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異世界6-8 十秒

「小手調べをする暇もないか」

「心得ているではないか」


 サイは俺へしたように周りの建物を持ち上げてそれらを全て高速で撃ち出した。

 というよりは降下させたが正しいか? いずれも威力は凄まじく、一つ一つが隕石のようだった。


「いや、流石に隕石よりは低いかな。実際に隕石を降らせる事も出来るが、一応俺が治める街なんでね。そんなに汚したくないんだ」


 どうやらサイは街がどうなってもいいとは思ってなかったらしい。そして隕石よりは低威力と。俺の検討はよく外れる。

 サイの言葉には戦闘相手であるルシが返答する。


「それを考えている割には周りの物を色々と利用しているではないか。自ら汚しているように見えるが?」


「敵の排除は最優先。それだけだよ」

「そうか。では我もそうしよう」


 降り注ぐビル群を片手で薙ぎ払う事で塵とし、ルシは一歩踏み込む。刹那に眼前へと詰め寄り、サイが反応する間もなく殴り飛ばした。

 ビル群が崩れ落ちて消し飛び、直線上に何の建物も残らなくなる。


「この強さ。一体何者だ?」

「なぁに。しがない魔王のクローンからなる古代兵器だ」

「クローン……!」


 テレポートで背後から回り込み、念動力で押し潰して話す。

 それを受けても意に介していないルシは上空のサイを見やり、軽く跳躍した。


「サイコキネシスを押し退けて……!」

「ちょっとした空気圧程度だ」


 地面がひしゃげて陥没する程の念動力を押し退けて弾き、そのままサイの体を更に上空へと飛ばした。

 舞い上がるサイの背後へ回り込み、腕を振り下ろして金属の道へ叩き落とす。その衝撃で下方は割れ、サイはクレーターの中心から片手を突き出していた。


「はっ!」

「……!」


 散った金属片。及び地表を操り一斉放射。

 アースキネシス的なやつだっけか。鉱石とかを操る力。それをもちいて大地の質量を放ったって訳だ。


「様々な力を持っている割には単調な質量のゴリ押ししかしてこないな。貴様にやる気はあるのか?」


「変幻自在の戦い方をしたとしても通じないだろう。なら力によるゴリ押しで攻めた方が最適だ」


 大地に押し潰されるルシだが即座に粉砕して抜け出し、次の瞬間には全方位から隕石が迫る。

 隕石は使わないって言っていたが、形振なりふり構っていられなくなったか?

 そんな俺の思考へ返答は無く、本当に大変なんだなってのがよく分かった。


「力押しではそれこそ我に及ばなかろう」

「いいや、そうする事に意味がある」

「……!」


 再びルシが迫り、そのまま回し蹴りを放つ。しかしサイはそれを見切って避け、ルシの体を念動力にて吹き飛ばした。

 飛ばされた直後にも体勢を立て直して仕掛けるが攻撃は当たらず、形勢が変わって一方的に仕掛ける構図が完成する。

 どういう事だ? 急に動きが良くなったぞ。ルシの思考は読めない筈なのに。

 とは言え大したダメージは無く、ルシは魔力を飛ばして牽制。同時に己も仕掛け、それらをかわした様から何かを理解した。


「成る程な。未来視にて少し先の未来を見てかわしているようだ」

「早かったな。スゴい洞察力だ」

「なに。ちょっと牽制しておかしな動きがあればすぐ分かる。直感でも何でもなく、来る事が分かっているかのように避けていたからな。そこから推測は可能だ。我にテレパシーや未来視を含めた全ての能力が通じずとも、我以下であるこの世界に能力は通じる。世界の未来を見ればおのずと我の動きも読めるというものだ」

「お見事」


 未来視。それによってサイは的確に攻撃をかわしていたのか。

 上位存在であるルシに能力は効かないが、存在の格が低い世界その物には通じる。それで未来視を遂行していた。……世界の格が低いってのも変だなオイ。

 無粋と考えているのか、こういう時は思考を読んだりしないんだな。単純に戦闘を楽しんでいる。


「けど、理解されたところで俺に攻撃は当たらない」

「フム、時を止めて当てても良いが……」

「……!」


 刹那にルシはユラリと動き、サイは直後の未来を閲覧。

 懐へと迫ったルシが言葉を続ける。


「結果が分かっていたとしても、我の動きに付いてこれなければ意味無かろう」

「……ッ!」


 一挙手一投足。確かにルシは動いたが、俺達が認識する間もなくサイを吹き飛ばした。

 目で追えないのはまだ分かる。訪れる筈の未来すら追い付けない速度で仕掛けたってのか。


「なんてやつだ……魔王様のクローンからなる古代兵器。その言葉の信憑性は確かに高いな」


「クク、大した事の無い幹部を連れているのだな。此処の我は。ほれ、もう少し楽しませてみよ」


「まあ、確かに俺は幹部の中じゃ……自分でもよく分からないな。大体同じくらいの強さで、本気を出すにも疲れるからやりたくないんだ」


「フム、成る程な。一時的な出力は高められるが、色々と制限があるようだ。ならば非礼を詫びよう」


「思ったより話分かるんだな。お前」


 へえ。この世界の幹部は本気を出すにも制約があるとの事。

 確かに今見た感じだとリヒト達より強いかって言われたら悩みどころだが、本気を出せばおそらく上の次元に到達するのだろう。

 そう言う在り方でやっていっている存在。SFらしいっちゃらしいな。ちゃんとデメリットとかの設定もしている世界だ。


「ならば仕方無い。この場で貴様を終わらせるとしようか。見逃してやってもいいが、それでは支部にて待機している雑魚共が納得しないからな。乱入でもあって有耶無耶になれば仕方無いと割り切れるかもしれぬが」


