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グレネード・ランナー-2

 秋人は何度となく角を曲がりながら住宅街を疾走する。

 秋人が角を曲がれば後を追う爆弾も角を曲がり、秋人に接近すると爆弾はその体を足下や側面の壁に叩きつけ、自らスイッチを入れて炸裂する。


「はああああぁぁぁ!!」


 秋人は拳を振り抜き、弾け飛んでくる外郭を叩き伏せる。


「つっ!糞っ!!」


 硬い外郭を何度となく殴り、秋人の拳が擦りむけ血が滴る。


 能力者の意志ではなく、爆弾への衝撃が起爆のスイッチとなっているお陰で、秋人はこれまでなんとか攻撃を凌げている。その制約がある故に射程など別の力を伸ばしているのは間違いないが、秋人にとってこの制約の存在は幸運だと言えた。


 爆発して飛び散った外郭は消え去り、そして新たな爆弾が飛来して秋人を追尾する。

 秋人はジリジリと体力を削られ、確実に追い詰められて行くのを感じていた。


「逃げるのは無理か……!」


 秋人は走りながら打開策を思案する。


 二つの選択肢の内、一つが駄目ならばもう一つを選ぶしかない。


「見付け、近付き、叩き伏せる。それだけ考えれば良い。思考はシンプルで良い」


 秋人は方針を切り替え、体は熱く、しかし思考を冷たく冷静に保つよう努力し、敵の居場所を考える。


 まず考えるべきは自分の居場所を如何にして把握しているか、である。それが敵の居場所を暴く糸口になると秋人は考えた。


 爆弾に視覚はないと決め付けてまず問題ない。緩奈の能力に似た能力、更には同じ能力が存在しないとは決して言えないが、敵の能力は爆発にエネルギーを使っている。更に視覚を有するならば身体能力は絶望的を通り越して、既に死亡しているだろうなどと秋人は思った。


 爆弾に視覚はない。これは秋人の中で大前提となったし、事実敵の能力に視覚はなかった。


 そしてカーブの際の動きや、稀にぶつかっているが大雑把に電柱などの障害物を避けている事から、秋人は自動追尾ではなく、間違いなく遠隔操作だと推察した。


 ならばどうやって秋人の位置を把握し、近くに爆弾を落とし炸裂させているのか。

 まず頭に浮かぶのは森と同じ、双眼鏡なりで遠くから見る方法だ。

 秋人もそれを最初に疑ったが、既にその憶測は間違いだと分かっていた。

 東西南北、どちらに障害物を挟んで視線を遮ろうと、攻撃は正確性は欠かさなかったからだ。


――カチッ!


「くっ!!」


 秋人が思考する間も攻撃の手は緩まない。

 目の前に爆弾が落下し、起爆スイッチの音を鳴らした。


「ぐほッ!う、うぅおおおおおおぉぉぉ!!!」


 反応が遅れ、胸部と腹部に二つの外郭がめり込むように命中する。

 鎖骨が砕ける音が、耳の奥で響き、一瞬呼吸が止まり、口の中に鉄の味が広がる。

 それでも残りの外郭を殴りつけてその攻撃を凌いだ。


――くそ!一方的な消耗戦になってきてる!!


 秋人が想定し危惧した最悪の展開になってきていた。


――どこから見てるんだ!?


 秋人は口内に溜まる血を吐き捨て、再び走り出す。腹部の傷にも激痛が走りダメージが軽くない事を訴えている。


 秋人は再度曲がり角を右折する。

 南へと延びる道の左側の塀に沿って走る。つまり東からは死角になっている場所を走っているのだ。


「やはり無駄か……!」


 爆弾が秋人の前に現れ、秋人は左折して南から見えない位置、そして北から見えない位置と試行錯誤するが爆弾の追撃は止まらない。


 そしてT字路に差し掛かったその時。


「しまっ――!!」


 左右の道から爆弾が猛スピードで現れ、秋人の目の前で正面衝突して起爆した。

 二つ分の、しかも余りに近い距離での爆発。秋人は下手な抵抗は被害を広げると判断し、とっさに腕を交差させた。


――ガキンッ!ガキンッ!!


