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異世界5-8 魔王の魔法

「力が衰えている今、わざわざ貴様らの領地で戦わなくとも良いな」


 そう告げ、空間からの直接的な攻撃が全方位から放たれた。

 それをディテが守護術にて防ぎ、ルシが魔王の眼前へ行く。


「悪いが此方側に有利な方へ引き込ませて貰う」

「断る」


 拳を打ち込み、風圧で下方に大穴が空く。そこから溶岩が噴き出した。

 マントルや核に到達する風圧は当たり前か。しかし魔王はワープによる瞬間移動で避けたみたいだな。


「有利を取れるなら取らぬ手は無かろうて」

「そうだな。我もそうする」


 自分の周りを歪め、如何なる攻撃も通らぬ場とする。されど己は一方的に仕掛ける事が出来るやり方。

 正直ズルいが、それについては何も出来ない俺達が悪いか。何かしら精神に干渉出来るスキルは無いか……これなら効くか?


「──!」

「……!」


 “遠吠え”を使い、魔王の動きを止めてみる。

 サウンドウルフを前にした時、ディテとルシは倒れなかったが動きもしなかった。なのでもしかしたらの可能性を考えて音波を放ったのだ。

 効いたか効いていないかは分からないままだが、何もしないよりはマシだろう。


「フッ、ナイスだ。テンセイ」

「しまっ……!」


 ルシが飛び出し、魔王の頬を殴り抜く。

 その体は勢いよく飛ばされ、溶岩が埋め尽くす下方へと飛び去った。

 それによって一応は液体みたいな溶岩が盛り上がり、火花を散らして浮き上がる。

 溶岩ではダメージもないだろうが、ルシの一撃はデカイ筈だ。

 そしてすぐに溶岩の中から飛び出してくる。


「まさか0.000000000000000000000001秒もの隙を作ってしまうとはな……! 油断した……!」


 いや、もう訳分からねえよ!?

 なんだそのテキトーに文字を打ち込んだみたいな秒数は!? もはやそれって効いてるのか!?

 確かなダメージは与えられたみたいだけど、秒って言っただけでどれくらい経ったのか分かりゃしない!


「少し本気を出した今は魔法を放つ時でも0.0000000000000000000000001秒で済むが、0.000000000000000000000001程度では隙になってしまうな」


「フッ、0.000000000000000000000001。今の我でギリギリの隙だ。鈍ったものだな。本来なら秒数など経過せず、なんなら0秒よりも遥かに早く動けたと言うに」


「だからこそ0.000000000000000000000001秒の……」


「待て待て待て待て! ゲシュタルト崩壊起こすってそれ! 魔法と放つ時と今の隙が何秒変わったのかも分からないよ!!」


「何を言っているテンセイ。0が1つ多いぞ」

「どっちの!?」

「魔法の方だ」

「そうかよ!」


 言ったもん勝ちの何でもありの戦い。改めて元一般人の俺じゃ到底理解不能だ。

 取り敢えずサポートの意味はあったみたいだから続けるか。


「優秀な仲間だ。我が気に入るのも分かる」

「そうだろう。一々大袈裟にツッコミを入れるから飽きぬのだ」

「面白そうだ。今度我にも貸してくれ」

「我と融合すればずっと遊べるぞ」

「それは困る。思考回路はほぼ同じだが、我の自我が無くなってしまうからな」


 なんかまた物騒な事を話してるよこの魔王共。

 トコトン遊びや暇潰しとしてしか人間を見ていないらしい。……“し”が多いな。

 ともかく、仮に決着が付いたら俺はまた苦労してしまうかもしれない。


わらわもやるぞーっ!」

「ヴァンパイア風情が面倒だな」


 そんな会話のやり取りの最中、ルティアが念力のような力で溶岩を操り、魔王目掛けてぶっぱなした。

 魔王は片手で仰ぐだけで消し去り、ルティアの体をバラバラにする。


「なぬ……!」

「おや? 不死身でも死ぬ魔法を付与したつもりだが……いや、神の加護(邪魔)が入ったか」


 どうやらディテの守護によってルティアは助かったみたいだ。

 不死身を殺める事も容易く遂行する。これ程の力があるのになぜ攻めあぐねて世界を支配してなかったんだこの魔王は……。

 少なくとも俺を含めて俺が見てきたどの転生者や敵よりも遥かに高次元の存在だぞ。


(単純な話だ。皆殺しにしては暇潰しも減る。加え、より多くの者を同時に始末した方がスッキリして気持ちいい。だから世界の人間の大半は生かしていたんだ)


 マジかよ……。なんて悪趣味な奴だ……!

