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異世界5-10 チャンスは隙

「な、なんじゃあれは……テンセイがなんかルシっぽくて魔王を圧倒しておるぞ……!?」

「そうですね。なんらかのスキルでしょうか」


 回復を終えたルティア達が我の方を見やる。

 些か距離があって此処からでは叫ばねば声は届かぬな。後で事情を説明するとしようか。

 今は魔王()へ意識を集中しよう。


「さて、やるか」


 無数の闇を生み出し、トントンという足の合図でけしかける。

 魔力は無尽蔵で魔王軍幹部そのままの力は扱える。だが、何も我の力を更に付与できない訳ではない。


「技名を言うのも悪くない。“闇操作”」

「クッ……!」


 1つ1つが大きな闇の槍。それを一纏めとし、この星ごと魔王の体を貫いた。

 しかしまあ、星を一周させているので抉れたのは表面だけ。あまり人間も巻き込んでいない。

 少しは巻き込んだのかよ!?

 案ずるな。駄神が余波くらいには備えておろう。もう止まった時間の中では無いのだからな。


「洒落臭い……!」

「当然再生はするか。まあいい。完全に動けなくし、取り込むのが目的だ」


 魔王は空間ごと闇を断ち、我のもう片方の手を吹き飛ばす。肉体を再生させながら肩で息をしていた。

 度重なる連続攻撃。流石の我も疲弊したか。此方はまだ両手を失った程度。戦況は有利だ。

 いや、息を切らすのと両腕が無くなってるのはどこからどう見ても俺達の方が不利なんだが……。

 問題無いと言っただろう。我が離れれば我は再生し、君がやられれば君も再生するのだからな。

 それに俺の意思は……。

 続きと行こう。

 無視するな!


「この程度でやられると思うでない……!」

「部下の力をこの程度とは。酷い奴だな」

「貴様がそれを言うか!」


 不可視の斬撃が無数に飛び交い、空間の裂け目からそれを読み取ってかわす。

 対し、従来の力に我の力を上乗せした空間撃にてけしかけ、空間同士の衝突が起こって辺り一帯を瞬く間に更地へ変えた。

 この方が戦い易くあろうて。


「なんだかテンセイがかなり競っておるが、わらわも仕掛けるぞ!」

「猪口才な……!」


 再生を終えたルティアが天上からいかづちを降らせ、魔王の体に落とす。

 ダメージは少ないが意識を逸らす事には成功。ほぼ同格と言って良い今の状態を思えばナイスアシストだ。


「移動術が少ないのが地味に大変だな」


 肉光変化にて亜光速となり、我の力を付与して光速へ。

 光の速度で魔王へ迫り、前方の光。後方の闇にて挟み撃ちの形を作った。


「……!」

「光と闇が合わされば強大な力となろう」


 気を取られていたのもありて一瞬の隙が生まれ、闇で包み込んだ光球を……一先ず口から射出。

 魔王は即座に空間を切り裂きて攻撃を逃れたが、それすら予測したスキルよ。


「光線を変化させ、光の檻へ。闇箒にて更に囲み、光と闇の牢獄の中は我が力を付与した超爆発の連鎖となる」


「くっ……!」


 爆風は外部に漏れず、大陸を崩壊させる爆発の何万、何億倍の爆発が無限にも等しく連続して巻き起こる。

 本来ならこんな星や近隣の星々程度容易く砕け散るが、囲う檻にも我の力を付与してあるからな。太陽系が消滅する攻撃を受けてもビクともせぬだろう。

 そしてそんな星々を無数に砕ける力が一点に集中されているのなら、最弱の我なら一堪りも無かろう。


「ほれ、コイツはおまけだ」

「……!」


 魔王の位置を把握し、ギルドカードには“分からない攻撃”と表記されたものを足で使う。まあ我は知っているが、傍から見たらよく分からぬまま檻と爆発を両断。

 次の瞬間には収束し、本来なら得体の知れぬスキルが直撃。同時に何事も無かったかのように静まり返った。


「ぐ……」

「大分弱ったの。魔王()よ。では取り込むとしよう」


 傷だらけで手足を失い再生する事もなくうつぶせに倒れる魔王を前に、我はテンセイと分離する。

 取り込む為には我自身が必要不可欠だからな。これでようやく力の一部を取り戻せるというもの。それでも微々たる差だが、上々だろう。


「我は……我には勝てなかったのか……」

「最初から分かり切っていた事だろう。所詮は分身。その中でも最弱。故に貴様は敗れたのだ」

「そうか……だからこそ我は……」


 意識が戻ると、俺には激痛が走った。

 両手が失われているのだから当たり前だ。けどルシの様子を見る限りどうやら勝てたみたいだな。

 それは良かった……俺は意識が飛びそうだけど……。

 ルシは魔王に向けて勝ち誇る。


「だから貴様は我へと還元される。悪くないぞ。自我が無くなるだけで本来の性格も変わらぬ。すなわち何も変わらない。平行線が一瞬交わったのち、また新たな平行線となるだけだ」


