異世界1-6 これが俺のスキル
「………」
「………」
さて、どうするか。
死なないと分かって相手も俺の出方を窺っているが、俺に対抗手段は無し。当たりか外れかも分からない謎のスキル2つが関の山。
この状況、打開策が思い付かない。俺はとことん主人公に向かないタイプの人間だ。異世界転生の主人公って基本的に自信満々で実力も伴ってるもんな。引きこもっていたりあまり人と話していないと言いながら初対面の異世界人とバンバン会話しているし、素直にスゲェと思う。
取り敢えず今出来る行動は……。
「あ、あそこにUFO!」
「ユーフォー? 何を言っている。魔物の名か?」
「……」
はいはいはいはい。なるほどね。確かにそうだ。そりゃそうだ。UFOなんて言葉、異世界人に通じる訳が無い。
不特定多数のイメージが具現化したような世界とは言え、SF異世界って少ないし結び付かないか。
こうなったらやっぱりやるべき事は1つ。謎のスキルに掛ける。
「……。…………」
「……?」
スキルってどうやって使うんだ?
なんかこう言うのって自然と頭の中にスキルのイメージが思い浮かぶような気がするけど、生まれた瞬間からバグっていた俺に使い方のチュートリアルは無い。
ギルドカードから選択? 流石に時間が掛かり過ぎる。キリも幹部もスキルと思しき力をそのまんま使っていたけど、こう言うのって呪文的なの必要だよな?
異世界によって詠唱が必要か不必要か様々だが、取り敢えず呪文さえ分かれば出し得。その上で呪文も何も分からないので出せない。
せめてスキルを確認する時間があれば……。
「来ないならば此方から行くぞ」
「……!」
また光球が生み出され、俺の体は飲み込まれた。
そう言えば幹部は無詠唱で撃ってるな。感覚が掴めればそれも遂行可能になるのか?
「やはり死なぬか。良し、連れ去るとしよう。良い実験台だ」
「……っ」
取り敢えず形だけでもさせなきゃ。参考にするのはキリと幹部。今のところスキルの使用を見たのがこの2人。
えーと、手を突き出して……なんか力を込める。込めるイメージは、筋肉に力を入れるような感覚か? 杖を使うやり方か素手でやる方法か。俺が選ぶのはひとまず見様見真似だ。
「なんか出ろ!」
「……!」
瞬間、俺の手が何か熱くなるのを感じた。
これが多分魔力の流れ。こんな感じなのか。感覚で言えば手汗にも近いかもな。意識すれば気付くけど、別に気にしなければ何ともない。
だが体内から体外へ放出するこの感じはまさしく魔法……いや、魔術か? 取り敢えず元居た世界では出せないものだ。
俺の魔力か何か、謎の力は次第に球を形成し、幹部目掛けて突き進んだ。
「……! その力……!」
「……?」
思い当たる節がある様子の幹部。俺が放ったのは光球であり、幹部は同じく光球で相殺させた。
……って、流石にこれは俺にも分かったぞ。今の俺のスキル……魔法? は……。
「俺と同じようなスキルを使えるのか? しかも威力も殆ど同じモノ。お前のスキルは模倣か?」
「いや、どうだろう……」
正直なところよく分からない。当たり前だろう。さっきまで……ステータス鑑定まで何もかもが分からなかったのだ。
スキルが増えたのがいつなのかも分からない。確かに最初はスキルが0だった。
けど分かる事が1つ。
「アナタのスキルと同じモノなら、確かなダメージは与えられそうだな」
「そうだな。此処まで同じとは恐れ入った。どういう訳かは存ぜぬが、俺と同じ光弾だ」
本人からの確認も取れた。まず間違いなく同じ力。
どうやって出したのかは今でもよく掴めないが、戦えはする。
「えーと……ここをこうやって……」
「遅い」
「ぐへぁ!?」
力を込めようとした直後、先に仕掛けられ俺の体はまた消し飛んだ。
なぜか生きているが、痛みがない訳じゃない。普通に熱いし痛い。マジで。
けど対抗手段ではあるんだ。今度こそ……!
