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ウルトラ・セブン-2

「おらおら!どうした秋山!?もうお手上げか!?」


 上杉の攻撃の鋭さは衰えない。攻撃を捌き、防ぐ秋人の腕に響く強烈な衝撃が、骨の芯まで痺れるような感覚と相応のダメージを与える。


「ど畜生っ!!」


 秋人も攻撃を繰り出すも上杉は難なくそれを捌く。


 秋人の能力は身体能力の高さがあって初めて機能する。パンチが当たらなくては能力の無い一般人と何ら変わりはない。


 問題は上杉の身体能力の高さなのだが、それ以上に秋人の動きが鈍いことにある。確かに差はあるが、本来の動きならばここまで手も足も出ない程の実力差ではない。


 その原因は、やはり気持ちの面で秋人は戦闘に意識を没入出来ていなかったからだ。慣れない汚い言葉を吐いてみるも、戦いそのものに納得できていない秋人にはやはり闘争心が宿らない。


「三回だ!!あと三回で終わりだぜ秋山!!」

「糞っ!!」


 腕に加えられた数多の攻撃の影響で腕が上がらず、頬を捉えた一撃がカウンターの数字を『3』に変える。


――考えろ!!奴の能力を暴き、理解しろ!!


 秋人は思考を巡らす。動きで敵わないならば頭を使い出し抜く他無い。


 秋人は上杉の能力に一つの疑問を抱いていた。


 カウンターにカウントされダメージがないのは『致命傷』と思われる一撃だけだ。ガードしたり足や腕への攻撃はダメージそのままにカウンターには影響しない。

 つまり上杉の能力、ウルトラ・セブンは七回致命的な攻撃を加えればトドメをさせる能力、という事になる。


 この能力は全くの無意味ではないかと秋人は思った。


 能力を使わなければトドメを刺すまでに七回も致命傷を与えられるのだ。半分に満たない回数で勝負は決するといって良い。それなのに上杉は能力を発動し七回致命傷を与える事を選んだ。


――なぜだ?一体何の為に!?


「残りは二だ!!秋山!!」


 幾度とない高速のフェイントを挟んでから上杉の一撃が再び秋人の顔面を捉える。


――カシャッ!


 カウンターが『2』を告げる。


 秋人再び距離を取る。息が上がり、体中がズキズキと痛みを訴えている。


 秋人に焦りが生まれ始める。あと二発。あとたった二発で勝負が決まる。

 秋人の与えたダメージが初めに喰らわせた不意打ちの一発に対して、上杉の攻撃は確実に秋人の腕や足を捉え、機能を徐々に奪い、更にカウンターを既に五も進めている。形勢は誰の目にも明らかだ。


「檜山をやった奴がどれほどかと思ったが、拍子抜けも良いところだ!!」


 上杉は再び疾風の如く秋人へと駆ける。


――畜生!!


 秋人も身構えるが、その構えは歪なものになってしまっている。腫れ上がり痣だらけの腕が思うように動かないのだ。


「一気に畳み掛けて終わりにしてやるっ!!」


 上杉の拳が迫る。

 ダメージに震える足を無理矢理動かし攻撃を凌ぐが、檜山との戦いの傷がこのタイミングで勢い良く血を噴き出した。

 ぐらりと揺らぐ秋人に上杉の拳が襲いかかる。


――かわせない!


