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異世界1-7 魔王城へ殴り込み

「……!」


 微睡みの中から這い上がり、ベッドの上にて俺の意識は覚醒した。

 見たことの無い天井……しかないからそれはさておく。

 さてここはどこだ。俺はテンセイだ。

 記憶を探る限りじゃ俺は異世界転生し、神様と大魔王の争いでバグった。しかも初日に魔王軍の幹部に挑み、なんとか払い除けたが意識が無くなった。うん、ちゃんと覚えているな。


「そ、そう言えば……!」


 バッ! と慌てて斬られた腕を見る。そこにはちゃんとあった。

 その後の事は分からないけど、失った腕もこの通り生えてるし治療済みか。最後の方でディテとルシの声も聞こえたし、その時に拾われたのだろう。

 ベッドから起き上がり、木の床を踏み締める。

 改めて考えると初日から怒涛だったな。転生の1日目ってのは大概怒涛とは思うが、なんかもう大変だ。


「……腹減ったな」


 ぐぅと腹の虫が音を上げる。

 思えば転生してから飲まず食わず。俺のスキル? の性質からして何も食わなくても死ななそうだけど、腹は減るんだな。いや、死んでもその場で復活するだけだから肉体自体は栄養を欲しているのか。


「と言うかここは本当にどこなんだ?」


 周りを見ればそれなりの一室。木造の床にベッドとテーブルと椅子に本棚。絵に描いたような個室。

 電気技術があまり発展していないのか、灯りになりそうなのは蝋燭の燭台とかそんな感じだな。

 取り敢えず部屋に居ても意味が無い。外に出て色々確認してみよう。街1つは消滅していたしな。様子だけなら窓から覗けば分かるけど、もう外への扉に手を掛けているから出た方が早い。

 俺はその扉を開いた。


「……!」

「む? 目覚めたか。それは良かったが、急に開けると驚くぞ」


 お風呂場の扉を!

 ……ってェ、間違えたァァァ!!!

 位置取りからしてここは普通出入口のドアだろ!? しかも何でしれっと大魔王がシャワー浴びてるんだよ!?


「失礼だな。我もシャワーくらい浴びる。汗は……まあ自在だが土汚れとかも付くからな。少し汚れたので落としている。ここのシャワーは魔力を触媒とする。小さな魔力で管を伝って水を地下から吸い上げる便利な代物だ」


