異世界5-1 魔物群
──“数日後、滅びた街”。
「……なんだ……この惨状は……」
「凄惨なのじゃ……」
アンデッドとなった人達の街から出て数日。次の街へと到着した俺達は、悲惨な現場を目撃した。
建物は全て倒壊しており、瓦礫の山が形成されている。そして人々の死体を魔物が食している。
来るや否や気分が悪くなる光景を前にした俺へディテとルシが説明する。
「そうだな。我……この世界の魔王がA級からS級相当の魔物を大量に嗾けたのだろう」
「そうね。幹部がやられた今、魔王にも焦りが出て一気に仕掛けたという事よ」
「焦るには少し遅いだろ……。けど幹部がやられてって……俺の所為……」
「そうじゃないでしょう。遅かれ早かれよ。そもそも魔王ちゃんにはエクちゃんとリヒトちゃんの事を把握している筈よ。報告くらいには行っているでしょうし、厳密に言えばエレちゃんとダクちゃんがやられて焦りが出てきたという事かしら」
この世界の魔王から見れば、エクとリヒトの無事は把握済み。なので2人の死によってか。
けど、何れにせよエレやダクの件を思えば俺に原因が……。
(なーに暗くなってんのよ。遅かれ早かれと言ったじゃない。アナタが来ても来なくても結局のところ世界征服が目的だもの。訪れていた未来よ)
(そう悲観するな。魔王へ挑む良き大義名分が出来たではないか)
ディテとルシが励ます……訳じゃないな。なにつまらない事をウダウダ考えているんだと言う感情だろう。
確かに魔王は倒さなきゃならない。足を止めていられないのも事実だ。
『グルル……』
『SYAa……』
「……!」
すると、魔物達が俺達の気配に気付いた。
この現場を見る限り生きてる人間は全て殺せとか命じられているだろうし、この戦闘は避けられそうにないな。
『『『GOGYAAAAAAA!!』』』
「やるしかないか……!」
目にも止まらぬ速度で迫り、ルシが左手で鼻先を止める。
次の瞬間に右手でアッパーを打ち込み、魔物は内部から破裂するように死亡した。
少なく見積もってA級以上の魔物を一撃か。相変わらずの強さだな。
「私は人々に安寧の祈りを捧げてるわ。アナタ達で片付けてちょうだい」
『『───』』
そう言い、数体の魔物を消滅させて膝を着く。
神様らしいが、こんなにも人間想いの神様なんて珍しい。そもそもディテもそんな性格じゃないが、流石に不憫に思ったのかもな。
『KISYAaaaa!!!』
「お主、良いな。妾の馬となれ」
『a……』
一体の魔物が鋭い爪でルティアの体を切り裂き、分離した胴体を食い千切る。
しかし既にルティア自身が魔物の首筋へと八重歯を立てており、血を吸い取る。そのまま肉片から己の血を混ぜ、従順なペットとさせた。
『『『aaaaaaa!!!』』』
「俺もやらなきゃか……!」
速度に反応は出来ないが、リヒトの“肉光変化”にて体を光としてすり抜ける。
瞬時に“肉体変化(槍)”を用いて透過する体を鋭い槍へ。貫いて絶命させた。
「……」
素の能力は常人並みだけど、得られたスキルから常人以上の力で戦えている。
=リヒトやじいさんはA級相当の魔物じゃ相手にならないくらいの実力者という事の証明。改めてとんでもない相手と戦っていたんだな。俺は。
けどまあ、とんでもない存在なら全ての次元でとんでもないのが味方に居る。
『GOAAAAaaaaaa!!!』
「神気を帯びているな。神の一種か。……心底気に食わん」
光のような気配を帯びた白い虎のような魔物を前に、ルシは不愉快そうに眉を顰める。
彼女の神……神嫌いは筋金入り。それは神の気配を宿す者にも例外は無いようだ。
『GYA!』
「……」
虎が吠え、既に倒壊した街を更に崩壊させる。サウンドウルフの遠吠えみたいな破壊力だな。
神気がなんなのかは分からないが、能力が底上げされているのは見て取れる。と言うか、それ並みの攻撃を神気も何も纏わずに放った音狼はヤバかったな。
『GAGYA!!!』
「……」
前足を振り下ろし、正面が裂けるように割れて谷が形成された。
爪の余波でこれ程。遠方の山が切断されたのも確認出来た。
「耐久力の程で言えば……」
『……ッ!』
拳を打ち付け、虎が浮き上がって空の雲が晴れた。
しかし形が残っているな。しかも意識もある。かなりの防御力だ。
「山河を砕く程度の拳では怯むだけか。魔法戦士ではなく格闘家にでもしていたら今ので倒せていたかもしれぬな」
『GAAAAA!!』
空中に浮いたままガパッと口を開き、おそらく神の力であろう光を吸収。刹那にそれが撃ち出され、ルシの居た場所が飲み込まれて貫通した。
同時に溶岩が溢れ、街のあった場所がたちまち火山帯となる。
という事は今の光線、マントル付近まで到達したって事だよな……。
この虎は紛れなくS級相当の魔物だ。
「やれやれ。服が焦げてしまうだろう。貴様はさっさと去ね」
『……!』
そんな光線を正面から受けてもなお無傷のルシは魔力を込めて拳を打ち付け、山河を砕く攻撃でも保たれていた肉体に風穴が空いた。
この状態で生きていられる筈もなく絶命。神の気配を纏っていても死ぬもんなのか?
