異世界4-12 戦いの後
「いやぁ、すまない。私が倒すと意気込んでいた割には最終的に危害を加えそうになってしまい」
「いえ、お気になさらず。相手が悪過ぎましたよ。純ヴァンパイアのルティアを上回る洗脳能力持ちなんてこの世界の上澄みも上澄みでしたから」
「ハハハ、フォローをしてくれてありがとう」
ダクを倒した後、俺達は日傘を差した街の人達に見送られていた。
結局一睡も出来なかったが、まあいいや。気分は悪くないしな。
なんなら街に泊まって行くのも良かったけど、ダク。つまり魔王軍幹部最後の1人がやられたとあっちゃこの世界の魔王がいよいよ黙っていないだろう。
そんな訳で、徹夜明け状態の俺達は今日中に街を立ち去る事にしたのだ。
「そう言えばこの街の方々。アンデッドになってしまったけど、共存の方向性で行くんですね」
「ああ。元々、既に1度死んでしまった者が多い。その上で生かされていたが、自由は無かったからね。日光には弱いが、日傘があれば対処可能。それに最近のヴァンパイアやグールは日光で消滅しなくなっているんだ。改めて家族達と共に過ごすのを選んだのさ。既に家族が居ない私も余生を謳歌しようと思っている」
日傘を差しながら街行く人々。ご老人をヴァンパイアやグールが先導し、雑談などをしている様は妙におかしいな。
「アンタ、ヴァンパイアになっちまうなんて。彼女が居るってのは嘘だったのかい?」
「あ、いや……それは……」
「戦争から帰って来たら結婚するなんて言って、孫の顔を見るのが楽しみだったと言うのに」
「悪ぃ母ちゃん。死ぬかもしれないから見栄張っちゃって……」
「結婚前に死んでしまってなんて不憫なって思ってたのに……アンタが帰ってきても音沙汰無いから二重で心配だったんだよ」
「まさか君がグール……いや、グーラだったなんて……純潔は保ち続けているって言っていたじゃないか……!」
「ごめんなさい。私、過去に何人かの男と付き合った事があるの。不潔と思われたくなくて……」
「それならそれで受け入れる……嘘を吐かれた事が悲しいんだ……」
……まあ、ヴァンパイアやグールの条件的に色々と真相が明かされて苦労する人達も居るみたいだけど、取り敢えず共存の方向で話自体はまとまっているようだな。
それは何よりだ。
「君達はこれから何処へ?」
「最終目的は魔王の討伐なんで、このまま魔王軍の方に行きます。ここが魔王軍幹部の街だったって事もあって巻き込む可能性もありますが、もしそうなったらすみません」
「それについては大丈夫だ。聞いた話じゃ魔王軍の残り幹部はもう居ないと言う。魔王が直々に攻めて来ない限り、ヴァンパイアやグールの力を手にしたこの街の人々はやられないさ」
実際、確かにその通りだろう。
流石にルティアよりかは劣るが、1人1人がそうなる事で下手な軍隊よりも強大な戦力が得られた。
加え、この街の人々はそんなに野心がある訳でもないので力に溺れるという事はまず無いだろう。なんなら死者の時に死ぬ苦しみは知った筈だし、粗暴な冒険者や兵士より余程話も分かる。
「ではお気をつけて。アナタ達に幸あれ」
「ハハ、ありがとうございます。その言葉が力になりますよ」
手を振り、最後に会釈して別れる。
魔王軍幹部が経営する街にアンデッドが共存する街。俺達ってもしかして傍から見たら変な街を作り出してしまっているのかもしれない。まあ、戦争国家とかを生み出さないだけマシだろうさ。
表向きは平穏だったが、内情。裏側にて支配されていた街。そこは今日から人間とアンデッドが共に生きる街となる。
あくまでこの世界の話だが、残るは魔王1人。ルシとディテの力を取り戻す旅はまだまだ続くのであった。
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──数日後。
「ここが、今度こそ魔王軍に支配されている街か!」
「なんだか全体的に暗い雰囲気ですね。勇者様」
「見れば日通しが悪くなってるわ。嫌な感じ」
魔王軍幹部が経営する街から移動した1人の若者と複数人の女性が、何やら暗い雰囲気の街にやって来た。
街の入り口から入り、第一住人へと話し掛ける。
「すみません。聞きたい事が……」
「……はい?」
「……!」
その住人を見、若者達はギョッとする。
血色が悪く、生気を感じない出で立ち。者達は警戒を高め、剣や杖を握る。
「アンデッドモンスター……!」
「この様子……グールの一種です……!」
「おのれ……既に手遅れだったか……!」
臨戦態勢に入る3人を前に、男性は左右に手を振って話す。
「いやいや、落ち着いてくださいよ。確かにまだ知名度は無いけど、この街で私達もちゃんと生きてるんだから。此処はそう言う所なんですよ」
「え?」
会話が通じる事に呆気に取られていると、建物の中からワラワラとアンデッドが現れる。
「……っ。ヴァンパイアにグールにグーラ……!」
「何れも強力な魔物です……!」
「くっ、囲まれた……!」
更に警戒を高める。アンデッド達は口を開いた。
「ようこそ、此処はアンデッドと人間が共存する街だ」
「初めて来る人はそうなっちゃうよねぇ~」
「まあまあ、敵意は無いんで武器を収めて」
「「「…………え?」」」
3人は素っ頓狂な声を漏らす。
曇り空から日差しが降り注ぎ、アンデッド達は傘を開いた。
警戒する3人の近くでは道行くアンデッドや人間達が雑談をする。
「いや~。やっぱり街の構造的に日光が入りにくくはしてあるけど、曇りの日以外は大差無いね~」
「完全に遮断すると生者達の健康上に問題が生じるし、難しい塩梅だなぁ」
「今後うちの母ちゃんが死にそうになった時ってさ、グーラにしてやった方が良いのかな?」
「さあ、どうかしら。と言うかアナタ、私が前の夫と別れたからって腐れ縁で付き合ってやってるけど、デートの日にも母ちゃん母ちゃんって。マザコンか!」
「腐れ縁って……ハハ、文字通りな俺」
「アホ!」
「痛っ……くはないけど心が痛い」
「ねえアナタ。子供は5人くらい欲しくなぁい?」
「君は本当に……いや、なんでもない……けど、生者の身にもなってくれ……グーラの君は出産の痛みは無さそうだし良いんだろうけど、生きてる身では色々と疲れるんだ」
「じゃあアナタもグールになれば良いのに」
「せめて生きている間は天寿を全うしたいよ……君が出来なかった事を僕がやるんだ」
「……! アナタ……」
「嘘は嫌いだからね。有言実行させてくれ」
「うん!」
三者三様。様々な会話が執り行われる。
その全てが生者とアンデッド。奇異な光景とも取れるそれに3人は完全に毒気が抜かれていた。
「勇者様……多分この街は大丈夫そうです」
「そ、そうだな。街全体の雰囲気は暗いけど、なんか全員楽しそうにしてる」
「……今日はここを観光して行きましょうか」
「「賛成~」」
敵意もなく悪意も感じない街に一転して観光気分へと変わる。それもまたこの街の魅力だろう。アンデッド達の為に景観は暗くしてあるが、明るい街である。
それを見ていた男性──グラドは言葉を続ける。
「それではごゆっくり。人間とアンデッドが共に暮らす街。ひんやり涼しく快適だ」
「「「はい」」」
それだけ言い、花束を片手にフラッと立ち去る。今日もまた、妻と子の墓参りにでも行くのだろう。
アンデッドと人間が共存し、家族である街。アナタも一度、訪れてみては如何だろうか。