異世界5-13 “───”
ディテとルシが同時に仕掛け、左右から拳と足を打ち付ける。それを魔王は空間を歪めて躱し、頭上からルティアの雷が降下した。
轟音と共に雷鳴響き、辺りが砂塵で見えなくなる。
刹那にそれらは払われ、空間越しの衝撃波が3人を吹き飛ばした。しかし堪え、更に嗾ける。
「この程度か。我よ」
「その力で言われても説得力が無かろう」
ルシが蹴りを放ち、触れたのは空間の歪み。止められてしまい、魔王は目にも止まらぬ速度で打ち込んだ。
「……! 時の加速か……!」
「我だけのな」
目の前から消え去り、ルシがバラバラにされる。
瞬時にディテの方へと行き、己の時を加速させたまま回し蹴りを放って吹き飛ばした。
「見えぬなら全方位を狙うまでじゃ!」
「それについても時間を止めるまでもない」
大型ハリケーンが生み出され、周囲の瓦礫を巻き込みながら突き抜ける。魔王は“スロー”にてハリケーンの速度をゆっくりにし、己は“クイック”で加速してルティアの体を吹き飛ばした。
「よくもご主人様に……!」
「この中で一番の最弱は貴様だな。たかがメイド風情が」
ラナさんが魔力から棒状の物を取り出して振り回し、魔王も得物を魔力から作り出して応戦。
互いに鬩ぎ合うが一瞬にして魔力は砕かれ、ラナさんの体も吹き飛ば──
「その最弱に一瞬でも止められる貴様は滑稽だ。魔王よ」
「……!」
──される事なく、再生し、突進してきたルシが腹部に蹴りを打ち付けて逆に吹き飛ばした。
魔王の体は更地を転がり、大地を大きく沈めて陥没させる。
「貴様の方が一歩下がっていたな。魔王よ」
「助けてくれた事には感謝しますが……フォローはしてくれないのですね」
「む? 励ましも兼ねていたのだが……」
「身体能力なら俺よりも上ですよ。ラナさん」
「アナタは力に集中した方が……」
「あ、そうだ。けどまだ完全な隙にはなってないな……」
一応ルシなりのラナさんへのフォローだったかもしれないが、高圧的な感じがそれっぽくなくて消えてしまうな。
受け取り手がそう思うのも仕方無いか。
ともあれ、問題は魔王の隙だ。
「会話にもあまり乗って来ぬからな。駄神の奴は何もせずに吹き飛ばされて使い物にならぬし、隙を作るのも一苦労だ」
「ま、失礼しちゃう。見ての通りピンピンしてるのよ。チャンスくらいは作れるわ」
「その言葉に微塵も期待出来ぬが……まあいい。テンセイ。そろそろ準備をしておけ」
「お願いね」
「ああ、分かった」
本格的に動くつもりの様子。だったらそれに返せるのは同意のみ。
神様と大魔王に頼まれると言うのは、超ヤバイ事だろう。なんか一昔前のギャルっぽくなったな。
取り敢えずヤバイはヤバイのでヤバイなりにやるだけやってみるさ。
「ラナ。君は降り掛かる余波からテンセイとルティアを。ルティアは後方からの援護を頼む」
「前衛は私達が担うから任せたわよ」
「うむ! 任せられたぞ!」
「はい。ご主人様とついでにテンセイ様を守ります」
「俺はついでかよ。ありがたいけどさ」
各々の役割を選定。
果たして不仲のディテとルシが協力出来るのかは分からないが、任せるしかない。
丁度魔王も遠方からワープにて戻ってくる。
「我が星の反対側まで埋まっていた間に何やらまとまりを見せているが、やる事は変わらぬ……!」
「ああ、是非とも相手をしてくれ」
ディテとルシが踏み込んで駆け、目の前から消失。それ程の速度で動いたのだろう。
魔王は周囲に己しかすり抜けられない空間を展開して2人の攻撃を防ぎ、そのまま空間を押し出して引き離す。