「うぐっ……!!ぶ、っはッ!!」


 金属をひき千切るような爆発音の数瞬後、秋人の体を無数の硬質な外郭が叩き付けた。

 闘牛の群れにでも突き上げられたかのような激痛と衝撃が体中を襲い、骨が軋み血が噴き出す。


――マズ……い……


 舞う鮮血がスローモーションに見え、意識が遠のくのを感じるも、皮肉にも余りの激痛がそれを許さず秋人はなんとか意識を保つ。

 込み上げる血の混ざった胃液を吐き出し、秋人は勢い良く吹き飛ばされた。


「が、はっ!!げほ、げほ……畜生っ……!!」


 秋人は意識を何とか繋ぎ止めて、転がるようにして近くの路地に逃げ込む。そこが垣根に囲まれた行き止まりであるのは知っていたが、前後で挟撃されるよりはマシだと判断したのだ。

 そして更なる追撃に備え、秋人は直ぐに体を出来る限り小さく縮め、腕で体を庇うように身構えた。


「…………?」


 秋人は異変を感じて目を開く。


「追撃が……来ない……」


 そう、正にトドメを刺す絶好のチャンスだったにも関わらず、敵は攻撃して来なかったのだ。


 秋人がいる場所は、民家の庭と庭に挟まれた、歩行者だけが通れるような一メートル程の狭い道だ。そこに一メートル程入っただけである。

 一メートル先には綺麗に区画整理されて、他の道と直角にしか交わらない二車線の道が延びている。

 その道に、つまりたった一メートル先に爆弾が浮いているが、なぜか攻撃してこない。


「ここは見えない……のか?」


 この場所は見えない。それだけがこの事態を説明出来る有力な仮説だった。


 秋人が後ろへ這いずるように移動し爆弾から距離を取る。それと同時に息を吹き返したように爆弾が動きだし、我武者羅(がむしゃら)に秋人が居た辺りに降り注ぎ、無駄な炸裂を繰り返した。


 それは秋人を見失った証であった。やはり敵は秋人が見えていない。それは確信へと変化した。


 しかし解せない。


 確かに裏道のように細い道だが、特に遮蔽物(しゃへいぶつ)はなく視線を遮るようでもないし、細い道ならば先程までの逃走中にも走った。

 なぜこの場所なのか。


 秋人はやっと掴んだ糸口に活路を見いだそうと必至に思索する。


 今考えれば馬鹿馬鹿しいが、秋人は人工衛星からの映像を見てるのではないかとさえ疑っていた。

 秋人はトーストを食べていた事からそんな下らない考えまで、最初の攻撃から今まで得た全ての情報を総動員して、敵が自分の位置を把握する方法を推理する。


 東西南北どこの視線を遮っても意味がない。

 稀に電柱にぶつかる精密でない操作性。

 敵は一人じゃない。

 見えない細い道。

 そして衛星。


「衛星……見えない道……操作性……」


 秋人は胡座をかき、血の滴る顎に手を当てブツブツと呟く。


「……何で今まで気付かなかったんだ」


 暫しの間逡巡していた秋人は一つの矛盾点に気が付いた。

 フライ・ビュレットの森と戦った時のように、秋人は自分の位置を如何にして敵が把握しているかが、敵の居場所を探し出す決め手になるとばかり考えていた。だがそれは今回に限っては違った。

 秋人はたった一つの矛盾点から、敵の居場所を突き止める事が出来たのである。


 しかしまだこの場から動けない。今直ぐにでも敵に接近すべきだが、この場所を動いて攻撃が再開されればただでは済まない。


 やはり、自分の位置を把握していた方法を仮定しておかなければならない。


 秋人は再び思索する。


「衛星……なるほど、これも衛星のようなものか。少なくとも三人の衛星と、あとは……そうか、地図か!」


 秋人は何かに気付いた様子で自分のいる狭い道を見渡す。地図にしたら消えてしまいそうな程に狭い道、そもそも行き止まりなのだから意図されず出来てしまった地図に無い道だ。


「これなら辻褄が合う」


 秋人はその道を見てニヤリと笑った。


 時期にここも安全ではなくなる。そう判断した秋人は、敵が居るであろう場所へと移動を開始した。

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