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異世界5-2 傷痕

 ──“2日後”。


 滅びた街を後にし、更に2日が経過していた。

 元々この辺りは人も少ないのか、あの街以降にそう言った場所は見当たらない。かなりの大きさだったし、それなりの都市が滅ぼされたんだなと改めて思う。


『グルル……』

『カロロ……』


「また魔物だ……!」


 そして、魔王が放ったのか関係無いのか、積極的に襲って来る魔物の数が増えたような気がする。なんなら定期的に人の死体があったりと中々にキツイ光景が広がっていた。

 そんな事を考える間に魔物達は踏み込み、俺達目掛けて飛び掛かった。


「丁度良い。今夜は此奴らでいいだろう」

「マジか。背に腹は代えられないけどさ」


 飛び掛かった魔物はルシが迅速に頭をねて制圧。血抜きをし、可食部(・・・)を分けた。

 ……そう、2日前に寄った街ではなんの食料も得られなかった。その前の街で集めた食料も既に底を尽きており、現れる魔物の不味い肉を食しながら来ているのだ。

 元々食べないディテ。どちらでもいいルシや主食がそんな感じのルティアは問題無いが、俺は中々あれだ。しかも魔物の血肉には微量の毒が含まれているらしいし、転がっている人の死体を食った個体なのかと考えたり1食が苦痛である。

 餓死しても多分生き返ると思うが、腹が減るので食わざるを得ないのだ。


「それじゃあ頼んだぞラナ!」

「はい。ご主人様」


 食事担当はラナさん。

 なので味付けなどは完璧なのだが、その腕を以てしても不味さは緩和されない。

 魔物の持つ毒の影響か、神経に直接刺さる味なので調味料ではどうしようもないのだ。

 けど食べられる段階まで持っていけている時点で料理の腕は俺の世界に居たどんな一流シェフより遥かに上だろう。


「この辺りには川が流れているな。今日の拠点はここでいいか」

「随分とのんびりした歩みだが、それでいいのか?」

「まあなるべく早く動かなきゃ他の街が大変だけど、ディテとルシのレベルに関係しているだろ? 確実に勝てるようにならなきゃな」

「もうそろそろその段階に達していると思うが、なんせ我……魔王だからな。いくら用心しても物足りないくらいだ」


 相変わらず自分への評価はかなり高い。それに見合った実力を確かに秘めているのだから何も言えない。

 ともあれ、その不安があるのでガンガンいこうぜとはいかないのだ。別にいのちだいじにでもないけど。


「では食事の準備に取り掛かります。2日の味わいを鑑み、テンセイさんにも合うような物を試みましょう」


「気付いていましたか。ラナさん」

「ええ。食事のたびにしかめるので」

「ハハハ、すみません」


 どうやら魔物料理が俺の口に合っていない事は気付かれていたらしい。まあ露骨に反応してるもんな、俺。

 しかし神経に直接来る味をどうするのか。


「おそらくこの味、舌に魔物本体の魔力が流れ、味覚を刺激する事で脳へ影響を及ぼしているのでしょう。即ち微細な魔力を流しながら調理すれば魔力が分解されて味が整い、転生者からなる人間の口にも合うようになります。加え、仮に人を食した個体だとしても行き渡る栄養素の道なり。及び触れた位置をおもんみてもテンセイ様が食している部分は問題ありません」