「温情なのか厳しいのか分からないな。流石に此処で終わる訳にはいかない……仕方無い。十秒だけ本気を出そうか」


「ほう? 短時間に分ける事で負担を少なくするか。良かろう。やってみよ」


 やられないようにする為に本気を出すサイ。あれ? どっちが主人公?

 そんな疑問も束の間、サイの体が発光してエネルギーが集中した。留まる事の無いエネルギーは次第に体外へ漏れ、余波のみで周りの建物を粉砕していく。

 こうして見るとNo.0031。超能力者の成功例と言う文言が何を意味していたのかよく分かる。素体は人間だが、間違いなく科学技術によって改造された者のようだ。


「制限時間は十秒。仕掛ける!」

「良いぞ」


 俺に言葉が届いたのは既にけしかけた後。

 成る程。とんでもない爆発力だ。前の世界のスキルが無きゃ今の俺にはとても付いて行けない。

 通った跡は割れるように抉れており、おそらく空中にてルシとサイはせめぎ合っていた。


(成る程。悪くないパワーアップだ)

(おや、思考が聞こえるようになったな)

(この速度で会話をしては気が散ろう。思考なればかなり話せる。我と本気になった貴様ならな)

(そうか。それは良かった)


 何かを話しているのか何も話していないのかは分からないが、凄まじい速度での攻防が繰り広げられていた。

 俺からしたらただの黒天井しか見えない。


「なら、私があの子達の十秒を認識させましょうか?」

「……!? ディテまで。けどもう十秒なんてとっくに過ぎてるぞ?」

「私は神様よ? 過ぎ去った時間を追って、その間に経過する時を止める事も可能だわ。前の世界でちょっぴりだけ力を取り戻したもの」

「そ、そうか。じゃあ頼んだ」


 よく分からないが、既に終わった二人の戦闘を見せてくれるらしい。

 よく分からないのでそのまま待機する。そうすると俺の脳裏にやり取りが流れてきた。


「ハッ!」

「クク……!」


 サイがルシに拳を打ち付け、その体が遥か彼方へと吹き飛ぶ。

 複数のビル群を砕き、道路を割って突き抜けそのまま黒天井を突き破った……って、この外に出ちゃったのかよ!?


 天井の穴は即座に閉じ、ルシの後を追うサイは完全に閉じ切るよりも前に外へと飛び出した。

 周りには念動力の壁を張っており、空気は確保出来ている状態。となると此処はコロニーみたいな場所で、外は完全なる宇宙空間って訳だ。

 そのまま真空の黒い世界で攻防を繰り広げ、一つの小さな星に乗っては余波で破壊。乗っては破壊を繰り返し、小惑星帯が砂帯に変わった。

 その様な攻防を経て二人は一寸のズレも無く元居た場所へと降り立ち、最後に強い衝撃がぶつかり合って街を崩壊。世界も壊れた。が即座にディテが再生させ、何事も無かったかのように二人は向き合っていた。


 ──そして今に至る。


「ハァ……ハァ……やっぱり本気は疲れるな」

「ウム、中々良かったぞ。だが、この程度で疲弊していては後々が不安だな」

「後も何ももう無いんだろう。終わらせられる訳だからな」

「ああ、そうなるな」


 たった十秒とは思えぬ攻防を終え、疲弊したサイへルシは一歩で近寄る。

 手刀の形を作り、魔力を込めて不敵に嗤った。


「案ずるな。貴様は我の糧となる」

「……!」


 手刀が振り下ろされた瞬間、その余波は周りの地面から近場の建物を両断した。

 だがしかし、当のサイへ手刀によるダメージは無かった。


「──まさか、貴様が直々に参るとはな。この世界の我よ」

「強い気配を感じたのでな。それを貰い受けに来た」


「……っ! 魔王……!!」


 ルシの手刀を受け止めたのは──この世界の魔王。

 金属か何かの手によって受け、衝撃を全て別の場所へ流したみたいだ。だから直線上だけじゃなく枝分かれするように世界が切断された。


「クク……好都合と言えばそうかもしれぬな」

「それはどちらに対してだ?」

「同じ我なれば考えずとも分かろうて」

「クク……そうだな。どう転んでも得をするのは我よ」


 互いに静かに嗤い合い、この世界の魔王がサイを別の場所へテレポートさせた。

 本人にそんな気力は残っていなかったし、魔王が此処での力をもちいてそうさせたのだろう。


「さて、やるとしようか」

「良かろう。受けて立つ」


 互いに手を退け、一歩ずつ後退る。

 前の世界ではディテが誰よりも先に魔王城へ乗り込んだが、今回は魔王側が先手を打ってきたか。

 北の街奪還戦。それは急遽ラスボス戦へと移行した。

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