないんですか?」


 秋人達は一体何を言ってるんだとそれぞれ顔を見合わせた。


「俺達の敵じゃないんだろ?」

「は、はい」

「戦う気も無いんですよね?」

「勿論です!」

「海外に飛ばされたいの?」

「ち、違います!」

「じゃあ別に解放しても問題無いだろう」

「確かに、そう、です……けど……」


 秋人達に由貴を解放するデメリットはない。それだけに由貴も言葉を返せず言葉尻は消えていった。


「……彼女の能力を見ておいて仲間に引き込まないのか?」


 次に疑問を投げかけたのは新平がポケットに押し込んだ瓶の中の清水だ。


「由貴さんは無関係なんですから巻き込める訳ないじゃないですか」

「いざという時は助けて貰うかもしれないけど、あくまで最後の奥の手ね」


 当然とばかりに返され清水も黙った。


「さ、飯に行こう」


 秋人達は安心したのか拍子抜けしたのか、微妙な心境で固まったままの由貴を残してアジトを後にした。

 その後、残された由貴は何事もなかったかのように帰宅することになった。

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