「……フム、驚いたが……お前自身が普通に弱いな」
「ぐはっ! うげっ! ぐえー!」
連射されるような無数の光弾によって俺の体は幾度となく破壊と再生を繰り返す。
目もチカチカしてきた。そりゃこの眩しさだもん当然だ。
対抗手段があっても素の技量と身体能力の差。熟練の差で圧倒的に及ばない。
「だったら単純。心が折れるまで殺し続けよう」
「……っ」
それならこっちにも考えはある。俺の心よりも相手の心を先に折れば諦めてくれる。
相手の魔力だって無尽蔵じゃないんだ。動ける生存者が他の生存者を逃がすまでの時間を稼げれば良い。
「細胞1つ残らず消し去った上でこの有り様か。再生とは違うな。上手い言葉を表す事が出来ない。死んで生き返っている……それもまた違う。全てを消し去っているのだからな。まるで細胞全てが再構成されているような、そんな感覚だ」
「マジですか。スゴいですね俺の体」
「ああ、スゴいなお前の体。どうやったんだ? お前が死人じゃないならそう言うスキルか?」
「どうでしょうね」
撃たれ続けて数十分。幹部が俺を見て話す。
よく分からないが、普通の再生とか蘇生よりなんかスゴい力のようだ。
これはバグった事による恩恵か? はたまた弊害か? どんな力であってもそれなりに役立ちそうなスキル。とは言え、一方的に嬲られるだけの現状を打開する策は無く時間のみが過ぎていく。
「……そしてお前は足止めをしているつもりかもしれないが、既に部下達が街を探し回っている。匿おうとしているのならオススメはしない」
「……」
そう、それが問題。
明らかに弱者の俺が敵の最強を止められているのは良い。だが向こうには数が居る。なので捜索は変わらず続いている。
あの2人が見つかる事はないとは言え、心配なのは生存者が居た場合どうなるか。見逃されるか殺されてしまうのか。その事が不安でならない。
そこへ、捜査をしていた兵士の1人が駆け付けてきた。
「ほ、報告します!」
「どうした。見つかったか?」
「いえ、目的の存在は見つかりませんが……回りくどいのは無し。率直に申すと誰1人として死者が居ませんでした!」
「なんだと? どういう事だ」
「はい。実は──」
「……!」
誰も死んでいない。街がこの有り様でか!?
それはスゴくいいニュース。だけど一体……。
(当然、私が光を見た瞬間に防御を張ったのよ)
……!? この声、神!
(あら、もう神様とは呼んでくれないのね。さっきの態度で失望したのかしら?)
うっ……それは……まあ、はい。人を簡単に見捨てて、なんて白状な駄神だと思いました。
(知ってるわ。モノローグに出ていない心の声も聞こえるもの)
全部お見通し。そりゃそうか。全ての世界の最上位に立つ存在だもんな。だからこそ見捨てるとも勘繰ったんだが。
(失敬しちゃうわね。ちゃんと慈愛の心は持ち合わせているわ。そもそも私達が原因でこうなってしまったのだもの。姿は見せられないけどね)
曰く、自分の責任はちゃんと自分で取るらしい。
=自分が関係無い争いは止めないという事になるが、戦争を起こすのは知的生命体の勝手だから干渉しないのも当然か。
(そう言う事。一先ず今は目の前の敵に集中なさい。あの子、今の私とルシよりやや上回っているわ。まともにやったら勝てない相手よ)
まあそうですよね。魔王軍の幹部。ゲーム的に考えて、レベルで言えば50~60はありそうですもん。
仮にレベルの上限が99の場合、数値的に2000が最大なら3桁以上は確定。どう考えても序盤に当たっていい敵じゃない。
けど決定打が無いしどうすれば……。
(攻めあぐねている……というより攻められていない感じね。アナタよく生きてるわね)
いや多分死にましたよ。何度も。だけどステータスがバグっているからか、何度死んでもその場で蘇るんです。
あ、それとなんか知らないうちにスキルも2つ入手してましたよ。
(何度も死んでスキルを入手? 確かに変な感じね。死んだらスキルを手に入れられるスキルとかかしら?)
さあ、どうでしょう。もしかしたらそうかもしれませんね。
実際、現時点でそうなっている訳ですし。けど、変なのが最初に死んだ時だけ相手と同じスキルを覚えてそれ以降は音沙汰無い事ですね。
(最初に死んで同じスキルを……ねえ。もしかして、自分を殺した能力を覚えた状態で生き返るのがアナタのスキルじゃないかしら?)
