返信
どう返信するべきか葵はしばし悩んだが、依頼が来た以上、まず鑑定が必要であることに変わりはない。
美咲からのメールの最後に書いてあった生年月日をもとに、美咲のホロスコープを作成した。翔太のホロスコープも見てみる。
太陽が入っているのは、美咲がおひつじ座で、翔太はやぎ座。
太陽星座だけを見てみると、確かにあまり良いとは言えない位置関係にあるが、
「そもそも西洋占星術って、星座占いじゃないしな……」
ブツブツ言いながら、二人のホロスコープの恋愛に関する星回りを見てみる。
そこに今、どんな星が巡ってきて、どう影響を与えているか。
これもまた鑑定においては重要である。
ひととおり鑑定をし、返信の内容を手短にまとめる。
美咲は行動的で情熱的で、自分の思いを素直に表現するタイプ。一方、翔太は慎重で冷静で、自分の感情を抑えるタイプ。美咲はもっと翔太にもっと構ってほしいと思っているが、翔太は基本的に仕事人間で、おまけに恋愛には不器用で優柔不断な一面もあることから、大きな仕事があるならそちらに集中したいはずである。
性格や価値観が異なっており、太陽星座からすると確かにあまり良い相性とは言えないが、西洋占星術は太陽だけで占うわけではないこと。
二人のホロスコープの恋愛に関するあたりに、今現在、幸運の星である木星の後押しも見当たらない。おそらく、今は二人とも仕事に忙しすぎるのではないか。恋愛に割く時間もあまり捻出できないのが実情ではないか。仕事が落ち着いてから二人の時間を持ってはどうか――。
『送信』
葵は文面に悩みながら何度も何度も書き直し、最終的には送信ボタンを押した。
何度も書き直したのは鑑定内容ではない。美咲への挨拶や励ましといった、ごく普通のビジネスメールで使われるあたりの文言だ。
美咲のメールを見たときは悩んだが、鑑定をしているうちに、西洋占星術師として美咲に正しいアドバイスをするのが自分の責務だと考え始め、最後には心を決めた。
二人にはめでたく結ばれてほしいかと言われると、疑問も残る。改めて送信済みメールを見てみると、自分の想いを完全に無視することはできなかったような気もしてくる。
かといって、二人に破局してほしいわけでもない。そもそも自分は翔太に「好き」の一言も、それらしい言葉も伝えられないまま退職という道を選び、自分の意思で翔太から離れたのだ。
翔太と付き合っていたわけでもないし、翔太が美咲と付き合い始めたのは、自分が会社を辞めた後のこと。
本来であれば、自分が口を出すことはなかった。たまたま、今回美咲の選んだ占い師が自分だったのだ。
一度はあきらめた恋。蒸し返すのは今日だけ。
そう自分に言い聞かせた。
「今日はさすがに、口コミとかチェックする気分にはなれないな……」
葵は少し苦笑し、パソコンを切り、今日のサイト運営を終わらせた。