 その現実を突きつけられた瞬間、


「秋人っ!!!」


 飛び出してきた人物が上杉に(すが)りつくようにしてその動きを止めた。上杉の攻撃は揺らぎ、致命傷とは程遠い形で秋人を突き飛ばした。


「逃げてっ!!逃げて秋人っ!!」

「なんだこの女は!?邪魔するんじゃねえぇ!!」


 飛び出して来たのは緩奈だ。

 能力者との戦いに置いて自分がいかに無力であるかなど百も承知であるにも関わらず、緩奈は飛び出してきてしまった。


 緩奈は思い始めていた。秋人と同様に、戦闘を仲間に任せ、自分の手を汚さずして高見の見物などしたくはない、出来ないと。

 それは緩奈が秋人と手を組んだ目的と矛盾している。戦う能力が無いからこそ力のある秋人に接触を謀り、そして行動を共にしてきた。

 だが緩奈の中で秋人への感情は、損得勘定や利害得失だけで推し量る事が出来なくなっていた。


 自分の能力が戦闘に不向きな事など緩奈自身が一番分かってる。しかしそれを理由に秋人を檜山と戦わせ、そして苦しめているのだと緩奈は責任を感じていた。

 ならば緩奈は責任を感じたから飛び出してきたのかと問われれば、間違いではないが答えはノーだ。

 秋人を助ける為に飛び出してしまったのは責任を感じていたからだけではない。むしろそれは行動を肯定する為の言い訳に過ぎない。


 秋人を助けたい。


 至極単純なその一心だけが緩奈を突き動かしていた。


「この糞女があああ!!」

「うぅ…!!うっ、うぅ!!」


 振り払おうとする上杉に引き摺られ膝からは見る見るうちに血が流れ出すが、殴られようが蹴られようが唇を噛み締め耐え、決してその手を離さない。


「早く……早く逃げて秋人っ!!」


 どんなに傷つけられても緩奈は痛みの叫びを上げず、ただ秋人に逃げるよう叫んだ。

 緩奈は必死の思いで上杉を止めるがしかし、男と女の力の差は歴然だった。


「キャッ!!」


 上杉が緩奈の長い黒髪を思い切り掴み上げ緩奈が小さな悲鳴を上げると、上杉は容赦なく顔を殴り付け緩奈を引き剥がした。


――プツン


 秋人の中の何かが切れる。

 ダムが決壊するようにある感情が溢れだしそして爆発した。

 その感情は怒り、そして憎しみだ。憎悪は決して真っ当な感情ではない。しかし秋人に取って、否、能力者として戦うならば欠けてはならない感情である。


「貴様あああぁぁぁっ!!!」


 秋人の瞳に炎が灯る。消えていた秋人の漆黒の闘志が轟々と炎を噴き出し燃え盛る。


「棺桶に叩き込みっ!!地獄に突き落としてやるっ!!」


 秋人は真っ直ぐに上杉に突撃する。上杉との戦いで初めて秋人から仕掛けた。


「それはこっちの台詞だ!!」


 上杉も秋人へと駆け出す。


「駄目っ!逃げて秋人っ!!」


 緩奈の悲痛の叫びが、秋人の闘志を更に燃やす。


――俺には戦う理由があったじゃないか!!


 秋人は先程までの思い違いを悔やみ叱責した。


――戦わなければならないだと?ああそうだ!俺は戦わなければならない!!


 だが仕方がなく戦うのではない。自分を守る為じゃない。


――俺は戦わなければならない!大切な物全てを守る為に!!


 緩奈は思っていた。『秋人の覚悟は自らの命を危険に晒す覚悟だ』と。

 だから忠告したのだ。『命を奪う覚悟をしろ』と。いつかは敵の命を奪い、そのことが秋人を苦しめるであろうと思っての忠告だった。


 言っている事は正しかった。だがその考えは間違いだった。


 秋人に必要だったのは『自分の為に、敵の命を奪う覚悟』ではなく、『敵の命を奪ってでも、誰かを守る覚悟』が必要だったのだ。


 そしてその覚悟が、確固たるものとして秋人の中で生まれ、そして根付いた。


 秋人と上杉の距離がお互いの射程まで縮まる。


「「うおおおおおおお!!!」」


 二人の張り上げる声が重なり、互いの拳が風を切り交差する。

 掠めた拳が頬を斬り裂き鮮血が舞い、次々に繰り出す攻防の速度が徐々に上がっていく。


――は、速い!!


 先程までに比べ、格段に速度を増した秋人の動きに上杉は驚愕した。速度を増した攻防も秋人に追いつこうとして上杉が引っ張られる形であった。

 秋人の攻撃が上杉に当たり始めている。


 本来、怒りによる攻撃は力が篭もり過ぎ、鋭さを失うものだ。それなのに秋人の攻撃は逆に研ぎ澄まされたように鋭さを増している。


――これが本当の実力か!?こ、この男!危険だ!!


 上杉は長期戦は危険と判断し、一気にトップギアに入れる。全力で早々に秋人を始末する事にしたのだ。

 一気にスピードを上げた上杉の動きに秋人は反応出来ず、足の傷に上杉の拳が直撃する。


「喰らえ!!」


 激痛に動きが鈍ったところへ上杉の拳が振り下ろされる。


 回避は不可能。そう判断した秋人の行動は早かった。


「構うか!このまま殴り抜けるっ!!」


 秋人は迫る拳を無視し、上杉の顔面を全力で殴り付けた。


 両者の拳がお互いの頬を捉え振り抜かれる。秋人へのダメージは無いが、カウンターがとうとう『1』を表示した。


「発動だ!!(ひざまず)け!!」


 吹き飛ばした上杉を指さし秋人が能力を発現させた。


 しかし、


「なん、で……?」


 驚愕の声を出し目を見開いたのは緩奈だ。緩奈は状況が分からず混乱した。


「はっ!残念だったな」


 上杉は不敵に笑った。勿論地面に伏せってなどいない。


「跪け、だと?この小さな錘で、か?」


 上杉の顔には小さな親指大程の錘が付けられているだけであった。

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