異世界7-4 第二形態
『──形態変化・鳥』
「飛行形態になったか」
ゴリラの巨腕を広げて翼とし、大きく羽ばたいて空へ発つ。
そのまま旋回しながら下方目掛けて無数の光線を放射。周りの事は一切のお構い無しに攻め立てる。
「無法に暴れまわってんな……!」
「容易い。空中だろうと関係無かろう」
『来るか』
飛行する手段は俺にもあるが、ルシが行くなら任せた方が得策だな。
ルシは跳躍してロボ幹部の眼前に躍り出た。そのまま膝蹴りを打ち込んで空中でのバランスを崩し、翼を掴んで放り投げる。
地上へと落下して瓦礫を巻き上げ、辺りを粉塵で埋め尽くした。
『形態変化・猪』
「狙いを俺に定めたか……!」
翼を仕舞って四足歩行となり、鋭い牙と高速移動にて突進を繰り出す。
余波で周りが揺れ、舞った瓦礫が吹き飛ばされる。
無論の事俺にこの速度を避ける事は出来なかった。
内部から弾けるようにバラバラに消し飛んだが、死してもスキルを得る事は無かった。
つまり形態変化シリーズは一つのスキルとして確立しているのか。
だったらコイツに張り付いて……!
「脳天を撃ち抜く!」
『バラバラにしたが、それでも無事か。自己再生能力が高いらしい』
「硬っ! 機械兵なら貫通するのに効かないのかよ!」
猪ロボ幹部はそのまま直進して俺の背後の建物に俺をぶつけて押し潰す。
それによって体が潰れ内臓が飛び出したりもしたが即座に復活し、サイコキネシスで周りの建物を持ち上げて猛追。瞬時に少し前にコイツが放った超遠光線で射抜いた。
『このまま密着するのは危険か』
「おわっ……!?」
己の体の部品一つ一つをネズミへと変え、バラけるように無数のネズミ型ロボ幹部が距離を置いた。
今回はちゃんと体積分の変化だな。数十センチにも満たないのがそれぞれ意思を持って逃げている様は不思議だが、多分自立型のナノマシン的な物を使っているのだろう。
便利だな、ナノマシン。SFの理由付けはこれで大体どうにかなる。
『ならば左右から押し潰そう』
「今度は牛か……!」
バラけたネズミが離れた場所でそれぞれ形を組み立て、二頭の牛となった。
瞬間的に突進し、俺の体は引き千切られる。これなら密着は出来ないが、俺の所も丁度二人だ。
「さっさと片方をやってしまえ。テンセイ」
「分かってるよ!」
『む……』
『降ってきたか』
ルシが上空から蹴りを下ろし、牛の頭を潰す。再生した俺は光線と形態変化のスキルを組み合わせ、物理と同時にレーザーを撃ち込んで粉砕した。
『少しのんびりとし過ぎていたか。学習しよう』
「虎か……!」
バラバラになった体を集め、虎となったロボ幹部は鋭い牙と爪を用いて襲撃。
遠方にて爪を振るい、その斬撃を飛ばして嗾け──って、んな事出来る虎が自然界に居るか!?
それともこの世界だとそうなのか!?
「てか、今更だけど何で動物の形が俺の居た世界のものなんだ? SF世界ならもっとこう、グロテスクで気持ち悪いエイリアンとか宇宙生物じゃないのか?」
「そう言うイメージなのだろう。そのうち君の思う獣も出てくる。このポンコツが変形するかは分からぬがな」
俺の知る地球に居るような動物の応酬。その理由はイメージからなる世界だから。
けどそれはあくまで俺の世界での存在。確かに魔法世界での幻獣とか魔物も神話で使われるようなものだったな。
知能を持った宇宙人が俺の世界には居ないのか、此処に俺が居るから俺の世界のイメージが引っ張られるのか、よく分からないし考えなくてもいいか。その辺は有識者に任せよう。
『排除』
「合いの手みたいに排除を挟むな……!」
虎爪の斬撃の次は牙を用いて噛み付く。
野生らしい在り方だが、機械に野生ってのも変だな。
ルシはその懐へと入り込み、回し蹴りを打ち付ける。が、ロボ幹部は変形し、跳躍して避けた。
「ほう? まあまあの跳躍力だ」
「あの耳……次はウサギか……!」
その場で何度も跳躍し、地響きと共に周囲を崩壊させた。
あれ程の質量が跳ねるだけで地盤沈下が巻き起こる。それどころか俺の国なら一都市は容易く壊滅するぞ。
「ピョンピョン跳ねるな。目障りだ」
『……』
理不尽な理由で高層建造物を投擲し、空中のロボ幹部を打ち落とした。
