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バタフライ・サイファー-2

 能力者を探すと言っても手掛かりも宛も無く、秋人は正直お手上げ状態だった。

 部活動でないのだから大々的に『集え!能力者!』なんてポスターを貼る訳にもいかなければ、疑いのある人物を見つけたとしても『こんにちわ、良い天気ですね。ところで貴方は能力者ですか?』などと聞ける訳もない。

 途方に暮れた秋人は人知れず頭を抱えるしかなかった。


「ばいばい秋人! また明日ね!」

「ああ、じゃあな」


 結局、その日も春香と下校する日常を送るしかなかったのだった。


 春香と別れた直後、どうしたものかと黙考していた秋人の携帯が振動し着信を告げる。ポケットから携帯を取り出し確認すると、見たことの無い電話番号からの着信であった。

 秋人は不振に思いながらもそれを取った。


「……誰だ?」

『走って』


 聞き覚えのない女の声だ。

 電話先の相手は名乗らず、端的に指示を出してきた。


――キュイン……


 電話先の女に言葉を返そうとした瞬間、遠くで聞こえた甲高い音に秋人は周囲を見渡した。


「……なんの音だ?」

『聞こえたようね。来るわよ』


 女に言った訳ではない言葉だったが、彼女はそれに対して『来る』と言う。秋人は女が一体何を言っているのか理解出来ず困惑した。


「一体何が――」

『死ぬわよ?走りなさい!』


 意味が分からないが、穏やかではないその指示に秋人は取り敢えず従い駆け出す事にした。


――キュイン……ガッ!


「な、なんだ!?」


 走り出した直後、秋人の立っていた場所に真上から一筋の光を残して何かが飛来し硬いアスファルトを削った。


『弾丸を飛ばしてきているようね。無論、能力者よ』


 一筋の光は弾丸の軌跡だったのだ。しかし秋人の今いる住宅街の上には電柱と送電線しかない。

 秋人は走りながら上を見上げるが無論人の姿はない。


「お前の能力か!?」

『まさか。だったら貴方を助けたりなんかしないわよ』


 確かに電話先の女の警告がなければ、今頃秋人は撃ち抜かれてやられていた。味方だと信じはしないが敵じゃないようだと秋人は思った。


『上を見て』

「誰もいないぞ?」

『誰もいないけど何かあるでしょ?』


 秋人は再び空に目をやるが電柱と送電線しかやはりない。


「電柱と――」

『もっと上』

「もっと上?」


 秋人は更に上空を見る。秋人が走っている東には、夕焼け空が終わり既に星空がある。

 その星の中の一つが不自然に瞬いている事に秋人は気が付いた。


「なんだ?あの星は……」

『星じゃないわ。実際は五十メートルぐらいの高さにある鏡よ』


 星に見えたそれは、扇の形をした鏡だと女は説明する。


『能力で作り出された物だから実際には鏡じゃないかもしれないけど、それはどうでもいいわ。あれで弾を反射させて攻撃してきてるの』


 遠くから聞こえた甲高い音は鏡に弾が当たった反射音だったのだ。


――キュイン……


 再び反射音が秋人の耳に届く。


『来るわよ』

「分かってる」


 秋人は空を見上げて身構える。かなり速いが音で攻撃を宣言し、そして結局は真上の扇から攻撃してくる。それが分かれば躱せない攻撃ではなかった。


――キュイン!


 真上の扇に何かが飛んできて秋人目掛けてそれを反射させる。


 軌道を瞬時に見切ると秋人は横に飛び退いた。


『まだよ!!』

「なっ!?」


 そこで気付く。秋人が居た場所の地面スレスレを、鏡の扇がヒラヒラと舞っていることに。


「クソッ!!」


――キュイン!!


 無理矢理に秋人は体を捻り、下方から反射された弾丸は頬に赤い一文字を刻んで空へと消えた。


「やってくれるな……」


 秋人は頬の傷から滲み出る血を袖で拭い、見えぬ敵に呟き冷笑した。


『見事な反射神経と運動能力ね。動態視力も褒めておくわ。私には軌跡も少ししか見えないもの』

「そりゃどうも」


 秋人は適当に返事をしてそれ程効果は無いと分かっていながら、数を減らす為に扇を蹴ると簡単に粉々になり消えた。


 秋人は自身の能力とも新平の能力とも違う、遠距離から攻撃する能力に対する対処方を考えた。


 能力の核というよりも能力そのものである新平の瓶でさえ、破壊されても能力者に影響は無く、一日で一つ再生する事が出来るという。恐らく鏡の扇を破壊する事に意味はない。それこそ無限に出てくるだろうと秋人には予想出来た。


 ならばこの能力者を退ける方法は一つ。能力者そのものを叩くしかない。


「敵の居場所は分かるか?」

『まだ掴めてないわ』


 仕方がない事だが、秋人は電話から伝わらないように舌打ちした。


――キュイン……


「くそっまたかよ!」


 秋人は反射音に駆り立てられるように、再び宛てもなく走り出した。

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