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アポロ・ストライク-2

 放課後、秋人はまず春香を普段通り家まで送り、その後緩奈と新平と合流し、予定通りの行動を取った。


 秋人は指定された場所には向かわなかった。罠や待ち伏せの他にも、相手の能力に有利な場所である可能性もある為、別の場所をこちらから指定したのだ。


「まぁ応じないわな」


 相手は再び別の場所を指定して来たので、秋人は再度別の場所をメールで指示し、相手は更に別の場所を指定した。四度場所を変えたそこで秋人は手を打ち、その場所へと一人足を運んだ。



 建設途中の工事現場。そこが待ち合わせの場所である。秋人がそこに行くと既に相手は到着しており、秋人を待ちわびていた。

 待っていたのは髪の毛をツンツンに立てた、だらしなく桜庭高校の制服を着崩した男、つまり檜山と呼ばれる森を始末した男唯一人であった。


「探り合いも騙し合いも結構だ。用件を聞こう」


 男と十分な距離を取って立ち止まり、秋人から口火を切る。


「シンプルなのは好きだぜ。秋山、俺達の仲間になれ」


 檜山は森の時と同様の台詞を言う。


「お前達の目的は?」

「自衛だ。他の組織に飲まれない為にはより多くの能力者、つまり戦力がいる」

「俺が聞いているのは能力者を集める理由じゃない。組織の存在意義だ」

「ギャングやマフィア、暴力団と同じだ。能力者には能力者の仕事、いや違うな、使命だ。そして正義がある」


 正義。なんと抽象的な言葉だろうと秋人は思った。正義など立場や状況でいくらでも形を変える都合の良い言葉だ。そして使命などと崇高な言葉で言うが、実態は能力を使っての金儲けだろうと秋人は深く嘆息した。


「俺は出来るならば能力など捨て去って生きたいんだ。お前達が何をしようと興味がない。だから放って置いてくれないか?」


 檜山は首を横に振る。


「お前達『野良』は俺達組織からは厄介な存在なんだよ。言わば地雷だ。放って置けばどこかで摩擦が起きて後々大きな痛手を負いかねない。ならば見つけた所で取り除くか、もしくは壊すのが懸命だろ?」


 そうか、と秋人は呟いた。そして確かに地雷という表現は正しいと秋人は思った。

 組織がどこで何をしようが構わないが、自分の手の届く場所、自分の大切な者が関わる事ならば当然牙を剥く。組織からすれば地雷、つまり秋人達野良の機嫌を(うかが)って活動するなど有り得ないのだろう。

 遅かれ早かれ衝突するならば早い段階で危険因子を取り除くのは道理だ。


「もう一度だけ聞く。お互い不干渉という訳には?」

「いかない」

「分かった。交渉は決裂だ」

「残念だぜ」


 檜山は言うや否や直ぐさま構える。まるで予想していたように、否、言葉とは裏腹にこうなる事を望み、そう導いていたかのように秋人は感じた。

 一方、秋人も会話で戦闘を避けられるとは考えて居なかった。しかし秋人は構えない。


 そして一気に秋人との距離を積めようと、檜山が重心を前に倒した、その時。


「見ろ」

「っ!?」


 秋人が左手を前に差し出す。秋人はそれだけで檜山の動きを止めた。


 正確には左手を差し出したのではない。左手があるべき部位を差し出したのだ。

 そこに左手はない。切り取られたように肘から先が無くなっている。檜山には髪に隠れて見えないが耳も無い。


「お前の能力か……?」

「さあな」


 無論、新平の能力である。しかし檜山は警戒して接近を中断した。


「詳細を晒す気は無いがこれだけは言っておく。この場の情報は全て俺の仲間に筒抜けだ」

「それがどうした?一体なんのつもりだ?」

「言ってる事が分からないか?檜山康一(こういち)

「な!?」


 秋人が自分の名を知っている事に檜山は狼狽した。


「なぜ俺の名前を!?」

「お前の住所も生年月日も分かってる。これで能力まで分かれば最早敵じゃない。簡単に討ち取れる」

「てめぇ……!!」


 檜山は秋人の言おうとした事を理解した。ここで能力を使えば秋人を始末したとしてもその情報が仲間に流れ、自分の首を絞める事になると。


 秋人が檜山の情報を手に入れたカラクリはこうだ。


 秋人はここに来る前に左腕と左耳を新平の瓶に入れ、同じ瓶に緩奈を入れて置いた。秋人からは筆談することで秋人達は意志の疎通が可能になった。

 後はバタフライ・サイファーで檜山の顔を確認し、以前新平が盗み出した生徒名簿と照らし合わせ、秋人の要求する情報を緩奈が喋れば良いだけだ。

 結果的には腕を入れた意味はそれほどなかったが、相手が思慮に欠け攻撃して来たならば、視覚からは伝わらない情報を秋人が伝える準備が整っていたのだ。


「お前も同じだろ?保険を掛けて仲間がここを見てるんだろ?」


 檜山がもし敗れた時には新手を送るため、秋人の能力を把握する者が潜んでいると見て間違いないと秋人は踏んでいた。


「……どういうつもりだてめぇ!!」

「どうもこうもない。当然の手を打ったまでだ」

「くそ……っ!!」


 檜山は苛立ちを露わにして、米噛みに青筋を浮き彫りにした。それでも飛びかかりたい気持ちをなんとか抑え込んで構えを解く。

 ここで戦うのは余りに無意味であるからだ。結果的にお互い退くか共倒れしかないのだ。組織的にはプラスマイナスゼロ、どちらでも構わないが、当人達が後者を選べる訳が無かった。

 それが檜山には歯がゆかった。


 檜山が背を向けるのを見て、秋人が瓶の中のペンを手放すと新平は能力を解除し、秋人の左手と耳を元に戻す。


「後悔させてやるからなっ!!」


 檜山は肩越しに振り返り秋人に吐き捨てた。組織に刃向かった事を死をもって後悔させると。


「後悔させてやるよ」


 秋人は同じ言葉で返した。触らぬ神に祟り無し、自分達の平穏を脅かした事を身をもって後悔させてやると。


 この瞬間、秋人と組織の長い戦いの幕が切って落とされたのだった。

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