「無駄だ。今の貴様らは宇宙を破壊する事も出来ぬ程に弱体化しておろう。我を覆う空間障壁は宇宙その物。仮にこの世界の全生物を討ち滅ぼし、相応の経験値を得たとて宇宙破壊には及ばぬぞ!」
「そうか。──宇宙を破壊する程度の攻撃で良いのだな?」
「……なに?」
一言だけ返し、再び2人は距離を詰める。
互いに入れ違いになりながら空間の防御に仕掛け、正面から、後方から、側面から、あらゆる方向から拳や足を嗾ける。
魔王の障壁は所謂絶対防御。攻略条件は宇宙破壊相当の攻撃。
成る程な。既に宇宙を含めたこの世界が滅んでいるんだ。考えている事は分かったぞ。
「洒落臭い! チマチマとダメージを蓄積したところで無意味! これは限界値の無い防壁だ! 砕く事は出来ん!」
「本当にそうかしら?」
「なに?」
「ルティア! 今だ!」
ディテとルシが正面からダブルキックを放ち、防壁に囲まれた魔王の体を押し退ける。
自分に攻撃が当たらないだけでノックバックはするみたいだな。
魔王はディテの言葉に気を取られ、ルシの言葉でルティアが行動を起こした。
「濃霧注意報じゃあ!」
「……!」
ヴァンパイアの天候を操る力。それによって濃霧を発生させる。
一気に視界が狭まり、魔王は近くの瓦礫を此方に飛ばして牽制。それをラナさんが防ぎ、俺も既に準備は完了した。
「さて、トドメの時間よ。魔王ちゃん♪」
「何をどう判断したらそうなる? 今更貴様が踏み込んできたとて、存在は無意味となろう!」
ルシはルティア達の方まで飛び退き、ディテが一歩踏み込んで魔王の懐へと迫る。
魔王は空間の壁を展開したまま濃霧を消し飛ばし、更には空間のエネルギーを手に込めた。
「あらゆる宇宙の事象を魔法とする極致からの御技。我自身は防壁によって一方的に仕掛ける事が可能となる。例え貴様であろうと、力の大半を失っている今の状態では対処出来なかろう!」
「そうね。──私なら対処出来ないわ」
「……!」
そして魔王の眼前に迫ったディテは、俺になった。
「行くぞ魔王ォ!」
「入れ替えたか!」
即座に特定されたな。
場所の入れ替えスキル。定期的に使って俺に新たなスキル(犠牲)を与えてくれたこれは、相手の戦闘レベルが高ければ一度きりしか通じない技。
なので確実にスキルを当てる為、ここで使った。
そして宣告通り、数分のうちに押し当てる。
「“───”!」
「……ッ! この……破壊力は……世界その物を……!?」
スキル名は“───”。使った本人達ですら認知していない物。
1つだけ言える事は、宇宙を容易く崩壊させる程の無限にも等しいエネルギーを秘めているという事。
本来なら使った時点で世界が消滅するが、無限空間に無限エネルギーをぶつけるのなら、上手い具合に相殺されて世界の形は保ったまま、俺と魔王だけが食らうだろう。
そして俺は、仮に宇宙が消滅しても生き返ってしまうスキルを有している。
──俺の体はバグまみれなんだ。
「これで終わりだ……魔王!」
「ぐっ……バカな……! 我が……オリジナルとなり、未来永劫多元世界に君臨し、世界の支配者となるこの我が……たかが人間如きに……! 人間如きにィィィ……!!」
「お、魔王らしい捨て台詞。種族で優劣を決めるのは良くないと思うぞ」
「黙れェェェ!! うぐああああ!!!」
叫びがそのまま悲鳴となり、無限のエネルギーが空間を消滅。
幾度目の最期に俺は、“───”に飲み込まれる魔王を確認したのだった。




