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異世界1-8 2人の悪魔

「……!」

「チッ、惜しくもディテを殺せなかったな」

「第一声がそれですか……」


 ディテが魔王城から離れ、俺とルシの意識もこちらに戻った。ルシは多分元々ここにあるんだろうけど。

 悪態を吐くルシをなだめようと目を開くと、目の前には変わらず全裸の姿が……。


「……って! まだ服着てなかったんですか!? は、早く服着てくださいよ!?」

「なんだ良いのか? この体をまだ暫く眺めていたいと言った面持ちだがな」

「い、いやいやいやいや! そんな事微塵も考えていませんって!」

「とは言いつつ思考は正直だ。我が肉体を堪能したいと出ているぞ?」

「そ、そんな事考えてませんから!」


 ウオオオォォォォッ!!! 静まれ俺の中の何かァァァ!!!

 何も考えていない考えない! 目の前にあるのは女性の肉付きではあるが、実態は性別不詳の大魔王だ! このまま誘惑に乗ったら精魂果てるまで魂的な何かを食われるんだーッ!


「我はサキュバスか何かか。そんな事はせぬ。もし君と何かをしたとして、それはあくまで暇潰しだ。それと揶揄からかいだな。人間が困る姿は面白い」


 あ、やっぱこの人大魔王だ。単純に人が困るのを楽しんでる。

 奔放って訳ではなく、知識でしかそう言う事は知らないと言っていたが、文字通り次元の違う存在だからこうも堂々と誘惑してくるのだろう。

 人間も他種族の交わり的なアレは特殊性癖の人以外は無関心だからな。動物同士のそれを見ているのと同じなのだろう。


「その理屈だと我が特殊性癖の存在となってしまう。立派な侮辱だぞ。我も見た目は人間に近いんだ。興味ぐらい持ってもいいだろうに。そもそもお前の記憶を覗き見る限りケモ耳やエルフなどの亜人物をよく嗜んでいるではないか」


「な!? そっかさっきの……俺の記憶も読み取られるのか……。と言うか、それとこれとはまた別だろ!?」


「性癖について語り合っているところ悪いけど、私が帰って来たわよ」


「「……!」」


 話しているとディテが帰還した。

 どうやら魔王達からは上手く逃げ仰せたらしい。

 一先ず乱れ始めていた場に清涼剤……って感じじゃないよな。あんな性格だし。取り敢えずこの場は落ち着くだろう。 


「失礼ね。私はどこからどう見ても清涼剤じゃない」

「カンフル剤の間違いだろう。貴様が居ると苛立ちが抑え切れない。せっかくテンセイを揶揄からかって遊んでいたと言うのに」

「やーねー。こんなに長く居る人間の子なんか居ないんだから。私にも遊ばせなさいよ」


 あ、悪魔だ……。大魔王だけじゃなく神様にすら悪魔が宿ってる……。

 環境が整うまで一緒に居るって話だったけど、もしかしたら一緒に居る間ずっとこの2人のおもちゃになるのか……?


「「…………」」

「いやなんか言えよ!? ガチっぽくなってんじゃん!?」


 ヤバい。マズイ。ヤバズイ。ガチヤバズイ……なんか地名っぽくなった。

 早いところ環境を整えない限り俺はずっとおもちゃだ……。

 ここはまずこの世界での仲間を探しに……と思ったけど、転生者の特典にあやかろうっていう連中ばかりだったからな……。俺自身が強くなった実感的なものは湧かないから頼られても困る。


「……うーん、まずはこの街を離れて俺が転生者って知らない人達を探しに行くか。こう言うのって大抵1人になるのがおかしい程に美人で実力も伴ってる冒険者があぶれてるもんな。そう言う人を探そう!」