「だから我は──」

「我が肉体に戻る」


 うつむき、項垂れる魔王にルシが目線を合わせて触れようとした瞬間、


「勝利を掴み取れたのだな」

「……!?」


 ──刹那、ルシの足元から魔王の手が伸びた。

 それは失われた筈の魔王の手。そう、魔王は失ったのではなくわざと切り離し、地中に潜ませてこの時を待っていたのだ。

 とんでもない芸当だが、魔王だからこそ可能にした事柄か……!


「テンセイ……!」

「ああ……! けど俺は動けないぞ……!?」

「くっ……そうか。先の蓄積ダメージが……!」


 ルシが再び憑依しようと手を伸ばすが、生憎あいにく俺に手は無く走る激痛のみが残っている。

 故にルシは魔力を伸ばして抵抗するが、空間による障壁によってはばまれた。


「確かにそうだな。勝てる少し前なら相手の油断がピークに達する。御託を述べているうちに準備は整った」


「やれやれ……我の敗北という事か」

「それには乗らぬぞ。我は一度敗れ掛けた身、貴様と違って油断はせぬ」

「クク……余計な知恵を付けおってからに……!」


 忍ばせた魔力も空間ごと抑え込まれ、何も出来なくなる。

 空間がルシの体へ纏い、その身を拘束する。完全に身動きが取れなくなり、魔王は嗤った。


「我はようやく本体となれる……!」


 次に目にした光景はルシの体へ魔王が触れ、口付けを交わしたところ。自分同士のキスってなんか気持ち悪いな。ルシと魔王は美形だから傍から見た目の保養には良いけど。

 しかしそれによってルシは魔王へと取り込まれ、消え去った手足も再生する。

 そして俺の意識も遠退いた。

 悪い意味で緊張が取れたか……こりゃ死ぬな。けどまあ、生き返れば良いか。

 そんな俺に掛かる声。


「さて、ルシちゃんが取り込まれてしまったわね。次陣と行きましょうか。テンセイちゃん」

「……! ディテ……!」


 俺の動かなかった体は完治し、見た目は白髪美人の顔が映り込む。

 ホント、見た目は最高クラスなんだよな。本来の姿を見てるからあれだけど。

 と言うか、


「一応時間は動いていたけど、ディテからは何のサポートも無かったな……」


「不可抗力よ。ルシちゃんと魔王(あの子)は全世界の人々や動物なんて気に掛けないし、全世界に守護壁を張っていたの。そして横槍入れると私が怒鳴られるもの。手助けなんて出来ないでしょ?」


「た、確かに……」


 ぐうの音も出ない正論。

 ルシは俺に気を掛けてくれて、なぜか俺を気に入ってるらしいので良くも悪くもフランクに接してくれるが、大魔王と言うだけあって本来の性格は粗野で横暴。例え負け掛けていてもディテが参加する事なんて望んじゃいない。

 今の状況はルシ自身が引き起こしてしまった事態か。


「けど、仮に魔王を倒したってルシが戻って来る事はないよな? 取り込まれちゃったし」


「その点については大丈夫よ。あの子が本体なのは変わらないもの。ある程度ダメージを与え、魔王の意思が薄まれば自我を取り戻した後、取り込んだ状態で戻って来るわ」


「どういう理屈なんだよ……」

「神様も大魔王も理屈じゃないのよ。そうなるからそうなる。それだけなんだもの」


 どうやら本体であるルシは取り込まれてもなお、ある程度の条件次第で戻って来るようだ。

 よく分からない理論だが、それに適合性は無く、そうなる事が真理との事。

 やっぱり俺達人間の領域じゃ分からないな。

 力を取り込んだ魔王は此方を見た。


「貴様か。神よ。丁度良い……あの時は取り逃がしてしまったからな。此処で諸々にケリを付ける。今後は我の力を以てして平行世界の我も取り込み、完全なる大魔王としと貴様の代わりに君臨してやろう」


「あら、それは素敵な考えね。ルシちゃんと全く一緒!」


「我同士なのだから当然だろう。全ての我が同じ考えだ……!」


 大幅に増幅した魔力を展開し、既に更地となった元山岳地帯を大きく揺らす。

 魔力を感じ取れない俺でも分かるこの威圧感……。取り込んだので凄まじい事になったようだ。もはや俺の語彙力じゃ表す事が出来ない。

 俺達と魔王の戦闘。それはディテの本格参戦と共に最終局面へと踏み込んだ。

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