 よく分からないが、魔力が影響して不味くなっているとの事。そして少なくとも俺が食べている箇所はちゃんと気を遣ってくれていたみたいだ。

 ラナさんは魔力を流し込んで刃物を刺す。

 炎魔法で焚き火をつけ、肉を焼いていく。鉄の鍋的な物も魔法から作れるので煮詰める事も可能だ。

 魔法って便利だな。


「完成致しました。テンセイ様。如何でしょう」


 コトッと魔物の肉料理が置かれ、俺は口にする。

 既にルティアは美味そうに食べているが、それは元々。多分ヴァンパイアには魔力を分解する器官が備わっているのだろう。

 今現在、この味がどうなっているか。問題はそこだ。

 肉を噛み切り、ゆっくりと味わって食す。


「おお、美味い……。美味いぞラナさん!」

「それは良かった」


 思わず感動で大声を出してしまった。

 しかし本当に美味だ。元々一流以上の料理の腕を持つ彼女。魔力による味の阻害が無いならもう満点を越えている。

 もしや長旅には万能なメイドさんが一番良いのかもしれない。

 美味しく食事を摂り、満足したところで、


『『『GUGAAAAA!!!』』』

「……!」


 複数匹の魔物が飛び出してきた。

 食べ物の匂いか何かに釣られて出てきたか。

 おそらく魔王が解き放った奴等の残党。常に腹ペコって訳だ。


「ナイスタイミングではないか。食後の運動にピッタリだ」


 骨を投げ捨て、立ち上がって臨戦態勢に入るルシ。既に投げ捨てられた骨が脳天を貫き1匹は絶命している。

 食後の運動ったって食べてすぐは脇腹が痛くなるだろうに。いや、大魔王にそう言う概念は無いのかもしれない。

 飛び掛かった魔物はと言うと、


「明日の朝食にでもしよう」

『『──』』


 瞬殺だった。

 手刀にて血抜きを終え、内臓の処理も完了した。


わたはルティアの眷属達に与えよう。抜き立てで新鮮だから喜んで食う筈だ」


『『『がおー♪』』』

「おお、本当に嬉しそうだぞ。そうじゃな。せっかくだし食っていいぞー!」


 ルティアの言葉と共にここまで付き添っている眷属達が食い漁る。

 意外にも散らかさず、キレイに食べている。ヴァンパイアのエキスから上品さも移っているのかもしれないな。元々高貴な種族だし。


「対して経験値も入らなかったな。もっと大量に攻めて来い」


 ……ルシはルシで納得いかないって雰囲気。目的が目的だもんな。

 けどこれじゃ夜もゆっくり眠れないな。睡眠を必要としないディテやルシが居るから見張りの方は問題無いと思うけど、騒がしくなりそうだ。


「要らぬ心配をしているな。この2日間何も無かったのだ。唐突に来る事は無かろう」


「そうかもしれないけどさ。やっぱ色々と不安はあるよ。命の危機に瀕するのは魔王が直接攻めて来た時くらいだけど、色々とな」


「心配性だな。ならば木の上辺りで眠ればどうだ? 今のところ空からの敵はおらんからな」


「木の上か……」


 そう、ここは森の中。人が数人乗っても大丈夫そうな木々はある。

 寝相の方もそんなに悪くないし、仮に落ちても死ぬけど大丈夫な俺や、そもそも死なないルティア。ラナさんは多分落ちる事はない。つまり無問題。

 木の上で休むのはアリだな。


「んじゃ、木の上で過ごすか。ルティアは大丈夫か?」

「木の上? 面白そうじゃ! やるやる!」


 ヴァンパイア自体高所に居るイメージはあるもんな。まんまコウモリの感じだけど。古城の棺桶が一番多いか?

 何はともあれ、今日は木の上で休むと言うアイデアを採用する事にした。


「では風呂じゃ~! テンセイ! 共に入ろうぞ!」

「いやいやいや。何度も言うようにルティアはそろそろ1人。もしくは同性で入るべきだって!」

「なんでじゃー? わらわと一緒に入ると何かあるのかー?」

「いや、ナニもないけど……」


 言える訳がない。言ったら最後、意味を理解しないルティアはともかく多種多様の悪いレッテルが貼られるのは明白だからだ。

 既に思考が読めるディテとルシには聞かれているが、そもそもの次元が違う2人は別に構わない。ラナさんになんて顔をされるか。


「まあそんな感じだ」

「つまらんのー」


 そんなこんなでそれぞれの夜を過ごして翌日。何事もなく木の上で目覚めた俺達は朝支度をし、次の街へと向かう。

 物の数時間。正午を回った辺りでようやく街らしき所が見えてきた。


「この街も酷い有り様だな。人は何人か居るみたいだけど」


 その街も当然と言うべきか荒れに荒れ果てていた。

 しかし優秀なレジスタンスでも居るのだろうか。まだ壊滅的な被害とはなっていない段階だ。

 街へ踏み入り、俺達を見た住人達は蜘蛛の子を散らすように立ち去る。外からの存在は敵って認識になっているのかもな。

 そんな事を考えていた時、


「──覚悟……魔王! よくも俺の家族を……!」

「……?」


 住人か1人飛び出し、刃が欠けた剣をもちいてルシに斬り掛かった。

 ルシはそれをヒラリと避け、迅速に男性の手を後ろに回して拘束する。


「やれやれ。誰と勘違いしているのか。貴様のように小汚い人間は見に覚えがないぞ」

「俺の家族は眼中にもなかったのか……悪魔め……!」

「我は悪魔なんぞと言う低級ではない。初対面で失礼な奴だな」


 そのやり取りを見てハッとする。

 そう言えばルシの見た目は魔王と瓜二つ。魔王を1度でも見た事のある人なら間違えもするか。

 しかも背後には元々魔王の手下だったルティアの眷属達が居るので最近の出来事を思えば分が悪い。

 マズイな……。


「仲間を離せ……魔王!」

「我々が相手だ……!」

「覚悟……!」


 そして瞬く間に囲まれてしまった。

 こりゃ盛大に勘違いされているな。厳密に言えば勘違いでもなんでもなく、全ての元凶がルシなのはそうなんだけど。

 一先ず、最初にやるべき事は弁明かな。

 俺達が立ち寄った次の街。そこも色々と苦労していそうな所だった。

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