……! 確かに考えてみたらそうだ。相手が俺を殺したのは何れも光球。それなら最初以降何も覚えられないのに合点がいく。
そうなったら1つ目のスキルは……?
考えていると報告が終わったのか、幹部は再び俺へと向き直る。
「待っていてくれたか。どうやら俺達が探している存在の可能性が再び浮上したようだ。なので貴様は連行する」
「……!」
そ、そうだった! 悠長にディテと話すんじゃなく、相手が部下と話しているうちに俺自身が避難するか逃げるかすれば良かったーっ!
完全にミスった。取り返しの付かないミスだ。話さえしなければ……!
(あら、私のせい? 失礼しちゃう)
さて、囲碁や将棋で言うところの詰み。チェックメイト。それが現状の在り方。
それを踏まえた上で俺が出来る最善の行動は……。俺のスキル? を試してみるか?
何の成果も得られないまま終わるよりはちょっと確かめてみたい。
「連行するよりも前に、他のスキルを試してみたらどうだ? 見たところアンタは光球でのみ仕掛けていた。他のスキルなら効く可能性もあるだろ?」
「何故それをわざわざ言う? 何か企んでいるのか?」
当然の反応。模範解答過ぎて逆にスゴい。
さて、この場合は更なる挑発を加えるのが良いのだろうか。どんなセリフがいいかな。
「うるせー! やってみろ!」……なんか一番無難。
「お前のスキルなんか全部効かないって事だよ」……うん、悪くない。
「物は試しだ。やるだけやってみろ」……自殺志願者?
他には特に思い付かないし、この中から選んでみるか。いや、いっその事全部混ぜるか。
「うるせー! お前のスキルなんか全然効かないもんね! 勘違いせずにやってみろ!」
「あ?」
メチャクチャになったー!?
勘違いどこからやって来た!? 勘違いしてるのは俺だよ!
くっ、つい脳内に謎のツンデレが住んでしまった。影も形も無かったのになぜ湧いた……。
考えられる線だと「全部効かない」変換「全然効かないもんね」……もんね=ツンデレ。と言う数学者が見たら卒倒しそうな脳内方程式が生まれてしまったと言うのか。
こんなんで相手が乗る訳……。
「良い度胸だ。だったら確めてやる」
つ、つつつ通じたー!?
やっぱあれか。武人タイプの敵キャラだからどんな挑発でも大抵は乗ってくれるのか!
これは良い蛍光灯。もとい傾向だ。
幹部は魔力を込め、臨戦態勢に入った。
「球体で駄目なら、また別の形で仕掛けるとしよう。──“光剣”……!」
「光の剣……!」
遠距離特化の光弾ではなく、近距離向きの光の剣。
ビームサーベル……じゃないな。ライトニングソードと言ったところか。
(なぜ英語に変換させた?)
大魔王ルシ!(何故フルで呼ぶ)……そうか。当然君も話しかけられるな。これはあれだよ。なんか英語に直すとそれっぽくなるし。
(出たな。その感じ。お前達日本人は取り敢えず英語に直せば良いと考えている。ネームなら他国の言葉を多様しているしな)
良いじゃないか。カッコいいは正義だよ。異世界に来てバリバリの日本名はなんか変だろ? やっぱり来たって実感が欲しいんだ!
(よく分からないが……斬られるぞ)
え?