「へえ……って、そんな悠長に話してる場合か!」


 そう、ルシは今裸体を晒している状態。彼女には男女としての認識が無いので堂々と仁王立ちしながら語っている。

 なのでどこに目をやっていいか分からないのだ。


「そう思いながら我の体をチラチラと見ているな。やはり下心は隠せぬか。人間というのは年中発情期と聞く。そんなに気になるなら確めてみるか?」


「んなっ!? な、ななな何を言ってるんですか大魔王が! と言うか病み上がりの俺にそんな体力……!」


「フッ、本気にしたか? 面白い奴だ」


 どうやら揶揄からかわれていたらしい。

 本気にしたかと言われても、今の状況で本気にしない方が変だろ……。くっ、下心をなるべく考えないようにしたいけどやっぱり無理だ。

 取り敢えずさっさと外に出て街の様子を確認してみよう。ディテが居ないのを考えるに外の方で復興とかさせているだろうしな。


「いや、神……ディテの奴は野暮用だ。復興の手伝いは今しがた終わらせたから街はもう何ともない」


「野暮用? それに街は直したって……俺は一体何時間寝ていたんだ……」


「三時間くらいだな」

「三時間も……って三時間!? ちょっと長い昼寝程度じゃないですか!? それで直したんですか!?」

「まあな。我が手に掛かれば容易い。まあ専門は破壊だがな」


 ディテは野暮用。そして街はほんの三時間で再興し終えたとの事。

 レベルもステータスもスキルも本来には遥かに及ばないのにこの早さとは恐れ入る。それで汚れたからシャワーを浴びていたのか。

 ……って、一向にタオルを巻いたり服を着る気配が無いな。もうほとんどガン見してしまっている。


「別に構わないだろう。見ても減るものじゃない。見てる存在の何かを奪うようなスキルの持ち主でもなければな。それはともかくとし、ディテの居場所が気になるか?」


「え? まあ、はい。動向が分からないとまた何に巻き込まれるか不安で」


「最もな意見だな」


 そう告げ、ルシは何も羽織らず俺との距離を詰め寄った。

 な、ナニをするつもりだ? まさか一線を越えるのか? 確かにシャワーを浴びるという事の意味は他にもある。俺は知らず知らずのうちにここまで大魔王の好感度を上げていたなんて……! 全く、罪な男だぜ……。


「何を勘違いしている。暇潰しに越えてやっても良いが、今回の目的はさっきの会話だ。全く嬉しくないが、我の魔力と神の力は繋がっているものでな。そこから両者が見ている事の情報も得られる。だから本体同士なら互いの居場所へ行けるのだ。お前にも今見ている景色を見せてやろうという訳だ」


「なんだ……そう言う……って、え? 越えてやっても……」

「ほら、額を出せ。人間の中枢は脳だろう。後は余計な情報を得ないよう目でも綴じていろ」

「……!」


 俺が言葉を続けるよりも前にルシは額に額をピタリと当て、魔王軍にバレない範疇の魔力を込めた。

 そこから俺の脳神経になんか色んな情報が伝達し、言われた通り閉じた目に何かしらの景色が浮かび上がってきた。


━━━━━

━━━

━━


「──それで、おめおめと帰って来た訳か。リヒトよ。無様だな」

「まあな。否定はしない。治療は終えたが、深手を負ったから帰って来たのはそうだ」


 ……! これって……!

(そう、この世界の我……分身体だ)


 魔王軍の幹部、リヒトとこの世界のルシ……じゃなくて大魔王……でもなくて魔王。

 目が悪くなりそうな程に暗い場所にて2人を含めた数人が話しており、フィクションでよく見るような集会が行われていた。

 ここが魔王軍の基地? アジト? なのは分かったけどこれがディテの見ている景色という事はつまり──


「アナタは部下に厳しいわね。もうちょっと労りの心を持ちなさいよ」

「貴様は……」

「「「………!」」」


 そこに当人が居るという事。

 魔王が反応を示し、部下達が警戒を高めて臨戦態勢に入る。

 ディテはそんな周りを見渡し、スッと通り過ぎて魔王の前に立った。


「いつの間に背後に……!」

「……見えなかった……!」

「そもそも此処が見つかるなど、何者だ此奴……」


「……。フム、うっすらと覚えているような気もするが……女の体だったか貴様」


「諸事情があってこうなってるのよ。円滑に事を進める為に油断を誘えるいい形態よこれは」


 と言うか大丈夫なのか!? 何か乗っ取られたりしてヤバイんじゃ……!

(案ずるな。乗っ取られたらマズイのは我だ。駄……ディテがやられても問題は無い。むしろ我にとっては好都合だな)

 好都合って……ルシからしたらそうなんだろうけども。


「魔王様の知り合いのようだが、穏やかな間柄では無さそうだな」

「敵なら討つけど、得たいの知れないこの者」

「ここは様子見が安定か?」

「かもね。お茶でも出す?」


「あら、お構い無く~」

「……」


 警戒はしているようだが、意外とのんきしてる。

 この4人が主体で話し合ってるから、メタ読みで魔王軍四天王みたいな存在なのだろう。実力には自信がある者達のようだ。


「それで、何の用だ? 見たところかなり弱体化しているようだな。その姿で我々に挑むつもりか?」


「「……」」

「「……」」


 その魔王の言葉と共に4人は魔力を込め、各々(おのおの)のスキルを展開させた。

 ディテは両手を広げて宥めるように話す。


「そう殺気立たないで頂戴。まだ私は一度も仕掛けていないでしょう? この世界のラスボスがどの程度か見に来たのよ」


「“まだ”……それにラスボスか。つまりいずれは我を倒しに来るという事。早いうちに敵となりうる芽は摘んでおいて損はないな。他の転生者は大した事無いが、初対面でリヒトを払い除ける仲間も居る様子。戦力を少しでも削るのは合理的だ」