(悪かったな。悪趣味で)

 実際ルシもそんな感じの考えなんだろ? 人間的観点から見れば悪趣味だよ。

(だろうな。理解している。だからこそ生き物を殺めるのは心地好いのだ)

 魔王みたいな事言ってるな……。

(元々大魔王だ。何も間違っちゃいない)


 色々と厄介な思考だ。けどそれが生業なりわいみたいなもの。

 今はただ償いも兼ねた同行だろうけど、俺に対して好意的に思っているなら止めて欲しいものだ。


(むう、この我では嫌か。嫌がる者を無理矢理というのも快楽だが、考えておこう)

 それ絶対考えてないやつ!


 何はともあれ、今の脳内会話が行われている最中にもルシと魔王の立ち合いは続いていた。

 空間ごと何度も世界を断ち、それをかわしてはけしかける。

 迫るルシへ放たれる空間攻撃を紙一重で躱し、その回避すら織り込み済みのカウンターを叩き込む。

 拳が肉を潰し骨を砕き、半身や腕を消し飛ばしては再生する。それが幾度も繰り返された。まるで予定調和のように無数の攻防が交錯していく。


「これでは千日手だな」

「元よりそうだろうて」

「ずっとキリがないな」

「なれば、どうする?」

「やる事は変わらぬよ」


 また一糸乱れぬ淡々とした掛け合いが行われ、魔王は次元を断つ。

 当然のようにルシは避け、更なる魔力が込められていた。


「次の技を使おう」

「ついに使ったか」


「……! な……!?」


 瞬間、動いた軌跡すら見えずルシの体が刻まれた。

 今までも目では追えない速度でやられたりした事もあったが、今回は勝手が違う。まるで全ての景色や記憶が飛んだと思うような感覚に陥ったのだ。


「……と言うかこの感じ、色んな漫画やアニメで見た感覚だぞ……!」

「知っておるのか? テンセイ」

「ああ……多分だけど、こう言う全ての場面が飛んだみたいな感覚は“時飛ばし”とか“時間停止”とかそう言った力によるモノの事が多い……!」

「時飛ばしに時間停止じゃと!? なんじゃそれは……!?」

「うーん、説明しろと言われると難しいな。今まで見てきた作品の説明を借りるか。時間魔法ってのは──」


 あくまで俺の予想の範疇は越えない。

 しかし何がなんだか理解出来ない力であり、魔王のようなラスボス級の存在が使えるとなると、このイメージからなる世界なら可能性は高い。

 ルティアに聞かれたので時間停止や時飛ばしについて説明した。

 自分以外の全てが止まるとか簡単な説明だけど、分かってくれたかな。


「──てな感じで、自分だけの世界を自由に動き回れる力の事だ」

「その様な力が存在するとは……!」

「成る程。“自分の空間を自由に動ける”という部分があるので呼吸困難などの事態には陥らないのですか」


 分かってくれたようだ。それは何より。

 先人の作者の方々は偉大だな。お陰で初見殺しの力を迅速に理解出来た。

 ……理解したところで対処のしようがないけれど。


「フム、そちらの転生者はもう分かってしまったか。貴様が助言していたのか?」

「我な訳無かろう。粉々になった体を修復するので時間を取ってしまったからな。そんな猶予は無かった」


 そして2人の会話から疑惑は確信へと変わる。

 マジで時間停止だったか。空間操作に時間停止。異能力バトル作品のラスボスの詰め合わせって感じだ。


(厳密に言えば時間停止だけではないな。停止もクイックもスローも含めた時空間操作。それが我の力だ)


 思考を読んだルシから詳しい説明が入る。

 詰め合わせどころか全てだったか。どちらにせよ俺にはどうしようもない力だな。

 魔王は再び動き出す。


「まあいい。知られた所でどうしようもないのだからな。我の言う“時間”とは我が認知しているもの。仮に時間や空間の概念が無い世界や存在が相手だとしても、我の存在する時間と空間はそのまま。全てに干渉出来る」


 またよく分からない説明が入ったけど、取り敢えずどんな場所でもどんな相手でも時空間の干渉が可能って事だな。

 時間停止系は強過ぎるからこそ作者の匙加減で様々な弱点が付けられるものだけど、その全てが魔王には無意味と来た。

 改めて規格外。この魔王がルシの分身体では最弱ってマジかよ。これが終わった後の世界が怖すぎるんだが。


「続けるとしよう。愚かな挑戦者達よ」

「そんなキャラだったか?」

「魔王足る者、雰囲気作りは大事だろう」


 両手を広げ、改めて宣戦布告をする。

 とは言え能力の詳細はほとんど出たか。

 現状対処不能だけど、全ての可能性をアリにするディテとルシが居るからな。希望はまだある。

 俺達と魔王の戦闘。少なくとも魔王の能力は大凡おおよそ把握した。魔王の攻略がカタツムリ並みのペースでも進めて行こう。俺には永遠にチャンスがあるんだ。

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