「……」
「……ッ!」
幹部が踏み込み、俺の体を縦にバッサリいった。
痛い。超絶痛い。死ぬ程痛い、文字通り。
光球で消滅させられるのは現実味が無くてよく分からないまま死んだが、斬られるって言うのは想像出来るからかスゴく痛い。
斬られた感覚で言えば目の前の景色が縦に割れたな。遠隔で見ているような、初めての体験だから上手く表現出来ないけど、取り敢えず不思議な感じだ。
次の瞬間には意識が途絶え、
《認証しました。新たなスキルを登録します》
例の定型文が表れた。
“聞こえた”と言うよりは“表れた”と言う表現が近い。別に目に見えている訳でもない。だけどそんな気がする。これでスキルに確信が加わった。
そして俺は再び舞い戻り、切り下ろした態勢のままの幹部が目の前に。瞬時に切り上げられ、今度は右手が飛んだ。
「……ッ! うがあァァァ!」
「フム、両断した時は再生したが、片腕を斬った時はしないか。このやり方なら心を折れそうだ」
しくった。ミスった……。痛い、辛い、苦しい。ダメだ痛過ぎて思考が回らない。
迂闊だった。そりゃそうだ……殺しても死なないなら殺さない程度に痛め付けるのが定石。今までは光球で完全消滅だったからなんとかなったけど、じわりじわりと攻められる剣が相手じゃそうはいかない。
もう嫌だ……。痛いよぉ……。
(んもう、情けないわね。ほら、痛みを少し和らげてあげるわ)
「……!」
「……?」
ディテの声が聞こえ、俺の腕の痛みが和らぐ。痛み自体はあるが、泣き叫びたい程の激痛からまだ痩せ我慢出来る程度のモノとなった。
和らいだ事は幹部に気付かれていない。だったらこのまま痛がるフリ(※ガチで痛い)をして……って、注釈付けなくて良いですから。
(あら、お節介だったかしら?)はい。
取り敢えずなるべく隙を狙ってみる。
「痛いよぉ……」
「後は足を斬り落とし、連れ帰るとするか」
フリをするとは言え、マジで痛いんでぶっちゃけフリじゃない。踞って歯を食い縛り、魔王軍の幹部は再び光の剣を生み出して掲げた。
「良い実験台になるだろう」
「……」
無事な片手に力を込めて見様見真似で……!
「……ッ!?」
「やったぞ! 成功し……た……ぞ……」
片手から光の剣が突き出され、幹部の腹部を貫いた。韻を踏んでるな。
……成功したはいいけどこの肉を貫く感覚……あまり好みじゃないな……。生々しくて嫌だ。
剣や刀を使う作品の主人公達は何の抵抗も無くこの感覚を味わっているのか……。よく鬱にならないな。精神崩壊してもおかしくないぞ……。
【……貴様……俺のスキルを……!】
【フッ、拝借させて貰った。便利なスキルだ──
──よし、これで行こう。
この嫌な感覚を忘れる為には余裕がある風にして冷静に対処だ。
落ち着け俺。頑張れ俺。まだ生きてるし、まだ未遂だ。よくある主人公っぽく格好付けて、
「……貴様……俺のスキルを……!」
「フ……あ、と。は、はは拝借! 便利だ!」
「刺した方が動揺してどうする……」
全部すっ飛んだ。ダメだコリャ。痛みと刺した事実で声が震える。
こーゆー事だよなぁ。決められる主人公と決められないモブの差って……。
言ーか、主人公達ってよくもまあ、あんな名言がスラスラ出てくるな。予め示し合わせてるのかってくらい決めてくるもん。あんなのアドリブじゃムリだって。
こうなったらなんか有名な名言をパクるか? 異世界に俺の世界の名言知ってる人なんか同じ転生者以外に居ないし。
「チッ……傷が深いな……俺の剣その物だ……ここは引く。また再び相見えよう」
「あ……」
突き刺さった剣を抜き、幹部は部下に連れられてこの場から立ち去る。
負傷しているのに狙われないって本当に部下から慕われてるな。なんか敵の組織的なのって隙あらば寝首を掻こうって奴が多い印象だ。
去る直前に1人で向き直り、幹部は言葉を発した。
「我が名は“リヒト”。お前は面白い。我が好敵手に認定してやろう」
「え……」
俺が言葉を返すよりも前にリヒトは消え去る。どうやらライバル認定されたらしい。って、魔王軍の幹部に目を付けられたって事だから決して良い傾向ではないよな……。
その思考も束の間、和らいでいた痛みがまた再発し、立っていられなくなった。
包帯でも巻いて右手が疼く……的な一発ネタをやる余裕も無く意識を失う。まだ死んではいないな。
「やるじゃない。私の助言があったとは言え魔王軍の幹部を払い除けるなんて」
「貴様は何もしていないだろう。今回はテンセイの功績だ」
最後にディテとルシの声が聞こえ、俺の意識は遠退いた。
所有スキル
・───
・光球
・光剣