しかし幹部は空中で姿を変え、細長く髭を生やした龍の姿となって舞い上がる。
「って、龍って! 急に神話の生き物!」
『排除』
サブリミナル排除を交え、口から光線を放射。金属の床が熔解し、爆発して巻き上がる。
そこへ風を起こし、暴風からなる竜巻にて全てを吹き飛ばした。
その竜巻には雷も見えており、龍としての力をフル活用しているな。
けど、龍の相手なら前の世界で既に行っている。
「まずは竜巻を止めて……!」
サイコキネシスにて竜巻の進行を阻止。幹部であるサイの念動力だからな。抑える力はお墨付きだ。
暫し拮抗して吹き飛ばし、ルシが跳躍して顎を蹴り上げた。
『……!』
「ほら、君も来い。テンセイ」
「分かったよ!」
俺自身をサイコキネシスで持ち上げ、龍となったロボ幹部に突撃。
強化した体で打ち抜き、刃足にてその体を切り裂いた。
しかし頑丈な身体。俺程度の攻撃じゃビクともしないか。厳密に言えば機械兵の攻撃だけど、どちらにせよだ。
『形態変化・蛇』
「龍から蛇って……獣じゃないし。普通に思えば弱体化だけどアンタの場合はそうじゃないんだろ!」
『ああ』
《認証しました。新たなスキルを登録します》
口から毒が吐かれ、俺の体は死亡。新たなスキルを得る。
物理的な力でやられたら“形態変化・獣”の一種として扱われるみたいだが、こう言った特殊能力みたいな力なら覚えられるのか。
俺の体は復活したが、次の瞬間には固まったように動かなくなった。これは……。
『排除』
「……ッ!」
成る程な……! 毒に麻痺要素があって動きを止め、絞め殺す算段か。
そのまま絶命し、生き返る。刹那に眼前には大口が迫っていた。次は食うって訳か。多分消化液的な物は生み出せる造りだろうし、かなりの苦痛だろう。
「これもスキルにはならなかろう。時間の無駄だから助けてやる」
「お、サンキュー」
飲み込まれた瞬間にルシが胴体を裂き、蛇となったロボ幹部をバラした。
そこから俺は脱出し、ルシは更なる追撃を行う。
『このままではマズイな……』
「……逃走か?」
蛇から変化させ、馬となって俺達から距離を置く。
その間にも光線を撃ち続けているが当たる事は無く、一瞬にして追い付いて魔力を込めた拳を打ち込んだ。
「……? なんだそれは」
『形態変化・羊』
羊のように丸くなり、ルシの拳を受け止めた。
毛は一つ一つが針のように鋭く殺傷力の塊だが、まあルシがダメージを負った様子は無い。その毛も多少は削れたが、あれを耐えるのはかなりの防御形態だろう。
『仕方無い。貴様らにはこの姿を見せるとしよう』
「そのモフモフな姿か?」
『違う』
まさかルシの言葉からモフモフが出るなんて……その方が驚きだ。
そしてまあ単純に考えて、ロボ幹部は第三形態をお披露目する感じだろうな。
『驚くな……これが更なる姿だ……!』
毛が飛び散り、その余波で周りの瓦礫や建物が崩壊を喫する。
このレベルの脱毛は危ないな。死人が出る。
それによって生じた粉塵で辺りは覆われ、晴れた時にはロボ幹部の姿が明らかになった。
『これが更なる姿だ。言うなら人間態……意外な物だろう』
「いや別に。大体そんな感じだろうなってのは分かるし。ぶっちゃけアンタの知能があれば猿もゴリラも人間も変わらないだろ」
現れた姿は、白い長髪に白い目。白い肌の人間態。
性別は不明だが、胸の膨らみから見て女性をモチーフにしたのかもな。生物的な機能は何一つ無いんだろうけど。
何となくディテを彷彿とさせる姿だ。
『変わらないかどうかは自分の目で確かめてみろ』
「ま、能力が向上したのはそうなんだろうけどな」
「煩わしい姿だ。さっさと破壊してやる」
思った通りルシはその姿を見て苛立ちを覚えている。
パッと見それっぽいだけでまあまあ違うが、それはいっか。今は倒す事優先だ。
ロボ幹部の第三形態。白髪白目の人間態。戦闘はまだ続く。と言うか最終形態とかも分からないしな。単純に考えれば人間態が最終形態だけど、コイツが単純かも分からない。
所有スキル
・光線ライフル
・刃足・レーザービーム・光線弾
・サイコキネシス・ボルトキネシス・フォトンキネシス
・超遠光線・形態変化(獣)・毒液