『『『GOAaa!』』』
「……っと」
のんびりと眺めている場合じゃなかったな。
今も体を光にしているので透過出来ていたが、敵の数は減らさなきゃならない。
複数の光球を放ち、光の爆発と共に数匹の魔物を打ち倒した。
「よーし、お主らは他の者達をやれい!」
『『『ごぎゃあ~♪』』』
そしてルティアはA級相当の魔物達を眷属へ。
素の能力もさることながら洗脳がヤバいな。S級の数が少ないのを見るに、自分が余裕を持って勝てる存在だけが配下に置けるのか。まあS級の魔物は元々少ないけど。
「これで全てか。街一つ壊滅させるには過剰戦力だが、我を相手にするには不足しているな」
「そりゃ大魔王相手と考えたらな。この軍隊も魔王から派遣された訳だし、実力差は明白だ」
一通り暴れ回り、場の魔物達は殲滅。ディテの祈りも終わったらしく、死した人々の魂が浄化されたのを感じる。
……いや、マジで感じるな。これもディテの力からなる所業か。
ともかく、この街に立ち寄る事は出来ない。なので俺達は先へ──
『GYAaaa!!』
『『『──』』』
「……!」
行こうとした刹那、ルティアが従えた魔物達の頭が刎ねられた。
一体何事かと振り向き、目の前には風穴が空き、死した筈の虎が立つ。
『GURURU……』
明らかに様子がおかしい虎。そもそも間違いなく死んでいたのだから変なのは全てがだ。
現場の雰囲気を読み取り、ルシが状況説明をする。
「成る程な。この虎、神気の影響もあって何度か復活出来るようだ」
「神気ってそう言うものなのか!?」
「そう言うものだから今現在の光景があるのだろう」
「確かに……」
神の力。そう呼ぶには大層な事と思っていたが、まさか復活特典付きとは。俺が言えた事じゃないけど。
神々しい虎は今一度巨腕を振り抜いた。
「……!」
《認証しました。新たなスキルを登録します》
もはやノルマと言ってもいいかもしれない。俺は死に、またスキルを獲得。
遠距離に届く飛ぶ爪のスキルか。威力は相変わらず凄まじいけど、汎用性は高そうだな。
「テンセイ~。胴体が分かれてしまったぞ。眷属達ものぅ!」
『『『くぅーん……』』』
「……そうか。眷属もヴァンパイアやグールの一種だから頭を刎ねられたくらいじゃ死なないのか」
テケテケが如し、上半身のみで這いずるルティア。腸っぽいものも飛び出ている。
グロいな。こう言う趣味趣向の人には受けそうな光景だけど。
頭を刎ねられた眷属達は無事。相変わらず不死身を付与するヴァンパイアの洗脳は末恐ろしい。
『GOGYAAAAAAA!!』
──まあ、ヴァンパイアも恐ろしいけどもっと恐ろしいモノは……。
「少しは楽しませよ。虎……!」
『……!』
身内に居る。
飛び掛かった虎渾身の一撃を片手で受け止め、地面が耐え切れず陥没。粉塵を巻き上げ、ルシは手を横に薙ぎ払った。
『GOGAa……!』
それによって悲痛な声を上げる虎。
腕は引き千切られており、ルシは懐へと踏み込んだ。
「少しはパワーアップしたのだろうな?」
『GAAAAA!!!』
拳と巨腕が衝突し、生じた圧力で周囲の瓦礫が舞い上がる。
瞬時に攻め入ったルシの膝蹴りが打ち込まれて更に天へ。そのまま両手に魔力を込め、膜にて虎を覆った。
『GA?』
「貴様もそこそこ強くはあるが、力が戻りつつある我の敵ではなかったという事だ」
『GAAAAA!?』
覆った魔力を徐々に圧縮。次の瞬間にはブチュン! という音と共に潰れ、魔力の球体の中が赤く染まる。
力が戻りつつあるルシ。これでも本来の1割にも満たないが、もはやS級相当の魔物であっても相手にならなくなっているみたいだ。
「さて、移動するか。魔王は近い」
「ああ……」
そう、もうすぐ魔王と相対する事は分かっていた。
つまりこの世界も終わりという事。次元中に散らばっているし、本当にこの世界はまだ初段に過ぎないのだろう。
俺達の旅。それは1つの幕が降りる所だ。……まあ、幕が降りてもまた別の幕が上がるんだけどな。
所有スキル
・───
・光球・光剣・肉光変化・光線・光蹴
・遠吠え・お手
・魔弾・魔衝波・火球・肉体強化×7・溶岩球・大水球・暴風球・大岩石
・モーニングスター(武器)
・熱光線・熱爆発・火炎鞭・炎爆球
・飛翔・貫通・風圧・メテオウィング
・自爆発・爆破・大噴火・付与爆破・核分裂・超爆発
・火炎息・雷降・暴風波・洪水衝・突進・流星・槍尾・崩星光波
・直視の即死・肉体変化(槍)・認識発狂
・空想顕現(槍)・インフェルノ・反射・無限鉄矢・鋼鉄圧球・死付与・蘇生阻止・存在抹消・石化
・闇操作・闇突・闇箒・ミニブラックホール・闇斬
・飛爪斬




