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ウルトラ・セブン-3

「どうして……!?」


 緩奈は混乱した。

 檜山との戦いの時に見た秋人の能力からすれば、今の攻撃でリンゴ程の大きさの錘を取り付けられたはずだ。それなのに上杉に発現した錘は半分の大きさにも満たない。


「くっ……!」


 緩奈にはなにが起きたか理解出来ていなかったが、超高速の攻防が始まってしまえば介入の余地はないと、緩奈はふらつく体に鞭を打ち立ち上がり秋人の前に立ちふさがった。

 殴りつけられた時に頭を打ち、血が流れ意識が朦朧(もうろう)とする。それでも緩奈は秋人の前に立ち両手を広げ、上杉を睨みつけた。


「跪け」


 しかし緩奈の肩に手を置き、秋人が前に出てもう一度そう言った。


「ははははは!!絶望で頭が可笑しくなったか!?俺はどうやってひざまず――!!」


 高笑いした上杉の台詞は衝撃にかき消され、思わず上杉は膝を地についていた。


「な、なにをしやがった……!?」


 上杉が痛む足に触れると手は真っ赤に染まっていた。大量に出血しているのだ。


「平伏せ、這い(つくば)れ」

「ぐはっ!!」


 秋人の言葉と共に上杉の肩から血が噴き出し、上杉は手を地面に着いた。激痛に息が上がり脂汗が滲み出る。

 上杉は自身の肩に食い込む何かを取り出し、攻撃の正体を知った。


「い、石……!?」


 上杉の肩には、秋人の錘を付けられた小石がめり込んでいた。秋人が小石を投げ上げ、能力を発動し落下させて撃ち込んだのだ。


「どうした?お前程の身体能力があるなら俺以上の胴体視力もあるだろ?まさか見えなかったのか?」


 上杉は苦虫を噛み潰したように険しい表情で秋人を睨みつける。無論、秋人は避けられない、見切れないと分かってこの攻撃をした。


 秋人がそう確信したのは上杉の能力を理解したからだ。


 なぜ七回も致命傷を負わせなくてはならない能力をわざわざ使用したのか。秋人の抱いていたこの疑問こそが上杉の能力の謎を紐解く唯一にして最大のヒントだった。

 この疑問の根底には『能力の質が低ければ身体能力が高くなる』という上杉の言葉がある。秋人にもこれに思い当たる節がある。秋人自身がそれを体現しているのだ。

 だが敵の言葉を鵜呑みにするのは愚かだった。この大前提として考えさせられた言葉にこそ罠が仕掛けられていた。

 真に上杉が能力の質が低いために身体能力が高いならば、能力を発現させずに攻撃すべきだ。

 ならば何故能力を発現させたか。


 答えは簡単だ。能力を発現させなくては身体能力が上がらないからだ。上杉の身体能力は秋人のような常に持ち合わせた体に根付いたものではなく、能力の発現によって初めて底上げされるのだと推理出来た。

 最初に攻撃を喰らったのもサービスなどではない。避ける事が出来なかったのだ。


 ならば味方に能力を使い身体能力を上げてから秋人を襲えば良いのだがそれをしなかった。

 そこから、ウルトラ・セブンで身体能力が上がるのは宣言に含まれた『秋山秋人』に対してのみだからだと推理出来た。


 ウルトラ・セブンのもう一つの謎、顔面を殴りつけたにも関わらず小さな錘しか付けられなかった事も秋人にとっては想定内の事だった。

 恐らく宣言に含まれた秋人の身体能力を下げる効果もあるのだろう。

 思えば秋人以上に俊敏な上杉に、不意を突いたとはいえ緩奈がしがみつける訳がなかった。秋人の身体能力が下がり、上杉を過大評価していたとあればそれも納得出来る。秋人のパンチが鈍化していたならば、最初に見せた右に避けてから左に避けるという人間離れした動きも不可能ではない。


 秋人はその全てを理解した。謎が解けてしまえば攻略法を導き出す事は造作もない。高い身体能力が適用されない別の物で攻撃するまでだ。それが上杉に撃ち込んだ小石という訳である。


 立ち上がった上杉を見据えて秋人が口を開く。


「その怪我で先程までのような動きが出来るか?いや、出来まい。後は距離を保ってお前を撃ち抜くだけだ」


 秋人は道端の小石を拾い思い切り握り締める。触れるだけでは直ぐに肉体に食い込む程重くは出来ない。殴るのでは上杉に悟られる。そこで新たに思いついたのが、握り締めて『圧力を掛ける』という方法だ。秋人はまた一つ能力の使い方を学んだ。


「俺の仲間に手を出した事を後悔させてやる。今、この瞬間からは『戦い』じゃない。ここからは一方的な『狩り』だ!!」


 秋人は上杉の頭上目掛けて石を高く投げる。その石は上杉の目にも映る。あくまであれは秋人の攻撃の範囲内だからだ。


「発動だ!」

「畜生っ!!」


 しかし石が勢いを失い、そこから能力で加速して高速で落下する石は視界に捉えられない。秋人の攻撃は高い位置で運動エネルギーを失った時点で終わっており『攻撃』ではなく『ただ落下している』だけだからだ。


――ガッ!!


 上杉は上がった石の位置から落下地点を割り出し転がるようにして何とか避ける。石はアスファルトを削った。

 秋人は攻撃の手を緩めない。


「これは避けられるか?」


 秋人は再び石を投げ上げる。


「!?」


 投げ上げた石は一つや二つではない。ゆうに五つは越えている。


――ど、どれが落ちてくるんだ!?