「なんだ。我と共に居たくないのか? 我は強いと言うのに」

「全くよ。私の実力、ルシちゃん越しに見たでしょう?」


「いや、実力じゃなくて性格が問題なんですよ。俺を弄る気満々じゃないですか。精神的に疲れると言うか何て言うか……」


「残念だな。面白いのに」

「面白くないですよ……」


 悪気はない。だからこそたちが悪い。

 実力は申し分無いんだが、なるべく親しみやすい人達とつるみたい気分だ。

 なので俺はギルドカードを確認し、今度は間違えず建物の外に出た。……ルシはいつまで裸なのだろうか。



*****



「本当にすっかり建て直ってるな。数時間前まで消し飛んでいたとは思えない程の再興具合だ」

「でしょう? 直す事にはけているのよ~」

「こんな街を直すのは大した問題じゃない。単純な造りだからな」


 街は完全に元に戻っていた。レンガの建物に街路樹。流れる川など。

 人工的な建造物はルシ。自然の物はディテが再生させたのだろう。力の大半を失ってもなお大した力だ。性格はともかく。

 ……さて、


「なんでアンタらも付いて来るんで?」

「今は仲間だからな。環境が整うまでという契約。仲間が揃うまで同行する義務があろう」

「そうよ。ちゃんと整ったと判断出来れば離れてあげるわ」


 ちゃんと整ったという判断。つまり信頼出来て自分達が必要無いと思えるような仲間が加われば離れてくれるようだ。

 と言っても俺には目的も特に無いな。先決すべきは大魔王に多元を含めた全ての世界が滅ぼされるのを防ぐ事かもしれない。

 そもそもルシは力を戻してディテを滅ぼした後何をするのか。それも気掛かりだな。


「別にどうこうしようという気はない。全ての世界線が滅ぶのはディテを消滅させる上で仕方無い事だ。今のまま力を取り戻し、数多の世界線を消さずに我が目的を達成出来るならそれで良い」


「あら物騒。どう思う? こんな事言う女の子。怖ーい」

「俺は色んな意味でアンタの方が怖いよディテさん……」

 

 曰く、世界が滅ぶのは相応の力で仕留めなければディテ……神様を消せないから。

 それで住んでいる世界が巻き込まれる俺達は堪ったものじゃないが、次元の違う2人には関係の無い話だろう。

 無駄な事は考えず、改めて周りを見渡す。


「……この街のギルドや場所は俺の顔が広まっているのだろうか。ステータスオール0なんて珍しいどころの話じゃないからな。魔王軍の幹部襲来で有耶無耶になってくれていたらいいけど、そんな雰囲気でも無さそうだな」


「ん? あの黒髪スレンダーと白髪巨乳を連れているやつ……」

「ステータスがオール0だったって言う転生者か?」

「聞いた話じゃ魔王軍の幹部を追い払ったらしいぞ」

「マジかよ! 未だかつて誰も退けなかった幹部をか!?」

「やっぱりあの子に目を付けておくべきだったわね」

「今からでも誘惑しようかしら?」


 しかもなんか尾鰭おひれが付いて大きな事になってるし……。

 一体誰がこんな根も葉もない噂を流したんだ……。ディテとルシ……はそんな事しなさそうだしな。


(そうね。私は幹部が去ったらある程度街を直してすぐに後を追ったもの)

(我もだ。広める必要も無かろう)


 そうなると他に居た人なんか居るか?

 思い出そうと考えると、声が聞こえていた。


「本当ですか? キリさん」

「ああ。この目でハッキリと見たよ。今回魔王軍を払ったのは今日来た転生者、テンセイだ」


 いた。

 って、マジか!? なんかこう言うのって自分の手柄にする為陥れるような行動を起こすモノばかり思っていたけど、キリはちゃんと良い方の評判を流すのか!?


「おや、噂をすれば英雄の帰還だな」

「いや元々この街に居るんで……」


「おお、コイツが例の……」

「なんかパッとしないな」

「これならまだキリ様の方が信じられるが……」

「当人がそう言っているからな……」


 周りの人達の評価はさておき、俺はキリへ耳打ちする。


「ちょっと、なんで騒ぎを大きくしてるんだよ……!? ほとんど痛み分けみたいな感じだったし、評価が大きくなって目立って頼られて、ファンクラブとかが出来て握手会とか開くのも大変なんだが……!? ファンとの熱愛とか発覚したら俺の立場が無くなるんだが……!?」


「スゴく出世した方向で話すなお前は。ポジティブ過ぎるんじゃないか?」


「とにかく! なんで俺なんかの評判を!?」


「別に。俺はただ見たままの事を民達へ広めただけだが? 成果を挙げ、然るべき評価を受けない事の虚しさは身を以て実感しているからな」


「だからと言って何の断りもなく……なんならアンタの手柄にしても良かったんだぞ? 部下達をアンタが止めてくれなくちゃ被害が更に広がっていただろうし……」


「ちゃんと報酬は貰ってる。ホラ、お前の分もだ。後からギルドから正式に大金が明け渡されるぞ」


「マジ!? ……いや、別にそんな……まあ貰える物なら貰っておくけど?」


「誰に言っている」


 キリもかつて似たような事があった。だからこそ俺の評判を上げてくれていたらしい。

 良い奴か!? けど微妙な感じだ。余計なお世話って言って親切心を無下にはしたくないけど、なんかモヤる。別に完全勝利を収めた訳じゃないしな。


「だったら好都合じゃない。仲間、探してるんでしょ?」

「ああ。この評判にあやかって仲間を増やせば良い」

「ディテにルシ……」


「なんだ。仲間を探しているのか。俺には彼女達が居るからこれ以上増えるのは大変だが、代わりに良い所へ案内してやろうか?」


「え? 本当か!? けど悪いな」

「別に良いさ。助けられたのは此方だからな」


 基本は良い奴。たまにお節介で態度もデカイが、ちゃんと教養はあるのだろう。

 俺達は人混みを抜け、キリの案内の元その場所へと踏み入った。

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