「摘めるかしら?」


 魔王も力を込め、ディテはフッと消え去る。

 背後へ回り込み、魔王の耳元で囁くように話した。


「私、知ってるわよ。アナタが生まれたのはあの子のほんの僅かな魔力からという事をね。例えアナタが本体になったところで、他の世界のアナタに狩られちゃうんじゃない?」


「それでいいのか、遺言は?」


 瞬間的に爆発し、城の一角が吹き飛んだ。

 ルシを通じてディテの見る景色が視界に映っているけど、スゴいとしか言い様がないな。なんだ今の瞬間移動は。視界がグルってなったぞ。


「遺言はもっとカッコいい感じが良いわねぇ。“フッ、満足だ”とか、“楽しかったぜ”みたいな言葉とか、“ありがとう”的にお礼を言ったり、“後はお前が決めろ”的な感じで次世代に託したり、“お前は十分やったんだ”的な感じで称えたり……俗に言う名言! って感じの言葉を遺言にしたいわねぇ」


「そうか。じゃあその全てが遺言だ。良かったな」


 城から山岳地帯のような場所の上空に飛び出し、魔力の塊が撃ち出される。

 それをディテは全て見切ってかわし、時折空中で止めて反転。カウンターのように射出して相殺させた。

 その一撃一撃は山河を砕き、更に細かく砂塵とする。

 凄い戦いだ……バトル漫画の戦闘者視点ってこんな感じなんだな。VRなんかとは比べ物にならないくらいの迫力だこれ。アトラクションにしたら稼げるぞ……と、煩悩が。

 魔王は魔力を込め、それを1つの形とする。


「“魔王剣”」


 いやネーミング!

 何も間違ってはいないんだけど魔王が使うから魔王剣って……。山田さんが愛刀に山田剣って付けるようなものだぞ。

 山口さんとか千葉さんが居たら山口剣に千葉剣……まあ俺の知り合いにも県名っぽい名字に名前としての“ケン”って人は居たけど。(※実在の人物・団体とは一切関係ありません)あ、注釈ありがとうございます。


 とにかくまんまの名前剣。なんかこう、もっとネーミング無かったのか?

(悪かったな。ネーミングセンスが無くて)

 あ……そう言えばある意味本人……。ごめんなさい。

(いや別に気にしてないが……)

 スッゲェ気にしてる……悪い事思っちゃったな。話の軌道を戻そう。その魔王剣がディテに振り下ろされ、


「うーん、やっぱり今の私じゃアナタにも勝てなさそうね。そんな大きな剣で貫かれたら血が出ちゃう。実家に帰らせて頂くわ」


「いや貴様は土に還れ」


 威力は十分。ディテは避けたが振るわれた直線上にある空と山河が割れ、少し離れた場所にある海の底が見える程となった。

 弱体化した今は分が悪いと判断したディテは力を込めるが魔王は更なる追撃をする。


「“魔槍・乱”!」

「あらあら、物騒ね。先端恐怖症の身にもなってよねん」

「知るか」


 魔力からなる槍が無数に打ち込まれては紙一重でかわし、また瞬間的な移動をして耳打ちをした。


「それじゃ、サヨナラ。また会いましょう。魔王様♪」

「チッ……!」


 消え去り、直後に魔力の鞭が払われた。

 複数の山々は切り離され、その場で落ちて少しズレる。身を隠す場所なのもあって完全に崩しはしなかったようだが、とんでもない戦いを見ちゃったな。

 先ず複数の山が宙に浮かぶ光景なんて生前は見る事も無かった。と言うか俺の世界の科学力じゃ不可能だろう。

 何はともあれ、これでディテが乗り込む魔王城の一部始終を終えるのだった。

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