 上杉にそれが分かる訳が無かった。

 全神経を石に集中すれば避けられたかもしれない。しかし秋人が真っ直ぐ石を投げてくる可能性を考えるとそれが出来なかった。


「発動!撃ち抜けっ!!」


 空の石の一つが高速で落下する。


「うぎゃあああ!!」


 その石が上杉の顔を掠め、右耳を削ぎ落とした。


「うぅ、畜生畜生畜生っ!!ウルトラ・セブン解除だ!!」


 上杉は後一歩の所まで追い詰めつつも能力を解除した。あと一度の有効打で相手の命を刈り取れるが、その一撃の難易度が命を賭ける程に格段に上がったからだ。否、命を賭した所で今の状況は打破出来ない。苦渋の選択だが他に手はないのだ。


「先にお前を始末しようとしたが予定変更だ……お前は対策を立ててから屈辱的に殺してやる……」


 ウルトラ・セブンを解除した上杉は、耳を押さえながらギロリと秋人を睨みつける。そして秋人を指差し、


「『秋山秋人は』『上杉良太郎を』『捕まえる』!!」


 今度は秋人に能力を発動し、秋人の横に『7』を表示しているカウンターを出現させた。

 そして上杉は背中を向け、一心不乱に走り始めた。


「逃がすか!!」


 秋人は直ぐに駆け出し上杉を追う。

 上杉は傷を負い、秋人の錘が小石と共に足に埋め込まれている。更にウルトラ・セブンの能力の対象となり、先程までの秋人同様に身体能力が削がれている。

 一方秋人はウルトラ・セブンが解除されていつもの身体能力を取り戻し、更には底上げまでされている。直ぐに上杉に追いつきその肩を掴んだ、が、


「なんだと……っ!!」


 掴んだはずなのに掴めていない。上杉が何かをしたのではない。秋人自身が手を開き解放したのだ。カウンターが『6』に変わる。


「俺のウルトラ・セブンは、裏を返せば六回は必ず失敗するんだぜ?例えそれがどんなに楽な作業でもな!!」


 勢いそのままに上杉は角を曲がっていく。


――どうやって捕まえればいい!?


 カウンターが『1』になる度に能力を掛け直されては何時までも捕まえる事は出来ない。


 秋人は迷う。

 逃がしてはならないが、追うこと自体が無意味でありそして危険だ。

 上杉は待ち伏せや罠に誘い込むつもりかもしれない。そしてなにより秋人の攻略法は面と向かい合った状態で効果を発揮する策だ。建物の中でのヒットアンドアウェイ、不意打ちを繰り返されては苦戦を強いられる。

 更に人混みに紛れ込まれては手も足も出ない。正確な射撃の出来ない秋人は攻撃出来るわけもない。


「糞っ!!」


 追うという選択肢は無いに等しい。秋人は握りしめた拳のやりどころを失い奥歯を軋む程に噛みしめた。

 秋人は上杉の消えた方に背を向け走り出す。


「緩奈!!大丈夫か緩奈!!」


 追えないならばもう上杉などどうでも良い。敵に能力が知れることも仕方ない。考えてもどうしようもないのだ。今は緩奈の具合が重要だ。


「大丈夫か緩奈!?」


 民家の塀に寄りかかるように倒れ込んでいた緩奈へ駆け寄り、秋人は緩奈を抱き寄せる。


「俺が不甲斐ないばかりに……すまない緩奈、直ぐに病院に連れてくからな」


 緩奈は肘や膝以外にも擦り傷を無数に作りそこから血を滲ませ、顔は青痣を作り腫れ上がっていた。なにより殴り飛ばされた時に頭を打ち流血しているのが問題だ。片目を塞ぐように流れる鮮血は間違いなく重傷といえる。


「秋人……行って……」


 片目を薄く開けた緩奈が小さく呟く。


「ああ、早く病院に行こうな」

「違うの……今、新平が、別の、能力者と、戦ってるわ……秋人の敵も、多分そこに……」

「っ!!」


 秋人は顔をしかめて舌打ちをした。どおりで新平の到着が遅い訳だ。しかし考え方を変えれば、上杉を仕留めるチャンスでもある。しかし問題が唯一つ。


「私は、大丈夫だから……蝶で案内するわ……早く新平の、元に行って……秋人……」


 そう、緩奈だ。このまま置いていくのは余りにも心許ない。だが、緩奈を病院、もしくはアジトへ運んでからでは新平が手遅れに成りかねない。


「お、おい!!」


 秋人が決断出来ないでいるのを見て、緩奈はふらつきながらも無理矢理立ち上がった。


「ほら、大丈夫だから……早く……」

「……直ぐに戻る」

「うん。いってらっしゃい……」


 秋人は後ろ髪を引かれながらも、上杉の走り去った方へと駆け出す。ここで緩奈を気遣い上杉を逃せば、緩奈が一番に責任を感じ苦しむだろうと思ったからだ。


 秋人が角を曲がったのを見て、緩奈は震える足の力を抜き自然と膝を折った。


「まだ……気を失う訳には、いかないわ……」


 秋人を導く蝶を消すわけにはいかない。それに緩奈に出来る事はまだある。

 緩奈は再び地面に座り込みながらもポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。

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